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大嫌いな後輩女に脅されて付き合うフリをするハメになった話  作者: 鳩見紫音
傘折密季は私の心を

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12/17

8

『傘折……って名前だったよね? お父さんの取引相手って』


 バイト前、お母さんの姉で面倒を見てくれているリエ叔母さんに確認をする。


『そうだったと思う』

『いきなりどうして?」


 メッセージを送るとすぐ既読がついて連続で返ってきた。


『いや、なんとなく』


 正直自分でもなんで送ったか分からない。

 なんとなく最近の傘折を見ていて、確認したくなった。


 そうか、やっぱり傘折はあの銀行員の娘か。


 ……あれ?


「なんでがっかりしてるんだ……?」


 娘じゃなかったら……どうだっていうんだ?


 そんな感情に困惑していると、リエ叔母さんからメッセージがまた届く。


『そうだ、お盆は帰ってくる?』


『多分、帰らない』


 淡々と返した。

 きっと私が帰ってもお母さんは人に戻らない。

 工場内で首を括ったお父さんの第一発見者となってから、ショックで人形のようになってしまった。


 ガラス玉のような瞳はボーッとどこかを見つめ、話しかけても虚な返事が返るだけの人形。


 そんなお母さんと生活するのは小さい頃の私だけじゃどうしようもなくて、工場の社員さんと結婚していたリエ叔母さんのお世話になった。


 工場が潰れて余裕がない中で面倒を見てもらって親子共々、迷惑をかけている。

 それでも叔母さんは私を心配してくれている。


『ごめんね。もっと助けてあげられれば良いんだけど』


『いえ、携帯代だけでも助かってます』


『本当にごめんなさいね』


『謝らないでください。助かってますから。それではバイトなので』


 そう送って私はメッセージアプリを閉じた。


「謝るのはあいつだし……」


 やはり私の復讐相手は傘折の父親だ。

 ただなぜかそのことが残念に思えて、なにか後ろ髪を引かれる思いだった。


   ⭐︎


「あの……あの! いいですか?」

「えっ? あぁすいません。お預かりします」


 急かされてレジに商品を通す。

 ふとした時に傘折のこと考えてしまっていた。


 別に恋とかではなく、いじめていた時と今では性格のギャップが激しくて整理するように思い返す。


 無意識に彼女を1人の人間として擦り合わせようとしているんだと思う。


 ただ、あいつのことを考えたくはない。


 セットでいじめのことまで頭に浮かんで、その時の憎しみや恨みの感情が湧き上がるから。


 もう傘折密季に対して嫌悪や恨みを抱いたって無駄なのは分かりきっているのに、思い出すと「本当に嫌いだった」って気分の悪い感情がついてまわる。


「ありがとうございましたー」


 ぼーっと立ちながらピーク過ぎの閑散とした店内を眺める。


 8時をすぎるとスーパーはお酒と惣菜をサラリーマンが買うくらいで、考える余裕ができてしまう。


 あいつはどこの工事現場で待ってるんだろうな。


 そういえば仲の良いフリをしていた頃、待ち合わせに呼んだけど行かずに放置したことがある。


 翌日になって風邪を引いたから連絡どころではなかったと嘘をついた。


 当日は雨だった。そんな中でも彼女は待っていたらしい。

 それを思い出すと、心に棘が刺さったように息苦しくなる。


 首を絞めたあの時から徐々に嫌悪や怒りの波は落ち着いてきている。


 顔やあの敬語にあいつの父親に似てて嫌いだけど、もう殺してやろうとはもう思わない。


 ……勝手に私の前からいなくなれと思ってる。

 だからなのか、やってきたことを思い返すと胸が痛くなる。


 口論をした後に「あれは言い過ぎたかな」と思う、そんな取り返したいと思う気持ちが湧き立っている。


 ……いや、この時に抱くべき感情はザマァ見ろであるべきだ。

 あいつは傘折の娘だ。傘折の血が流れてる。


 許せない存在だ。許せない男の幸せの結晶なんだ。


 傷つけたって、いいんだ。


 それでいいと思わなきゃ、辛くなるし。


 ……また考えてしまった。


 バイト中の頭の中にまで入り込んでくる傘折に、少し胃が締まる、

 そんな感じで定時である9時に向かう時計の針を眺める。


「いいですか?」

「あぁ、いらっしゃいま……」


 カゴをスキャナーの前に持っていくも手が止まる。

 時計からカゴまでの動線に見たくない人間の顔があった


 さらにカゴには何も入っていない。


 冷やかしか……? と思ったが違った。

 いや冷やかしではある。


 多分目の前にいるこいつは何も買う気がない。

 買うとしても私の不興だけだ。


 むしろ……喧嘩を売っている。


「なんで……」

「探しました」


 傘折は平然と丸い目を潰して笑う。

 探してここに行き着くのか。


「来るなって言ったはずだけど」

「工事現場には行ってません」


 その言葉に私は舌打ちで全てを吐き出す。


「燕ちゃんの仕事、終わるまで待ってますね」


 最悪。


 考えに出るだけで変な電波が混線してくるような違和感があるのに、目の前に現れるとこうも私の心を乱す。


 これが恋だったらどれだけ楽だったろうか。


 受け入れるのに苦戦している相手が一方的に自分へ気持ちをぶつけてくる。


 その違和感に私の心はざらついて、穏やかではいられない。

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