消え行く世界で1
「……やっぱり、車に乗らない?」
「運転免許を持ってないだろ。まだ高校生なんだから。」
「どうせ、警察なんていないのに……」
「乗り方知らないだろ?それに時間はあるんだ。自転車でも問題無いだろ」
「……君は私が太ももの筋肉がっちりの女になってもいいの?」
「どうせお前は膝枕なんてしてくれないだろ」
「君が望むならしてあげなくも……」
呟くような小声だ。
「何か言ったか?」
「何でもない!」
「そうか」
「……」
「……」
少年と少女は、炎天下の中で自転車を漕いでいた。少年は消滅の原因を探して。少女は幸せの為に。
「休憩にするか。もう1時になる」
腕につけている時計は、昨日の夜に泊まった民家にあったものだ。
「今日のお昼ご飯は?」
「ぬれ煎餅」
「……それ、湿気った煎餅だよね?昨日の夜も確かそれ食べたような」「ストップ。食べたくないなら食べないでもいい。でも食べる気を削がないでくれ。俺だって食べたい訳じゃないんだ、これしか無いんだ」
その煎餅も、昨日の夜に泊まった民家にあったものだ。
「うう……せめて栄養のある物を食べたいよ」
「ビタミン錠剤があるだろ」
「そういう物じゃ無くて!」
「わがまま言うな。俺だって食べたいさ。でも、無いものは無いんだ」
ビタミン錠剤などの栄養錠剤をいくつか水で流しこみ、ぬれ煎餅(湿気った煎餅)を食べると、2人は再び出発した。自転車で……
ーーー
「もう夜だな」
「……」
「そろそろ今夜寝る場所を決めないと」
「……」
「……大丈夫か?」
「疲れた。君、家探しは任せていい……?」
「分かった。とは言っても、いつもどうり適当な人の住んでない民家の窓割って侵入……間借りするんだけどな」
2人はいつも、人のいない民家に侵入(間借り)して夜を過ごしている。なお、食料や水の調達もそこでしている。人間のほとんどが消滅して半年、2人は緊急時用の防災セット(水や乾パン、ライトなどを纏めたもの。)を民家から探し出して使う事で生き延びて来ている。
「あの家でいいか……えい」
近くの家の窓に石を強く投げつける。窓は空いた(割れた)、これで寝る所の調達は完了だ。
「……なんどやっても抵抗あるね、そういう事をするのは」
「そうか?俺は慣れたぞ」
「…………」
「どうした?そんな目で俺を見るなよ。悪いことしてる気分になるだろ」
「ねぇ、私には君がこんな生活に適応してきてる気がするんだ」
「そりゃ、こんな生活はじめてもう3ヶ月だからなぁ」
2人が出会ってから3ヶ月が経っていた。未だに消滅に関する情報はほとんど掴めていない。ただただ自転車でどこかへ向かって進んでいるだけだ。どこかは、本人達にもわからない。
「長かったね……」
「まだこの生活は続くぞ。もしかしたら死ぬか消滅するまで続く」
「憂鬱な気分になりそうだよ……はぁ」
「なってるだろ。ため息なんてつくなよ、幸せが逃げるぞ」
「そんなの迷信だよ。信じてるなんて子供だね君は」
「年齢同じだろうが」
「精神年齢はかなり離れてるよ」
「それは俺の方が年上だよな?」
「私の方が年上に決まってるでしょ」
「今の生活方法を考えたのも消滅に関して考えてるのも俺だよな」
「私は幸せのために君といるの。そんなこと考える必要無いの」
「俺といたって幸せにはなれないぞ?」
「君のそばにいられるだけで幸せなの……」
小さな声で呟いている。
「何か言ったか?」
「何も言ってない!」
「そうか」
「……」
「……」
「もう君なんて知らないっ!」
「それは嫌だな。お前がいなくなったら俺は1人になる」
「そ、そう。私がいなくなると嫌なのね。そう……しょうがないなぁ、君は」
「なんか少し歪んで伝わってるような……でもまぁ、お前がいなくなるのは嫌だし間違っては無いか」
「今のもしかして……」
「告白とかじゃねーぞ。お前がいなくなったら俺は1人になるだろ?」
「なんだ……て!べ、別に告白なんて期待してないよ!」
「はいはい。」
「適当に流さないでよ!」
「わかったわかった」
「返事は1回!」
「はーーい」
「ぐぬぬ……」
「口で言うなあざとい」
「なんでよ!」
2人の夜はこうして少しづつ明けて行った。




