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鬼切怪奇譚  作者: 藤崎要
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第三十二話 黒(クロ)



 遠藤のスマホに福島から通知が入った。


福島「君にこんな事を頼めた義理じゃないんだがね。今、私の周りで信頼できるのは正直、君だけなんだよ」


遠藤「いえ、それが組織というものなんで。わかってます」


福島「なら知ってるんだろ?私も君の左遷に関わってるのを」


遠藤「ええ、でもこうして自分に頼むだけの理由があるって事なんじゃないですか?」


福島「あぁ、申し訳なかった。今更謝っても済まないことはわかってる。ただ、私はもう長くは生きられないだろう。そこで、君に妻子の事を頼みたい。とりあえず官舎からはすぐに出るように伝えている、後の事は君に任せたい。最期の頼みだと思って聞いてもらえないか?」


遠藤「はい、本部長ただちにそちらへ向かいます。今どちらにおられますか?」


 そして現在、遠藤は福島の家族を乗せ車を何処かへと走らせているところである。


福島の妻「あの、遠藤さんお久しぶりです。今回のこと主人からは詳しく話を聞かされてないもので、とにかく遠藤さんを頼れと。いったい主人に何があったんですか?」


遠藤「私も詳しくは聞いておりません、おそらくソレを知ることによって私も奥さんも良くないことに巻き込まれることを考えての事だと思います」


福島の妻「そうですか」


遠藤「お子さん、大きくなられましたね。以前会ったのは赤ん坊の頃だったから覚えて無いと思いますけど」


福島の妻「ええ、もう小学6年生になります」


福島の子「ねぇ。この車、何処へ向かってるの?」


遠藤「ちょっとね、遠い所。オジサンが昔、住んでいた家なんだけどね。しばらく其処で、お母さんといてもらえないかな。おじさん、君のお父さんに頼まれたんだ」


 そして車はその後、高速道路を降りてから田畑が見える田舎道を30分ほど走り、やがて一軒の家の前に遠藤は車を止めると二人を車から降ろした。


遠慮「ここです。急だったもので掃除もそこそこにしかできませんでしたが、一応ライフラインは使えるようにしておいたんで。食料や生活用品なんかは後で届けますから」


福島の妻「なにからなにまですみません」と頭を下げた。


福島の子「犬がいる、飼ってるの?」


遠藤「うん、元警察犬の賢い犬だよ。オジサンがいないときでも、彼が君を守ってくれるから。クロって名前だよ」


福島の子「クロちゃんね」


クロ「クロさんな?あぁ、オレは強いぞ。そこの刑事よりもな」


遠藤「わかってます(笑)頼りにしてますよ」


 福島の子は遠藤が犬の鳴き声にあわせ、まるで理解してるかのように言葉をかわしているのを不思議そうに見ていた。


遠藤「あと一つだけ伝えておくことがあります。ここは私しか知らない場所なんで、万が一他に誰か来ても絶対会わないようにしてください。外部との連絡も同様に控えるようお願いします、それが仮に福島さんご本人を名乗られる相手であってもです。念の為お二人のスマホを預からせていただいたのもそのためで、事がおさまるまでは私との連絡も代わりにお渡ししたそちらのスマホからでお願いします。なにぶん、お二人の安全を守るためなんで」


福島の妻「主人と連絡もダメなんですか?」


遠藤「それとコレは奥さんに。本部長から手紙を預かってます。読んでください」


 福島の妻はその手紙に目を通した。そしてそれ以上はなにも尋ねることなく遠藤に深々と頭を下げ子供を連れて家の中に入っていった。


遠藤はそれを見届けると車を返し、来た道を戻るのでした。


 第三十二話(終)

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