第七篇「駅に着くまで手を繋いだりイスに割ると肩をくっつけられて結局ゲームの話をする話」
「なにも殴ることないだろう?」
頬を押さえながらレイジはぶつぶつ文句を言う。
天愛も顔を少し赤くし項垂れる。
「叩くのはやりすぎましたが部屋に戻るなら一回くらいノックしてください。あそこ私の家なんですから……」
まだ見える自分の家を人差し指で指さす。
レイジも頭の後ろを掻く。
「確かに人の家だからな……無神経だった」
ハァとため息を吐く。
「で、デートって言うがどこに行くんだ? まだ夏前だから映画だってロクな奴やってないぞ」
赤くなっていた天愛の顔が華やぐ。
「安心してください♪ 夏になったら特撮からグレしんまで存分に付き合わせてあげますから♡ 来年の春にはトラえもんですよ! 残念ながら冬のW仮面セイバーの映画は終わって観る映画が一つ減りましたけど」
「……」
こいつ趣味が男の子だなとレイジは呆れる。
首を一回回し天愛の可愛い顔を見る。
「そもそも俺は映画は一人で観る派なんだが?」
「安心してください」
肩に手を置いて左手でサムズアップする。
「私も一人映画派ですが先輩となら例外です♡」
「さいですか……」
「ちなみにサクトさんが誘ってきたら親戚に不幸がやってきます」
「そりゃバッタバッタ人類の死屍累々が出来そうだな」
勝手に殺される一族が可哀想なのかそれとも親類が絶滅する勢いでデートを断られ続けられサクトが可哀想なのかレイジは悩んでしまう。
(やっぱり今度お気に入りのメイド喫茶に連れて行くか。断っても無理やり連れて行くが……)
しばらく歩いていると天愛が普段利用する駅まで到着する。
レイジはポケットから財布を取り出す。
「えっと……金は」
「……」
不躾に天愛の視線がレイジの財布の中を覗く。
「小銭しかないですね?」
「勝手に人の財布を見るな……あ、行き帰りとメイド喫茶の分しかないな? お前が連れていく場所って金かかる?」
「先輩だけならお金はかかりません♡」
いつも通り大きな胸を張って偉ぶる。
すると天愛は背負ってたカバンからがま口財布を取り出す。
「見てくださいこのお金を♡」
「財布がぱんぱんだな? いくら入れてるんだ?」
「二十万くらいですかね……」
「に、二十万?」
「少し持ちすぎですが今回は先輩とのデートも兼ねてますし、なによりも先輩は上げチンの可能性がありますからこれだけでも足りない可能性があります」
「上げチン? 足りない? お前、俺をどこに連れていくつもりなんだ?」
「背中のバッグを見て気付きませんか?」
「うん?」
改めて見ると背の低い天愛には不釣り合いにデカくって立派なまるで……
「それ登山バッグじゃん!」
「ある意味登山かもしれませんね♪」
レイジの手を握りホームを指差す。
「さぁ先輩! 私達は今デートと言う名の巨山に昇るんです!」
自分の発言に酔ったのか天愛の目がうるうるする。
(たぶんサクトも同じ状況で同じ事を言うんだろうな……)
なんで俺の周りってこんな迷惑なやつが揃うんだろうとレイジは自分の人徳に呆れる。
腰に手を当て天愛の目を見る。
「で、どこに行くんだ? 金がかかる場所は俺は入れないぞ」
「まぁまぁ♡ 街は行くだけでもたのしいじゃないですか。田舎者には?」
「……否定はせん」
田舎者にとってごった返す都会は祭りに参加した気持ちで結構楽しいものである。
駅のホームを抜けると天愛はレイジの手を離し、街まで連れて行ってくれる電車を待つ。
「……」
スマホの時刻表を見て後十分は待たないといけないと理解する。
天愛は思い出したように天を見る。
「そういえば先輩、列車でゴーっていうゲーム知ってますか?」
「なんだよそれ?」
「あ、やっぱり知らないんですね?」
いたずらっ子のようにふふっと笑う。
「この無知っ子さんめ♪」
「人をエロ同人みたいな呼ぶな」
「でも好きでしょう先輩……陵◯展開?」
「伏字が必要な言葉を使うな! 人が聞いてるだろう!」
「なら教えてあげましょう! 列車でゴーとは……」
「あ、来たぞ、列車……」
ぷぉんと少しだけ耳障りな音を立て列車が駅に到着する。
天愛は出鼻を挫かれた顔で頭を掻く。
「人が気持ち良くなれるタイミングで。まぁ列車の中で話します」
レイジの手を掴み無理やり列車の中へと引きずり込む。
「聞かせましょう! 歴史を動かした名作ゲーの名前を!」
「ゲームの話するときはいつも以上にテンション高いよな、お前……」
「実際これが素ですからね」
「斜に構えてた状態はむしろ心を殺してるってことか?」
ため息を吐き列車の中の横並びの一列のイスに座る。
「よいしょと♡」
天愛もわざとレイジの肩に自分の肩をくっつけイスに座る。
「それじゃ話しますね。歴史的神ゲー!」
「はいはい」
オタクって説明好きだよなと改めて呆れてしまうのだった。
つづく




