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小さくて大きなわがまま  作者: しがない竜
第1章2節 ただ一人生き残った難民

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第12話 「思春期という訳ではないのに少年の心は複雑でわからない」

隙間を抜けた先には、壊れて瓦礫と化している元住居と思われる残骸が、視界全体に広がっていた。

どこもかしこも瓦礫の山である。人の気配はあんまりない。


僕は、その瓦礫地帯を抜けて行った。


瓦礫地帯を抜けると、ただ申し訳程度に布を張ったような住居が溢れていた。

テントの成り損ないのようで、形が歪、隙間だらけである。全体を見渡すと、沢山の布が張られているため、まるで布の海のようである。人も多く確認できた。


(ここが貧民区か……)


僕は、住居の間の狭い道を歩いた。途中、住居の中を覗いたり、周りを見渡してみた。

大人しく寝ている者、うなだれている者、座って動かない者、魔獣みたいな目つきの者など、誰一人として明るい顔をしている者はいない。


(なんだか、元気のない雰囲気……ここにあの少年が住んでいるんだ……)

 僕は拠点のある住居区との違いに、思わず息を吞み、身構えるように進んでいく。


 歩いて行くと、少し開けたスペースが見えた。住居と住居の間で、瓦礫が積み上げられた壁もある。

 

(あれは……もしかして!)


 僕は見覚えのある人を発見し、急ぎ足で進んでいく。


 近くまで行くと、あの少年が複数人の大人に捕まって、囲まれている状況だった。

 大人達は、ぼろきれのような服を着ていて、やせ細っていた。何か揉め事になっているらしい。


「お前! 俺の金盗んだろ!」

 一人の男が怒鳴る。


「知らねー」

 少年はそっぽ向いて、白を切っている。


 男の一人が、少年の胸倉を掴み、鬼の形相で睨んでいる。

「お前以外にいねぇんだよ!」

  

 なんだか、間に入って行く勇気が持てない状況である。

 少し陰に潜んで、見守る事にした。


「お前が俺の家にこそこそと入っていくのを見た奴がいるんだよ!」

 男が、周りにいる大人達を証人として手で示し、少年を追い詰める。


「知らねーって言って……」

 

 ドスンッ


 少年は男に顔面を強く殴られて、地面に顔をつけるように倒れ込んだ。

僕は思わず目を覆ってしまった。


 男は少年の服の裏側を探る。


「持ってんじゃねぇか! この嘘つきが!」

 男は、少年が盗んで隠していたお金を奪い返し、吐き捨てるように罵倒した。少年はまだピクリとも動いていない。


「くそ餓鬼が、竜にでも食われてしまえ!」

 そう捨て台詞を吐いて、他の大人達と共にその場から去って行った。


(なんで竜なの? 魔獣でもいいのに……)

 竜が凶暴な怪物みたいに扱われて、解せない気持ちになった。


 少年は、地面に顔を押し付けたまま、動かない。

 少年に近づき、声をかける。


「大丈夫?」

「くそが!」

 少年は素早く状態を起こして立ち去って行く。


「ちょっと待ってよ」

 突然起き上がって、走り出した少年にびっくりしたが、すぐにそれ以上の速さで追いかける。

 僕は、曲がりなりにも白竜である。少年の走る速さよりも断然速く走れるのである。


 少年に追いつき、手を掴む。

 彼は僕に手を引っ張られ、体の体勢を崩し、止まる。

「なんだよお前!」

 彼は敵意むき出して、睨んでくる。


「何があったのか詳しく教えてよ」

「何でお前に教えなきゃいけないんだよ!」

「助けてあげられるかもしれないよ」

 優しく宥めるように説得した。


「お前は何者なんだよ」

「僕は白竜、セロンだよ」

 微笑みかけるように自己紹介をした。手は掴んだままである。


「竜……だと……竜は嫌いだ!」

 彼は、眉間にシワを寄せて、僕の手を振り払おうと激しく振った。あまりにも嫌がっているので放してあげると颯爽と走って行った。


(竜って言ったら嫌われた……どれだけ竜は嫌われてるの……)

 肩を落とし、落胆してしまう。


「あの少年は、妹を探しているんだと思うよ」

 声のする方を振り向くと、瓦礫に背を預けるように、おじさんが崩した態勢で座っていた。


 見た目は、頬がこけて、髪が乱れていた。ぼろい深緑のマントを羽織り、側面の首から顔にかけて縫い目がある。口とアゴの周りにはもっさりと無精ひげを生やしていた。


「どうも、見知らぬ白いお方」

 おじさんは落ち着いた雰囲気で挨拶をした。


 側まで行き、話を聞く事にした。


「あの少年について何か知っているの?」

 少年の事を知っていそうだったので、単刀直入に聞いた。


「あの少年は、少し前から妹と、この貧民区で暮らしている子だよ」

「妹を探してるみたいだったけど……」

 市場で少年が店の人に訴えていたのを思い出して口に出した。


「ここの暮らしは大変だからね。食料も水もろくにない。家は木の棒とぼろきれで作っているだけだから、雨と風は多少防げても、寒さはしのげない。過酷だね」

 同じ過酷な場所にいるおじさんなのに、なんだか他人事のように語っている。

  

「そんな厳しんだ」

 真摯に受け止めるように返した。


「きっと、夢を見たんだよ。その子の妹も……」

 おじさんは一つ息を吐いた。


「平和で、家もあって、食べ物も水も湧くほどある。服だって上質なものがあるし、あらゆる望みが叶う。そんな【ユートピア】に夢を見て、行こうとしたんじゃないかな」

僕はおじさんの話を駄々と聞いた。


おじさんは、少し目線を斜め上に上げた。


「そして、見事に叶って、【ユートピア】に行くことが出来た……だからもう、この街の何処を探しても、彼の妹はいないんじゃないかな」

 おじさんは、何か遠くのものを見るように語っている。


「ユートピア……」

(そんなに人々が夢を見る場所なのか……)

【ユートピア】の関心が再び戻って来た。


「どうやったらいける⁉」

 突然、通りすがりの男性が話しに割り込んできた。どうやら、僕たちの話を聞いていたらしい。


「このマークの店に行って、話を聞けば、判別してくれるさ」

 おじさんはおもむろに(ふところ)から布切れを取り出し、男性に見せた。


 ちらっと見えた布には、先ほど見た【砕けた星と剣のマーク】が描いてあった。このマークについては先ほど聞いたからわかる。


「【判別】?」

 男性がおじさんに訊く。

 僕はそれを横目で見て聞いていた。


「店に行って【判別】してもらい、【適性】かどうかを確認する。もし【適性】があれば、ユートピアには無償で行くことが出来る。【適性】が無ければ、お金を支払わなければ行けない」


「はっ? 結局お金かよ」

 男性は、興味を無くし、悪態をついて、立ち去って行った。

 

 僕は、その男性の後姿をただ眺めていた。


「だが、実際にこの街から居なくなった者は多くいる」

 男性がいなくなっても、おじさんは僕に語り続けた。


「居なくなった者は、ユートピアに行ったと思わないかい?」

 おじさんは僕に問いかけるように訊いてきた。


「……どうして僕にそんな話を教えてくれるの?」

 おじさんの親切さが腑に落ちなかった。


 当たり前だが何の面識もないし、自分からおじさんに少年の事を訊いたわけでもない。なのに、おじさんは僕に色々と情報を提供してくれる。不思議で仕方がなかった。


「それはね、君がユートピアに興味があるのかと思ったからだよ」

 おじさんは平然とした態度で答えた。


(このおじさんは、ここに住んでいる者達と雰囲気が明らかに違うのは、気のせいだろうか?)

おじさんに対して違和感を覚えたが、気に留めない事にした。


「少年は、お金を盗んでいたみたいだけど、それってユートピアに行って、妹を見つけるためには、お金が必要だってことかな」

 おじさんが話していた内容と少年の行動、その二つの事を知っている立場から、少年の目的について持論を述べた。


「そんなところだろうな」

 彼は頷き、僕の意見を肯定した。


「……教えてくれてありがとう」

 おじさんに軽く礼をして、少年が行った方に歩いて行った。おじさんは、片頬を上げて笑みを浮かべていた。少し不気味である。



 少年の行方を追って、再び焚火通りまで戻って来た。

 おそらく、少年は、貧民区から外に出ていると思われる。なぜなら先ほどの少年との会話で、彼の匂いを覚えたからである。辿って行けば、貧民区に留まっていない事が推測できた。


 さらに匂いを辿っていくと、賑わいのある市場の方へ行ったのが分かった。


 相変わらず、市場は露店が並んでいて、賑わいに溢れている。


 市場の中に入り、人の間を縫って行く。


(あっ、居た)

少年を市場の中で見つけることが出来た。


 彼は、人だかりに紛れて、身を潜めていた。彼の視線の先には、果物屋があった。きっと盗みを働く気である。


 店には人が多く群がっていた。店員はお客さんに気を取られているので、少年がいくつか果物を盗んだとしても気づかないだろう。


(物を盗む前に止めないと)

 世の中の常識をある程度は持ち合わせているので、盗みがいけないことは分かっている。


 少年に気づかれないように背後から忍び寄った。


 少年は果物屋の物陰までこっそりと近づく。僕も少年の後に続くように近づく。


 少年は僕に気づかないので、まじまじと身なりを観察することが出来た。

ぼろ雑巾みたいな色の服を着ており、暗めのパンツを履いている。どちらも身体よりも一回り大きなサイズであり、紐で脱げないように留めている。


手を伸ばしたら届く位置まで少年に近づき、後ろから声をかけた。


「妹を探しているの?」

「うわぁぁ!」

 少年は振り向き、大声を上げて驚いた。僕も彼の叫び声に少し驚かされた。


 少年の反応により、店員は何事かと、店の死角をのぞき込む。


「お前! また店の物を盗むつもりだったのか!」

 少年は常習犯だったのか、店の人が少年に気づくと、知ったように怒鳴り散らかした。


「くそっ」

 少年は、捕まる前に、逃亡した。


 僕は少年の後を追って行った。


 彼は、何処に行っても盗みを働こうとしていた。なので、彼が物を取る前に、注意をした。それを続けていると、イタチごっこしているようになり、彼が不満を募らせた。それでも僕はやめない。



「なんなんだよ! お前!」

 とうとう彼は、僕にキレて、詰め寄って来た。


「盗みなんてしたらダメだよ」

 少年の勢いに動揺することなく、きっぱりと答えた。


「お前が俺にそれを指摘して何になるって言うんだよ! 俺は、今、必死なんだよ!」

「妹を探しに行くんでしょ? 僕が助けになってあげるよ」

 真剣な表情で、少年に提案した。


「それでお前になんの得があるって言うんだよ!」

「僕は、人助けをしただけなの。優しい竜だって認識されたいの」

 自分の目的を包み隠さず、教えた。


「ははっ、優しさ? そんなの何の意味もねぇーよ」

 少年は嘲笑い、罵ってきた。


「やってみないと分からないでしょ」

 少し意地になり言い返した。


「うるせぇ! 俺に構ってくんじゃねぇーよ!」

 少年は逆上し、声を荒らげて、また街の中に消えて行った。流石に追うのは、もうやめる事にした。


(どうして彼は、あんなにもひねくれた性格なんだろう?)


 この街の人は冷たい者が多いが、少年の態度は異常である。


 彼の感情からは、強い失望と怒り、そして焦りが感じ取れた。


 一体どうして、そんなにも複雑な感情を抱き続けるのか、セロンにはわからなかった。


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