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黎明高校の特待生制度は学費免除の代わりに、定期テストの成績で上位5%を維持することが条件。
つまりは期末テスト、これを落とすと特待枠から外れる。
そうなると来期から学費を支払うことになり絶望的出費が私に降りかかる。
それを回避するために今、図書室で勉強しようと思ったのだが……
「どっか行ってって」
「えー? 良いじゃないですか」
傘折がついてくる。
そして噂がどんどんと広がっている。
由希と香織が広めたのは間違いがないのだけど、水に絵の具を垂らすと広がるような速度で人から人へと続いている。
「あれが……?」
「あんな髪でも特待らしいけど、女同士で付き合ってんの……? 変人すぎでしょ」
聞こえてるよ。
陸上部とウワサというのは走り回るのが好きらしい。
後輩か先輩から同級生か、あちこちに届いてしまってるよ。
ついこの前まで斜め後ろをペタペタとビビりながら歩いてたのに、今は隣か斜め前を笑顔で歩いてる。
泥のような感情で胸が満たされる。
「はぁ……」
「なにか予定があるんですか?」
「今から図書室寄るんだよ。今日はバイトないしテスト勉強しなきゃ」
傘折と違って私の時間は貴重なんだよ。
そんな視線を向けてみても、彼女は大きな目を丸くして首を傾げる。
そしてケロッと思いついたように口を開くのが彼女だった。
「じゃあ私も一緒にいいですか?」
「ダメ、集中出来ないし」
「いいんですか? 断って」
その一言に私は何も言い返すことが出来ず、呆れ混じりに舌打ちして足を速めた。
なんでこんなことになってるんだ。
やっぱり受け入れずに首を落としてもらえば良かった。
傘折の要求を受け入れて一度延命したせいで、由希や香織との関係や今まで通りの日常が惜しくなっている。
こいつを殺そうとしたあの時は全てがどうでも良かったのに。
そもそもなんで私なんだ。
少なくとも私と話す時みたいにすれば、次の友達や恋人を作るなんて余裕なはずだ。
なんで蹴飛ばしたり突き飛ばしたりした私なんだ。
それに女同士で付き合うとか……。
関係性をひとつひとつ整理してもおかしいところだらけで、考える気が削がれる。
バグが多すぎて攻略のとっかかりが見えないクソゲーみたいだ
スマホゲームだったら修正案件。
きっとアプリレビューにも苦情が殺到している。
私も投稿してしまいたい。
『傘折密季という女子の行動がバグっています。助けてください』
そんな感じで。
「というか、マジで来る気?」
「ダメですか?」
「ダメって言ったらどうするの」
「嫌じゃないなら無理にでも一緒します」
目を細めていじらしく見つめてくる傘折に、こちらの顔が強張る。
ダメと嫌で何が違うんだ。
嫌だからダメなのが分からないのか。
「なら嫌、ダメじゃなくて嫌だ」
「じゃあ仕方ないですね、邪魔はしたくないので帰ります」
傘折はそうして踵を返した。
潔さに少し呆気に取られていると彼女は言葉を繋いだ。
「あっ一応言いますけどね」
そして背中を向けたと思えば顔だけこちらに向けて優しい視線を向けてくる。
「私、本当に好きなんですよ」
それだけ言い残し小さく手を振ると、彼女は歩いていく。
「行くのかよ……」
背中を見送って、そう1人で呟いた。
しかし何を呟いたか遅れて気づいた。
「いや、いなくなって良いんだよ」
……自分で訂正する。何を言ってるんだ私は。
図書室の中に入り早歩きで空いてる席に座って、勉強する道具を一通り出し、額に手のひら当てて心を落ち着ける。
あいつに心を乱されてるというか、理解不能な存在がチラチラとしていることがストレスすぎて疲れる。
そこは尊重するのかよ。
ある程度のラインを守って接してきているのが、嫌悪感を紛らわすようで妙にむず痒い。
100パーセント嫌いでいれれば楽なのだが、100パーセント嫌えるだけの悪人ではないことが非常にめんどくさい。
元々そんな奴ではあったけれど、今は脅されて恋人のフリをすることになっている。
「そもそも本当に録音してんのかな……あぁもう」
無駄なことをつい考える。
さっさと提出してくれれば楽なのに、けど退学も嫌だ。
あいつに脅されてから何度もせめぎ合ってる感情。
恋人のフリで延命できるならまだマシか。などという感情がわずかにこちらの悪感情を上回ってる。
とはいえそれらを総合した感情は嫌いという一言に尽きるわけだけど。
本当は録音なんかないんじゃないかと思うけど、それだとなんで私なんかと恋人のフリをしたいのかわからない。
数学の教科書を開いてテスト範囲を確認する。
何度もやっている数学の問題は、見るだけで答えがなんとなく分かる。
数字を入れ替えても、文言や証明するものが変わっても、何も問題ないように私は教科書を読み直す。
他の高校よりも進んでいるらしいし中学よりも圧倒的に難しくなっているけれど、教科書さえやりこめばテストは問題ない。
ただそれなのに傘折の気持ちは難しくて理解できず、わからない。
何度も何度も会って、会話をするほど分からなくなる。




