第81話 「一日後の街の様子」
セロンは、あっくんに叱られるんじゃないかとドキドキした。息を飲み次の言葉を待っていた。
「前に、お前に物質魔法は、扱いが難しく、危険だと言ったろう?」
セロンは頷いた。
「その中でも、セロン、お前が扱う物質Pは最も危険な物質なんだ」
「そうなの?」
セロンは、言いつけを守らないで、危険な行動をしたのを叱られると思ったけど、雰囲気的にそうでは無さそうなのでホッとした。
「一番危険だ。扱いを間違えてしまうと、簡単に人や他の生物を殺めてしまう。石や刃物を投げるなんて、遊びに感じてしまうくらいの差だ」
「うん、爆発で沢山貴族がやられたのがそうなんでしょ?」
「ああ、だが、俺が言いたいのは、もっと身近な話だ。お前が、これからさらにPマナリスを摂取して、力を得ていくと、力の加減が難しくなってくる。物質Pは、人の目には見えない物質だ。それでいて、異常な強度を誇る。お前が、遊び感覚で魔法を使っても、たとえ、殺すつもりが無くても、少し強さを間違えただけで、人を殺してしまうんだ」
「うん……」
「つまりだ、セロン。これから、魔法の扱いは注意して、修練をもっと積まなければいけない。そして、多少の犠牲を厭わないなら構わないが、戦闘や迫られた状況以外は、考え無しの魔法は控えた方がいいということだ」
「大丈夫、頑張って魔法の練習するし、使う時は、考えて使うよ」
セロンはやる気満々で、自信たっぷりに答えた。あっくんは、信用していなさそうな目で見て来るので、何回も念を押して、やっと納得してくれた。
それから、程なくして日が暮れ、宿舎で夜を過ごした。争いで両隣の建物は損壊をしていたが、宿屋は奇跡的に無事だった。部屋では、スクミ―が報酬を減らすとあっくんに告げられて、酷くぐずり散らかした。ナッツの食べ粕をまき散らしたり、ベットを転げまわったり、喚いたりした。セロンは、事情を話してないのをすっかりと忘れていた。流石に、セロンが頼んだのが悪いので、スクミ―は悪くないと弁護すると、あっくんは、今度は、セロンのお小遣いを減らすと言い出した。
「まだ、一度もお小遣い貰った覚えないよ……」
「これから、街に行く度に、渡そうかと考えていたんだが、無しでもいいか?」
「それは嫌だ」
セロンははっきりと答えた。
「ミーもお小遣い欲しいでしゅわ!」
スクミ―は必死に主張する。
「お前は、報酬の前金を払ってるだろ」
「足りないでしゅわ!」
スクミ―は甲高い声で強く主張する。セロンとスクミ―が猛抗議を続けることで、あっくんは、折れて、減らすのを取り消してくれた。その日の晩は、何時になく複雑な思いを抱きながら、眠りに落ちた。色々と感情が揺さぶられた長い日々だった気がした。
次の日の早朝、朝食と支度を終えるとあっくんは、事態の把握と出立準備をすると言って宿を出て行った。今日の昼時に街を発つらしく、セロンはそれまで自由にしても構わないと言われた。
セロンは、街の皆に別れの挨拶をしに行こうと、部屋を出口に差し掛かった所、窓を強く叩く音がした。何だろうと、振り向いて、窓の側を見ると、窓の下の隙間に紙切れが挟まっているのが、目に留まった。セロンはその紙を抜き取り、折られた部分を開いてみると、中には流れるような文字が書かれていた。
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セロン様 貴方はどちらを選びますか?
干渉者スティア 弱者を救済し、支援する。保護施設を設立。
博愛の使徒レオス 悩める者に死という慈悲を与える。この街では死神と噂される。
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どちらを選ぶ? 何を言ってるんだろう? それに誰からなんだろう? セロンは、自分宛の手紙が宿屋の窓から突然届けられたことに、当惑していた。
干渉者スティア? スティアの保護施設のことかな。それに博愛の使徒レオスは、死神……。誰かが、僕を試そうとしている? セロンは、怪しい手紙を訝しんだが、何もしようが無いので、丸めて、リュックの中に入れておいた。
セロンは宿屋を飛び出し、街に出た。街は一日が経過して、多くの進展があり、大きな問題に直面していた。
治安維持部隊は、反抗する貴族を全員捕縛し、奸計を企てる貴族も取り締まっていた。貴族の中には、悪事に加担せず、静かに事の成り行きを見守っていた者も居て、悪い者ばかりでは無いと分かった。
森の中には、街で忽然と人が消える事件の元凶の施設があった。街長のランデールが主体で、共謀者と脅されて従わされた者達が、街から人を攫い、そこに監禁していた。施設で、行われていた惨事は、狂っていて人がしてもいい行為とは思えなかった。セロンが思い立った悪い予感が当たり、実際に起こっているのを知るのは、いい気分じゃなかった。
街の外壁が崩壊し、土塊になってしまった後、街の人々は、「畑がおかしい」「壁がおかしい」と嘆き絶望していた。街の至る所にあった、水溜まりも乾き果てている。セロンは、ロウが話していた『施しの植木鉢』を思い出した。あの下町の広場にあった銀のオブジェがそうなのだとしたら、もう二度と戻って来ない。全てを消滅させる光によって、破壊されてしまったのだから。けれど、同時に、無くなって良かったのかもしれないと思った。植木鉢を利用した街づくりは、便利だった所もあると思うけど、快適さを求めるあまり、欲望が際限なく膨れ上がり、憎悪が蔓延し、人が人としての心を失ってしまう結果となってしまった。街の皆には、初歩に戻って、人としての心を持つ大切さを思い出して欲しい、とセロンは思った。セロンが惹かれた人の心を。
今歩き回って知ったのは、下町が半壊したというのに、あの不気味で大きな薄青色の花が全く無傷だったという事実だった。街の至る場所にひっそりと生えていたその花は、たとえ、傍の建物が崩壊して、瓦礫の下敷きになろうとも、関係ないみたいだった。
さらに大きな発見といえば、前の『恵まれぬ民の街』でも見かけた黒く滑らかな丸みを帯びた謎の物体が、この街でも至る場所にあったという事実だった。崩壊した建物の瓦礫の中に紛れて、落ちているのを見かける。セロンは、街の中心の方を歩いていると、部隊者と見慣れない誰かが丁度、その物体を手に話しているのに出くわす。
セロンは、いつもの癖で、ひっそりと立聞きした。
「この機器は、あんたの所属する組織の物ってことだな?」
部隊の一人が、簡素なローブを纏った細身の男に話している。
「はい、お手を煩わせてしまい、申し訳ございません。今回の紛争で落ちた分は回収しますので、他にも見つけましたら、私にご連絡ください」
細身の男は、妙にへりくだっていた。
「構わないが、また設置する気なのか?」
「復興が終わり次第、再び設置させていただきたいと思っております」
細身の男は、部隊の者にぺこぺこと頭を下げていた。部隊の者は頷き、納得したような素振りを見せる。
セロンは、何か部隊に繋がりのある物なのかな、と思った。機器って言ってたから、魔法アイテムとは違って、電気仕掛けで作動する道具になる。一体、何に使ってるんだろう? セロンは、また一つ謎が頭の中で生まれた。
セロンは一通り街を巡りながら、部隊の人に協力して、微力ながら街の復興を手伝った。本当は、観光をしたかったが、そんな状況じゃないのは、火を見るよりも明らかだった。
困っている人も力の限り助けつつ、街の中を動き回っていると、スティアの保護施設前まで来ていた。正面の道に兄のシェルクが居る。そして……セロンは驚きで思わず声が漏れ、尻尾が横に垂れた。
女の子がいる。ロウさんが始末したって話していたティールが兄と戯れてる。あの四人の子供達も一緒だ。




