1話「ライバル」
1話「ライバル」
最近弟に彼女ができたらしい。
家でポテチを齧りながら、中だるみと言われる高二の夏休みに、英気を養っていると、聞き慣れない声が聞こえて、私、如月公佳は警戒した。
「お邪魔しまーす」
私は、ポテチを呑み込むと、部屋にダッシュして、ダル着を着替えた。
幸い化粧は落としていなかったから、唇についたポテチの油をぬぐい、口紅を塗り直した。
「公佳姉ー」
慌てて私はリビングに出た。
「ようこそ」
私は顔を引き攣らせないように、とても頑張って顔を作った。
「ポテチ食べてたんじゃないの?」
「ごめんごめん。片づけるね。友達???」
「いや、彼女」
「こんにちは迅くんのお姉さん」
「こんにちは」
やばい。可愛い。まずいな。私は、いやらしくない程度に服装や居住まいを見た。
背は高め、細め、ロング、スカート短め、化粧割と白め。
まずいな。かぶってる。私とかぶってる。
「公佳姉は、リビングにいる感じ? なら俺らは部屋に行っているから。母さんには……」
「リビング使っていいよ。もちろん。迅のお客さんなら、私のお客さんだもの。ねえ、そうですよね?」
私は迅の彼女に笑顔を向けた。
澄ました顔しやがって。
「糸葉です。宮鬼糸葉」
「如月公佳です」
手でポテチの袋を整えて仕舞い、一人ティーセットを片づけて、お客さん用の茶器とお菓子を出す。
使用人が用意するのは当たり前とでもいうように、迅はリビングの椅子に座ったまま、糸葉ちゃんと談笑していた。
「ねえ、悪いよ」
「いいんだよ。姉が作る紅茶は美味いから」
「そういうことじゃない。私もお手伝いした方がいいんじゃない?」
「大丈夫。うちのキッチンのことあんまり知らんでしょ?」
「全く、甘やかされているんだから」
そう。甘やかしているのは私なのだ。呆れたようにため息をつく糸葉ちゃんの反応は、至極正しい。
紅茶を淹れ、ハーゲンダッツを用意し、小さなスプーンを数個グラスに突っ込んで、カランと音を立てながらテーブルに出す。
糸葉ちゃんと目が合う。
糸葉ちゃんは綺麗な笑顔を浮かべた。
小顔で、髪が長いから、どちらかというと意識しているのは韓国系。
私も同じ路線で行っているが、果たしてどちらが可愛いのか。
「じゃあ、ごゆっくり」
私は、二人に軽く手を振って、自室に戻った。
とりあえず布団にダイブすると、足をばたつかせて、悶絶していた。
あの、弟の顔よ。
自信満々にできた彼女の自慢をする尊大さ。
可愛すぎる。
で、なになに? 連れてきた彼女のタイプは、お姉ちゃんと一緒?
お姉ちゃんのこと、好きかよ。
はーあ。姉と結婚できないって知ったら、姉に似た女の子と付き合うなんて。しかも年も一緒っぽいし。
糸葉ちゃん、年上だよね?
どうやって知り合ったのかな?
私は、想像の中で、十倍くらいロマンスを膨らませて、自分の胸の膨らみにシャツの上から触れた。
十五歳だけど、もう170センチはある迅のことを、かっこいいと思うのは、家族の贔屓目を割り引いたとしても、ふつーのこと。
小さい頃はすっごく可愛かったし、今はちょっと反抗期だけど、その反面、友達には優しいという評判を聞いている。
高校に入って少し経った。
彼女を作るにはいい時期だ。
先輩を射止めた?
どうやって?
ノックの音がした。
「公佳姉ー」
びっくりした声を呑み込んで押し殺し、私は返事した。
「何ー?」
「ちょっと買い物行ってくる。外暑いから、糸葉残していくから」
「はいはい。わかったわかった」
私は、扉を開けると、リビングに向かった。
糸葉ちゃんが緊張した面持ちで固まっていた。
「ごめんなさい、糸葉ちゃん」
「すみません、お姉さん」
「同い年だよね?」
「17歳です」
「私も、17」
私は、椅子に座ると、迅のティーカップに紅茶を注ぎ、紅茶を啜った。
迅の目の前でやったら、絶対喧嘩になるやつだ。
「迅の先輩?」
「そうです」
「どうして迅と付き合ったの?」
「可愛いから」
糸葉ちゃんと私は、くすくすと笑った。
「あれで、頭いいところあるんですよ?」
「塾行っているからね」
「数学なんか、よく知っています。この前、数学の宿題でわからない問題があった時、悩んでいたら、さらりと教えてくれたんです」
「イケメンじゃん」
「ホントそうなんですよー」
私たちの視線は絡むことがなかった。
はっきりとわかっていたのだ。
私たちは、ライバルだということが。




