孤児院運営する二人
「俺と魔王で孤児院、ですか?」
えぇ、と村長が答えた。長きに渡る戦いの中で暴走した魔獣に村が襲われたりなどで孤児が出てしまうことがある。その村ではできる限りそういった孤児を引き取っているらしい。領地の運営で出た利益「基本に運用しているそうだ。
「現状お二人にお出しできる給金は少ないのですが、村の作物などもありますので、衣食住は提供できるかと」
提示された給金の額は成人男性が一月に生活に必要な額のおおよそ三分の一、だが衣食住が完備されているとなれば十分だろう。しかしーー
「何故、流れ者の二人にそんな大役を」
「魔王様は元々交流がありましたし、ロック様に関してもお噂は聞いておりましたので噂程度ですが人柄についても存じておりました」
「しかしーー」
「あとは本音を申すと、何もないあの子達に生きていく力をつけてやって欲しいのです」
本心はそういうことだった。村にいる人間でできる教育にも限りがある。そこで外部から力のある人間を取り入れていきたいということだった。
「私は引き受けても構わないわよ?あの子達なら何度か遊んだことはあるし怖がらないと思うわ」
「おぉ、ありがとうございます」
俺はーー、と断りの言葉を言いかけて考えた。己の能力を考えてみる。理論立てた身体操作術、サバイバルスキル、工学や元の世界の知識群、これらを活用すれば教育は可能だろう。そしてその先はーー。
「俺も引き受けさせてください。お願いします」
「よろしくねぇ、まさか私を倒した張本人とこんなことになるとは思ってななったわぁ」
「こっちもだ、これからはよろしく頼む」
そう言って彼女、また魔王と握手した。
「それで、何と呼べばいい?魔王と呼ぶわけにもいくまい」
そう聞いてみると数巡して、
「……ジュリア、ジュリアにしてちょうだい」
そう答える魔王、ジュリアは苦い顔をした。
「何か、思い入れでも?」
「ーー単に昔人間に化ける時に使ってた名前ってだけよ」
「ジュリア、いい名前じゃないか」
話がまとまったようですね、と村長が言って腰を上げた。これから、孤児院に案内してくれるという。顔合わせや既に手伝いをしている人との顔合わせもあるそうだ。
夢幻に思えるふざけた復讐譚はこうして魔王と孤児院を運営することから始まった。
孤児院に勤めるまでがプロローグです。