お茶会
「――精霊の……」
「――花嫁……」
「……ブリリアント?」
茫然とする私たちに少女はにっこり笑って、以後お見知りおきをとのたまった。そして未だ固まったままの私たちを置いておいて、着々とお茶会の準備を始め出した。
「あのー……精霊の花嫁様?」
混乱しつつも、どうにか平静を取り戻そうとイザムが真っ先に口を開いた。
「あらいやだ、イザム兄様ったら。 私のことはブリリアントと御呼び下さいませ。 それに敬語を必要ありませんわ」
「ブ……ブリリアント」
「うふふ。 さあ、準備が整いましたから皆さん席にお着きになって下さいませ。 ――あ、イザム兄様とオル兄様は私の隣にどうぞ」
そう言って少女は、ちゃっかり二人の肘を握って既に席へと誘導している。残された私は……。
「レナ様はこちらへどうぞ」
「……あ、ありがとうございます、ギーヤさん」
ギーヤさんに導かれ、共に花嫁の向かいの席へと着いた。
「……」
「……」
「……」
――何これ気まずい。
私たち三人が一体どうしたものかとこっそり顔を見合わせている中、マイペースすぎる少女は手ずから蒸らし終えたポットから良い香りのする紅茶を淹れてくれた。
「どうぞ、レナ様」
「あ、ありがとうございます……」
そっと手に取り顔に近付けると、優しい花の香りが私を包んでくれた。一口呑めば体の芯からほんのり温まってくる気がして、そこにいる全員が心なしかリラックスした様だった。
――紅茶って凄いなあ……。
能天気に楽しんでいた私は、向かいでにっこり微笑む少女と目が合ってしまった。
「うふふ。 気に入って頂けたかしら」
「え、ええ。 とても」
「それは良かったですわ。 では早速、本題に入りましょうか」
「――!」
「――!」
「……!」
その言葉に、各々くつろいでいた私たちは一気に気を引き締めて少女を見た。
「レナ様、イザム兄様、オル兄様……。 どうして求神としての持ち場を離れて、この地へいらしたのですか?」
「え?」
「求神?」
「……持ち場?」
三人それぞれに聞き返すと、少女は少し残念そうな顔になった。
「……ギーヤ」
「ええ。 やはり皆様、過去の記憶がお戻りになっていないようです」
「過去の記憶って何……ですか?」
「……」
「……」
私は純粋に何のことかさっぱり分からなかったのだが、イザムとオルには何か思い当たる節があった様
だ。二人は難しい顔をして、何かを考えていた。
――え、何、何を言ってるの?
私は突然襲ってきた孤独感にさえ悩まされながら、思わずすがるようにギーヤさんを見た。すると彼は、溜め息を吐きつつ花嫁にこう言った。
「ブリリアント様、最初からご説明差し上げる必要があるようです」
「その様ですわね。 僭越ながら、私からさせて頂きますわ」
こうして、少女による長い長い昔話は始まった。




