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4-1 箱根ドライブ旅行で大騒ぎ

「おばさん、凄かったねー」


 レンタカーの助手席で、朝飯のコンビニパンを食べながら結菜が口にした。今日は快晴。窓外の高速道路で標識の下を通るたびに、結菜の顔が一瞬影になる。


「まあなー」


 実際、えらい騒ぎだった。親戚を仕切るラスボスと言っていい神田のおばさん、ゴールデンウイーク前半戦に入った瞬間、怒涛のごとく押しかけてきたからな。もちろん、俺がきちんと結菜の保護者活動に励んでるか、チェックするためによ。


「まあ、なんとか合格もらったから良かったけどね」

「だなー」


 さんざっぱら俺と結菜を質問攻めにした挙げ句、部屋漁ってゴム探しまでしやがったからな、あのヒト。大丈夫。俺、結菜を襲ったりしてやしないっての。それにそもそも童貞だから、その類は元から置いてないし(泣)


 とりあえず結菜が元気でメンタル面でも問題ないとはわかってくれた。半日、言いたいことをまくし立てた挙げ句、せっかくだから今日明日は東京観光すると言い放って、ディズニーのホテルがどうとか呟きながら、蒸発するように消えた。


 まあお墨付きをもらえて良かった。これで親戚中に触れ回ってくれるから、こっちも面倒なくていいし。


 それに早くいなくなってくれて幸い。こうして旅行の予定入れてたからさ。


 毎日狭いアパートにふたりっきりだと、どうしても精神的に気詰まりがあるしな。謎セフレなのに手も出せないし。気分がくさくさするから、箱根の旅館を一泊、予約したってわけよ。


 今はゴールデンウイーク前半と後半の谷間の平日。それに超早朝に出発したから高速もあんまり混んでないし、助かったわ。


「結菜、サンドくれ」

「うん」


 レジ袋からごそごそサンドを取り出すと、手渡してくれる。


「まずタマゴね。最初はツナのが良かった?」

「いいよこれで」


 右手でハンドルを握ったまま、左手でぱくつく。


「うん。うまい」

「旅行で食べると、コンビニご飯も格別だね」

「新幹線で駅弁食べるみたいな感じだよな」

「洋介兄、結構新幹線乗るの」

「たまーにな。地方の学会に出席したり、畜産業者と会って調査したりするからさ」

「へえ……」


 感心したような声だ。


「大人って感じ」

「普通だろ、こんなん。お前がガキだから、そう思うだけだよ」

「ひどーい」


 むくれたような声だ。一瞬横顔を見ると、やっぱり膨れていた。ふぐかよ……。


「お茶」

「はい」


 ペットのお茶の口を開けて、手渡してくれる。ひとくち飲んで、ドリンクホルダーに置く。


「うん。お茶もうまいな」

「濃い味買ったからね。猫目園の奴」

「そうなのか」

「見ればわかるじゃん」

「運転中だ。ラベルなんか見てられるかよ」


 俺が駐車場で待っている間に、結菜がコンビニ買い物してきてくれたんだ。


 東名を厚木で下りて小田原厚木道路へ入った。終点からターンパイクを走る予定だ。


「窓は閉めとけよ」

「なんでさ」

「小田厚は養鶏場とかその手が多いからさ」

「平気だよ。あたし、北海道育ちだし。それに洋介兄だってハム屋さんでしょ。畜産には慣れてるはずじゃん」

「そういやそうか」


 たしかに結菜の言うとおりだ。


「開けていいぞ」

「春の風入ったほうが、気持ちいいしね」


 ウインドーを下ろし、窓を開けている。


「うん、いい風」

「春なんだし、オープンの車借りれば良かったかな」

「それ、高いんじゃないの」

「まあ、このリッターカーよりはな。……でも、せっかくの旅行だし」

「贅沢だよ。もったいない」

「まあ結菜がいいなら、これでいいよ。アクセルをベタ踏みできて、ドライブ楽しいしな」


 ターンパイクを抜けるのに、予定より時間が掛かった。そんなに飛ばすなとか、結菜が助手席で始終騒いだせいだ。なんか教習所の路上教習を思い出したわ。


 ゆっくり流せば景色も楽しめるから、悪くはないんだけどさ。


 ターンパイクを抜けて、大観山から芦ノ湖に山道を下る。散歩してから、湖畔の食堂で早めのランチ休憩にした。早朝起床だから、腹減ってるし。それにまだ昼前だから店も空いてるしな。


「うん。おいしいね」


 二階のテーブル席で、結菜はワカサギ定食をぱくついている。


「この天ぷら、氷下魚こまいよりおいしい」


 芦ノ湖側の大きな窓から光が射し、結菜の顔を明るく照らしている。年頃だから日焼けがどうとか愚痴りそうなもんだが、一切、気にしてなさそうだ。


「わかさぎは旬だからな」

「よく知ってるね」

「そりゃ、食品メーカーで開発担当してるんだからな。旬を覚えるのは基本だわ」

「うわ。イケメン」


 なにがイケメンかわからん。どうも俺の知ってる意味ではなさそうだ。


「それに北海道にもワカサギいるだろ」

「売ってるけどねー。こっちのが、なまらおいしいよ」


 旭川は都会だし、近場に湖がないのかもな。知らんけど。


「洋介兄のもおいしそうだね。その自然薯じねんじょ蕎麦定食」

「うまいぞ」


 せいろに自然薯を使った漬けとろろ汁。それに天ぷら盛り合わせと、小さな山菜炊き込みご飯が付いた奴だ。


「おいしそうだねー」

「……ちょっと食うか」


 定食のトレーを押し出し、結菜の定食の脇に置いてやる。


「いいの」


 上目遣いで俺を見る。いいのもクソも、瞳が「寄越せ」って輝いてたじゃんよ。


「いいよ。いい」

「なら遠慮なく」


 蕎麦ガバーッ。自然薯すすーっ。海老天二本イッキ――。


「ほひいほはらひのはへへひひほ」


 よくわからんが、自分のも食べろと言っているようだ。てか、食べ終わってから話せ。それに、ワカサギ天ぷらは、俺のにも二本ばかり乗ってるんだがなー。


 まあいいか。


 結菜のワカサギを一本摘んで食べた。それを見て、さらに蕎麦ガバー+野菜天サクーのおかわり攻撃だ。どうやら、これで五分五分、対等ということのようだ。


 はあ最初から三人前頼めばよかったな、これ。


 大騒ぎの昼飯が終わったので、気持ちのいい風を受けながらドライブ。湖畔にある箱根神社にお参りした。


 ここ、鳥居が湖向いてたりして、映えるスポットなんだよな。結菜もばしばし写真撮ってたわ。ついでに俺を引っ張って腕を組み、通りすがりのおっさんを捕まえて写真撮らせてたし。なかなかたくましい。


「ねえ、洋介兄のおみくじ、なんだった」


 俺の手元を覗き込んでくる。


「小吉だな」

「見せて」

「ほらよ」


 渡してやる。じっくり、隅から隅まで睨むように読んでいる。


縁結えんむすび、なるようになる――か……」


 そこだけ口にする。


「結菜のおみくじはどうだったんだよ。見せろ」

「えー」


 露骨に嫌な顔をする。


「嫌だよー。秘密」

「俺の見たくせに」

「お兄は社会人だもん」


 謎理論。


「それよりなんか食べよ。お腹減った」


 お前なあ……。さっきほぼ一人前半くらい食ったじゃんよ。俺の分まで。


「まあいいか。ポテト串ともろこし、そこで売ってたし。あれでいいな」

「いいね」


 俺も腹四分目くらいだし、ちょうどいいわ。

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