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9-3 ハム野郎に難癖をつけられる

 俺の案採用と決まって会議室を出ると、廊下にハムチームの連中が十数人立っていた。会議室の順番待ちだろう。


「やっと終わった」


 ハムチームを統括する辻元とかいう四十代のハゲが、大げさに溜息をついてみせる。


「これはこれは。西乗寺さん、珍しく大会議室ですか。たった数人なのに、贅沢なことだ」


 嫌味な野郎だ。まだこっちの予約時間内じゃんよ。文句言われる筋合いないだろ。


「すみません辻元さん。どうしてもディスプレイを使いたかったので」

「そりゃご立派だ。コンペに向け、さぞかしいい提案が出たんでしょうな」


 ハムチームの連中が、どっと笑った。冷食チームなんか、馬鹿にし切ってるからな、あいつら。


「毎度毎度、ワンパターン提案のハムさんたちなら、会議もいらないんじゃないすかね」


 おっ岸田、言うなあ……。


「企画会議は楽でいいっすね。ハムさんは」

「部内の意見を取りまとめるのも大変でねえ……。なんせウチはエリートがたくさん集まってるから」


 無遠慮に俺達を舐め回すように眺める。


「西乗寺さんのところは、バイトの子ばかり……。人がいなさすぎて、コンビニのレジ係を取ったとか笑える」


 唇を歪めてやがる。


「それに男がたったふたりですしね」


 ハムチームの誰かが、調子こいて尻馬に乗ってきた。上司が参戦している以上、無礼働いてもいいって腹だろう。


「俺達とは違う。さすがは辺境……じゃないか期待の新分野開発チームだ」

「バイトの子とはいえ、ウチは全員、即戦力ですよ。おっしゃるように、人数が少ないですからね」


 思わず俺も参戦したわ。菜々美ちゃんや西乗寺主任を馬鹿にされるのは我慢できないからな。結菜が馬鹿にされるのは……まあ仕方ないか。


「君は……木戸くんだったな。覚えておくよ」


 ハムチーム統括の辻元に笑われた。笑顔を作ってはいるが、瞳は醒めている。こいつ、前々から嫌な野郎なんだよな。


「まあ、役員コネの娘を取り込めて良かったじゃないか。西乗寺チームは実力がないから、裏工作で生きてるって、もっぱらの噂だし。実際そうだろ。ようやく政治力ができて、大会議室まで図々しく使えるようになったわけだしな」


 ハムチームがまた大笑いしている。こいつら、上司のケツ舐める以外になんもできないんか。頷きアプリかよ。


「菜々美ちゃんは実力がありますよ」


 主任が反論した。


「すでに院生レベルの作業をこなしてますし」

「そうですか。良かったですなあ……」


 西乗寺主任の肩に、手を置く。


「ま、活躍を期待していますよ」


 肩に置いた手が、いやらしく動いた。これもうセクハラだろ。


「では、コンペを楽しみに……」


 俺を肩で押しのけるようにして、会議室に入っていく。ニヤニヤ笑いを浮かべたハムチームの面々が、俺や主任、結菜や菜々美ちゃんの顔をねめるように眺めながら、それに続いた。


「……木戸くん」


 連中が消えドアが閉まると、主任が俺を見た。瞳が怒りに燃えている。


「ウチは負けないわよ。商品から仕掛けまで完璧に仕上げて、連中を見返してやりましょう」

「もちろんです」

「俺も全力でやります」


 適当男の岸田も、珍しくマジ声トーンだ。


「ハムなんかマジ、どうせメイン商品にちょっと手を加えた奴しか出せないっしょ」

「すみません主任。あたしがコネだから……」


 菜々美ちゃんは瞳を合わせられない。


「いいのよ菜々美ちゃん。あなたはむしろ日東ハムからお願いした人材だから。研究所に若い声を取り込むテストケースとしてね」

「そうそう。なんせ修士が半分以上いるから、若手でも二十代後半だからなー、ウチの研究所。若い子の声は、こうして補うしかない」

「……すみません」

「ハム野郎なんかに負けないよね、お兄」


 結菜も憤っている。


「木戸お兄さんな」

「そうそう。木戸お兄。あと岸田お兄に、西乗寺お姉、菜々美先輩も」

「負けやしないわよ、結菜ちゃん」


 西乗寺主任は、ようやく笑顔になった。


「さ、戻って各人、準備を始めましょう」

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