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5-1 飲み会の告白

「じゃあ乾杯ね」

「はい」


 上司である西乗寺主任に促され、俺はビールのグラスを手に取った。ここは会社最寄り駅前の居酒屋。先般の約束通り、飲みに誘われたってことさ。


「木戸さん、元気ないなあ」

「ほっとけ」


 研究所アシスタント(バイト)の菜々美ちゃんに笑われた。悪かったな。毎日結菜に振り回されて疲れ気味なんだわ。てか、「西乗寺さんがおごってくれるなら、あたしも行きますー」とかちゃっかりついてきといて、仕切り屋かよ。


「はい、乾杯」

「乾杯」

「カンパーイっ」


 グラスの触れ合う音が響いた。四人がけテーブル。当たり前だが、金主であり上司である西園寺さんが壁際の上座で、俺と菜々美ちゃんが下座に陣取っている。


「じゃあ、ちゃっちゃと食べますか」


 箸を取った菜々美ちゃんが、お通し>冷奴>枝豆>ポテサラと、超速で平らげていく。さすが大学生。生物としての勢いが俺とは違うわ。


 あーちなみに今日は岸田は不参加だ。遊びすぎで仕事溜めやがったから、今頃涙目で残業してるわ。ざまあ。


「西乗寺さん、次、何頼みます」

「木戸くんと菜々美ちゃんに任せるわ」


 ビールを飲み終わった主任は、冷酒の氷蔵とっくりを取り上げると、自分のぐい呑に注いだ。


「うん、おいしい。吟醸香強いわね、これ。木戸くん、これ天猫舞だっけ」

「はい。石川の酒ですね。三十五パーまで米削ってますから、大吟醸どころかって奴」


 俺も試してみた。たしかに果実のように華やかな吟醸香が強い。それに加え、純米酒ならではの米のひねた香りもある。なかなかの酒だ。押し出しが強いから、冷奴のようなプレーンなツマミに合う。刺し身に合わせるなら、普通の純米酒のがいいな。


「それより早く決めようよ、木戸さん。あたしね、鶏唐と揚げ出し豆腐、焼き鳥セット、ピザ」

「一気にそんなに頼むのかよ。てか豆腐被ってるし」

「いいでしょ。奴と揚げ出しだと味全然違うし」


 なんだか学生飲みみたいなメニューになったが仕方ない。実際学生が仕切ってるし。


「じゃあそれでいいわ。あと下足揚げも頼む」

「はーい」


 手を上げ、ホールのねえちゃんをうまいこと呼んでいる。まあ気が利くのは確かだな、この娘。


「うおっピザから来た。この店、わかってるーうっ」


 がぶりついてやがる。てか順番的にはどうなんだと思うけどな。この頼み方なら焼き鳥、それもねぎ間の塩から欲しいというかさ。ネギ間塩なら、天猫舞にも合うし。まあ業務用冷凍ピザ焼いてるだけだから早かったんだろうけど。


 結菜の奴も、今頃ちゃんと飯食ってるかな。飲んでくるとは言ってあるから、適当にうまいもんでも食べてりゃいいけど……。まさかとは思うが、飯も食わんで膝抱え、俺の帰り待ってたりはしないよな。そういうヤンデレムーブはしないとは思うが……。


「ところで菜々美ちゃん、ついでに聞くけど、こないだ話してた『いいこと思い付いた』ってのは、なんだよ」


 俺の机のチロリアンチョコ掴み取りのとき、言ってたんだよな。


「それ、今聞くすか」


 目をくりくり動かしてる。


「主任いるのに」


 なんだ、ヤバい話かな。


「い、嫌ならいいけどさ」

「まあいいか。言っちゃっても」


 首を傾げ、なにか考えているように黙り込んだ。


「……やっぱやめた」

「なんだよ気になるじゃんか」

「そのうち教えたげますよ。準備ができたら。いーいことですよっ。木戸さんにとって」


 ニコニコしてる。無邪気な顔だからまあ、悪いことではなさそうだが……。


「それで」


 いきなり、主任が割り込んできた。


「それでどうなの。木戸くん」

「はい?」


 斬り込まれた。


「な、なにがでしょうか」

「……」


 俺のグラスに冷酒を注いでくれる。


「最近、なにか悩みがあるでしょ」

「べ、別になにも」

「あー嘘ついてるー」


 焼き鳥の串を横咥えにしながら、菜々美ちゃんがツッコんできた。


「あたしから見ても変だもん。最近の木戸さん。妙にキョロキョロしてるし」

「んなーこたない」


 あるけどな。結菜のコンビニが気になって仕方ないし。夜は夜であいつ、微妙に体見せつけたりしてくるし。


 ゴールデンウイークの箱根旅行にしても、危うく一線踏み越えるところだったからな。胸丸出しで抱き着かれたときの感触……というか感激、今でも強烈に思い出すわ。童貞には刺激的すぎる攻撃だった。


 おまけになんとか寝かしつけたとはいうものの、朝になったら浴衣はだけた「ほぼ裸」状態で俺の布団に潜り込んでたし。夜やけくそでひとりエッチしといて良かったわ。でないとこの朝に襲いかかったかもしれん。


 結菜本人には前夜の記憶なかったから、まだマシだったけど。それにしてもキツかった。裸の状態で俺の布団で起きてセフレ実感を強めたのか、あれからアパートでも攻勢強めてるからなー、結菜の奴。


 そもそもゴムまで用意してるとか、どんだけやる気満々なんだっての。アパートのどこやらにも当然、ゴム仕込んであるだろうしさ。


 今のところ、毎晩手を繋いで寝るくらいで我慢させてるからなんとかなってるが。でもたまたま俺のそういう欲望が高まってる晩に迫られたら、自分でもどうなるかわからん。本能ストッパーって、いきなり外れるからなー。


「なに考え込んでるんですかー」

「あっ……」


 菜々美ちゃんにツッコまれた。どうやら俺、結菜とのヤバい一夜の妄想に浸っていたらしい。てか浸ってたわマジ。


「ヘンですよ、木戸さん」


 笑われた。


「木戸くん、なにか、相談したいことがあるんじゃないの」


 きれいな瞳で、主任にじっと見つめられた。なんか見透かされそうで怖いわ。西乗寺綾音さんは鋭い。研究にもそつがないし、上司たる部長を操るのも得意。だからまだ二十八歳というのに主任に出世してるしな。


「じ、じゃあ遠慮なく……」


 ちょうどいい。この際、少し女子心理についてリサーチしておくか。なんも言わないとむしろ変に誤解されそうだし。


「女の子の気持ちって、どんなもんでしょうか」

「うおっキターっ!」


 菜々美ちゃんの目が輝いた。


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