疑問
語り終えた少女は、新しい紅茶をそれぞれに配って少し一息ついていた。私も珍しく集中して話を聞いていたため、ホッと差し出されたカップに口をつけた。
――それにしても、壮大な話……!
赤の国の成立に不死鳥が関わっているのは、小さい頃から“不死鳥伝説”という名の昔話で何回も聞かされた話だった。しかし改めて他人の口から聞かされると、それがいかに凄いことなのかやっと分かった気がした。
――それは良いとして……。
結局この話と自分達がどう関係するのか、過去の記憶とは一体何なのか、私には何も分からなかった。必死にその間を埋める術を求めて頭を働かせていると、先に少女が口を開いた。
「皆さん、この世界に国が誕生した経緯はご理解頂けましたかしら?」
うんうん、と私とオルが頷く中、イザムがブリリアントを見ながら言った。
「――一つだけ質問しても良いでしょか?」
「どうぞ、イザム兄様」
「僕は……この世にいらっしゃる神は皆、天から舞い降りて来られたのだと思っていました。 そして、精霊というのも神の一人だと考えていました。 しかしブリリアントの話では、それは違うと?」
イザムの言葉に、そう言えばそんなこと言ってたな……と思い返しながら私はブリリアントを見た。
「ええ。 白、赤、青、黄の国の神は確かに天より来られました。 しかし緑・橙・紫の国の神はこの世界の自然から生まれたのです。 例えば私のパートナーである精霊は森で生まれた、森の神なのです」
「なるほど! ありがとう、ブリリアント」
納得がいく答えを得られたイザムは、笑顔でソファに座り直した。
「それでは次に、神々と私たちの関係ですが……」
ブリリアントの言葉に、私はまたはっとそちらに注目した。
「神は舞い降りられる時に、一人ずつ気に入った人間を選びました。何故なら神は、通常一般の方からは見えない存在だからです。 神は選んだ人間の中に宿ることによって、自らの意思や力を初めて伝えることが出来るのです」
「――選ばれた、人間……」
「ええ。 選ばれた者は、幾度となく転生を繰り返して今日までずっとその役目を果たしているのです」
ブリリアントはまっすぐ、私を見つめながら言った。
――転生……。
普段使わない単語に反応して、昔昔に聞いた死後の話が蘇ってくる。人は死ぬと、体と魂が別々に分かれてしまう。死後の魂は再び、どこか別の場所で別の人間に宿るという……。
「転生した後は通常、過去の記憶は消えて全く新しい人間として生きていきます。 しかし選ばれた人間は、違うのです。 時が来ると、前世、前々世の記憶――つまり過去の記憶が蘇ってくるのです」
それは様々な事柄が一つに結び付いた瞬間だった。
「私たちがその、選ばれた人間なんだね」
私が重々しく言うと、ブリリアントは頷いた。
「……」
「……」
「……」
豪華な部屋を、しばし奇妙な沈黙が覆った。しかしブリリアントの話はこれで終わりではなかった。
「最初の方こそ神々は積極的に私たちを介して、国を動かしてこられました。ですが時代を重ねるごとに、人は神の手助け無しに国を治めることが出来る様になって行きました。 ですから私たちはそれぞれの国の片隅でひっそり、見守るだけで良かったのです。 そのはずでした。 それなのに……」
そこでブリリアントは言葉を切って、私をまっすぐ見つめて言った。
「どうして皆様は、ここに来られたのですか?」




