(7)モンテスの研究
キャロンはモンテスの家の前で近衛隊の二人と出くわした。早めに食事をしてきたが、考えていることは同じだったらしい。
「懲りずに来たか」
キャロンが言うとアーチボルドは杖を握りながらわめく。
「貴様、たかだか冒険者のくせに、我々を馬鹿にするのか!」
「モンテスはエドワード王子の命令で人工魔石作りに尽力している。くれぐれも邪魔をしないように。おまえのような馬鹿は外にいてほしいものだ。モンテスの邪魔をしかねないからな」
「なんだと!」
アーチボルドが杖を構えた瞬間、レナードがアーチボルドの頭を叩いて止めさせる。
「そうやって、アーチボルドをあおるのを止めてもらおうか。私達は別に争いに来たのではない。モンテス殿に協力するために来たのだ」
「その男を見ていると、そうは思えない。中に入っても良いが、くれぐれも私達の邪魔をするな。アーチボルド。何かやらかしたら、速攻にこの屋敷から追い出す」
「ふ、ふざけるな!」
アーチボルドが叫んだ瞬間。アーチボルドの体が燃え上がった。
「ぐわっ!」
アーチボルドが地面に転がり、レナードが慌てて回復の呪文を唱える。
「回復の呪文などいらん。ただの幻覚だ」
キャロンは言った。
レナードが思わずキャロンを見返す。
まだアーチボルドは地面でのたうち回っていた。しかし、キャロンが腕を振ると、アーチボルドの体の火は消えた。
アーチボルドはそれでもしばらく地面に這いつくばっていたが、やがて自分の体を見て呆然とした。あれだけ熱を感じたのに、一切の火傷がなかった。
キャロンが言う。
「おまえ達程度が使う魔法では理解できないだろう。これが、冒険者の使う魔法だ」
そして、キャロンは先にモンテスの家をノックした。
キャロンが先に入り、その後でレナードとアーチボルドが続く。
すぐにバロウズが出てきた。
「いらっしゃいませ。キャロン様。申しわけありませんが、まだモンテス様は朝食前なのですが」
「わかっている。後一時間後でいいか。私はこいつらがモンテスさんの邪魔をしないように先回りしただけだ」
「そうでしたか。それでは、できるだけ一時間後には皆様をお迎えできるような準備を整えておきます」
「それで頼む」
そしてキャロンは振り返ると、近衛隊達を押し返して、モンテスの家から出た。
キャロンは玄関口で見張るように近衛隊達の前に立つ。
「貴様、いい加減にしろよ。平民風情が!」
アーチボルドがわめく。しかしキャロンはアーチボルドを無視してレナードに視線を注ぐ。レナードは肩をすくめた。
「アーチボルド、控えろ。おまえの短気を利用するつもりだったが、そこの冒険者にはまったく通用しないようだな」
そしてレナードはアーチボルドを後ろに下げて前に出た。
「私達がモンテス殿の協力をしたいというのは間違いないことだ。それが殿下の命令だからな」
「それで?」
「協力させて欲しい。殿下は気の短いお方だ。人工魔石を作るのに時間がかかれば、すぐに厳罰が下るだろう。私としてもそれは避けたいのだ」
レナードが言うが、キャロンは冷たく返した。
「モンテスが処罰されようがされまいが、おまえ達に害はないだろう」
「そう言うわけにはいかん。モンテス殿が失敗すれば、担当している私達も処罰されるだろうからな」
キャロンは鼻で笑った。
「なるほどな。それでそこの馬鹿を連れてきて、脅し役になってもらおうとしたわけか。さしずめあんたは調整役か? アメと鞭で急がせようとしたわけだ」
レナードは何も言わずにキャロンを見ていた。
「さすがは実践でしか魔法を使えない奴らだな。魔法研究というのは脅せば早くできるというものではない。むしろ、そんなことをすれば研究も遅れるだろう。今回は遙か昔の魔道具を復活させようとしているんだ。通常の魔道具作りと一緒にするな。そう言うことならおまえ達は邪魔としか言えんな」
とうとうアーチボルドはレナードを追いやって前に出た。
「絶対許さんぞ。私を馬鹿にするな!」
「止めろ、アーチボルド!」
レナードは叫ぶが、すでに遅い。アーチボルドが呪文を唱える前に、キャロンの杖がアーチボルドに触れた。
「うぎゃー!」
その瞬間アーチボルドは地面に転がり、のたうち回る。キャロンは蹴ってアーチボルドを転がすが、それでもアーチボルドは叫びながら地面をのたうち回っていた。
「くっ、アーチボルド!」
レナードは回復魔法を唱える。しかしアーチボルドは叫びながら地面で暴れている。
だんだんと周りに人が集まってきた。レナードはキャロンを見た。
「貴様、何をした!」
キャロンは笑いながら答える。
「回復魔法が万能だとは思わないことだな。そもそも私は痛みを増幅させただけで、彼にダメージを与えていない。だから回復魔法なんて効くわけ無いだろう。過去に経験してきたダメージの記憶を頼りに、全てを思い出してもらっているのさ」
「ひ、非道な」
キャロンが杖を振ると、やっとアーチボルドは動きを止めた。ゼイゼイと息を乱している。
「私はこう見えても魔法学者依りでな。いろいろな魔法を独自で開発しているんだ。おまえ達はせいぜい教わった呪文魔法しかつかえないだろう。魔法で私に勝てるなんて思わないことだ」
レナードはアーチボルドに手をかし、起き上がらせる。アーチボルドは今までの痛みが全くなくなっていることにむしろ戸惑っていた。
「貴族だからといって、私を支配できると思うなよ。アーチボルド」
キャロンが言うと、アーチボルドは悔しそうにキャロンを見ていた。
「おまえ、こんなことをして・・・、ひっ!」
キャロンが杖をアーチボルドに向けと、アーチボルドは悲鳴を上げる。
「わかった。邪魔などしない。しかし私達にも任務がある。モンテス殿のそばにいさせてくれ」
レナードが言うとキャロンはフンと鼻を鳴らす。
「それはモンテスにお願いするんだな。しかし、もしもモンテスを脅すようなことをすれば、私が黙っていない」
その時、モンテスの家の扉が開いた。
「キャロンさん。何か騒ぎですか」
バロウズが顔を出す。
「いや、何でも無い。気にしないでくれ」
キャロンが答えると、バロウズが続ける。
「もう準備が整いましたので、中にどうぞ」
「早すぎないか。私達ならまだここで待っていられる」
「モンテス様もあまりお待たせしたくないようでしたので」
「そうか。気を遣わせてしまったな。じゃあ、中に入らせてもらう」
キャロンが答えて進む。レナードとアーチボルドは何も言わずにキャロンの後に続いた。
応接室でモンテスがキャロンを向かえる。
「待たせてしまってすまなかったね」
「いや、こちらこそ、朝の時間を慌ただしくさせてしまった。それから、この近衛隊達も家に入れてしまったが、邪魔なら追い出すぞ」
キャロンが言うと、モンテスは慌てて堪えた。
「いやいや、それには及ばないよ。彼らも仕事でここに来ているのだしね。ただ、私はこれから作業場にこもるつもりだから、あまり面白いことはないと思うのだけどね」
レナードが答えた。
「私達が、手伝えることはないか。私達にとってもモンテス殿の魔道具造りには期待しているのだ」
モンテスは少し考えてから答えた。
「貴公は魔法理論についてどれくらい知っているのかね」
するとレナードは答える。
「理論というのは考えたことはないな。魔法というのは体内の魔力を循環させ、その上で呪文を正確に唱えれば使えるものだ。魔力が多いのならば更に威力を上乗せできる。我々近衛隊では、有力な呪文を数多く蓄積している。その習得と、利用方法を極めることが我々の任務だ」
モンテスはうなずく。
「やはりそうだね。普通の魔術師はそれが正しいのだろう。私のように魔法を使うことよりも研究することの方を得意としているのは珍しいのかも知れない。今回のような未知の魔道具を作るためには、既存の呪文魔法はまるで役に立たないのだ。私自身も独力ではどうしようも無い。過去の文献を当たり、それをよみがえらせなくてはならない。残念なのだが、貴公達にお願いできることは少ないようだ」
「では、申し訳ないが、モンテス殿の研究の様子を見せてもらえないだろうか。我々も任務できている故、おいそれとここを離れるわけにはいかない」
レナードが言う。
「サボられても困るからな! ぎゃっ!」
アーチボルドが言うと、途端に体をのけぞらせた。
「おまえは外で待っていろ。邪魔だ」
キャロンがアーチボルドに杖を向けていた。
「キャロン君」
モンテスが咎めるように声をかける。
「ちょっと痺れさせただけだ。倒れると迷惑なんで、加減してある」
アーチボルドはものすごい形相でキャロンをにらんだ。
「止めてくれないか、キャロン君。それ以上の事をすれば私も覚悟を決めなくてはならないぞ」
キャロンは鼻で笑う。
「止めておけ、おまえには無理だ。それより時間が惜しい。私は手伝えるし、手伝わせて欲しい」
モンテスはキャロンをじっと見ていたがやがて言った。
「わかったよ。では作業場に行こう」
モンテスは応接間を出て、階段を上がっていく。キャロンと近衛達達も付いていく。そして二階上がったところで部屋に入った。
「これらの本は全部魔術書か」
入ってすぐキャロンが言う。壁一面と真ん中に書棚が並んでおり、本で埋まっている。そしてその奥に机と様々な工具が置いてあった。
「魔術書ばかりではないね。研究書が多いよ。実は魔術書はグレスタ城を引き払うときにほとんど処分してしまった。まぁ、それほど珍しいものではなかったけどね。一応使える本はこの部屋にある。すぐに使わない魔術書や研究書、それから魔法に関係ない日記のようなものは上の階にあるよ。そちらの方が多くてね、探すのに苦労する」
モンテスは苦笑した。そして本を探し始める。
「人工魔石についてはかなり昔に調査したっきりだが、その時の書物はまだこの部屋にあったはずだ」
モンテスはしばらく書棚を見て回っていた。キャロンもすることがないので、本の背表紙を眺めていく。
背表紙には日付と個人名と順番が書かれている。しかし抜粋なのだろう、全ての巻数が揃っているわけではない。恐らく四階の書庫に仕舞われているのだろうと思う。背表紙を見ている限りでは中身はまったくわからない。
「モンテスさん。少し見てもいいだろうか」
モンテスが本を探しながら答える。
「かまわないよ。でもしっかり記録している人もいれば、かなりはしょって書いている人もいるし、読んでわかるかどうか」
キャロンはその中の一冊を手に取った。ジュピターという名前が書かれている。日付と研究内容。実験結果。
この人は魔獣の発生原因について研究していたようだ。生きている魔獣と死んだ魔獣の質量変化に着目し、死んだ後どのような変化が訪れるか調べている。さらっと書いてあるが、こんなことができると言うことは魔獣を生きたまま捕まえ、更に体重を量ることまでできる魔法がすでにあったと言うことだ。はっきり言って聞いたことがない。
種類によって、かなり質量変化が違うようだ。没頭しそうになったので、すぐにキャロンは本を元に戻す。
「モンテスさん。探しているのは誰の研究書だ。私も探そう」
「ソレナンサスというのだが、大丈夫だよ。この辺りにあるはずなんだ」
キャロンはモンテスのいるところに回る。モンテスは本を出して広げては戻すのを繰り返していた。
「何か古い名前に聞こえるな」
「そうだね。彼の本はもう百五十年くらい前に書かれたのだよ」
「百五十年前。戦時中だな」
やっとモンテスは目当ての本を見つけたようだ。
「そもそも城がたくさん建てられたのがそのくらいの時代だからね。城は戦争の拠点でもあったはずだよ」
近衛隊達も本を手に取っていたが、よくわからないようですぐに元に戻していた。
モンテスは作業場の机に言って本を広げた。キャロンも後に付いていって横からのぞき見る。
「研究書なのでまとめられていないのだよ。人工魔石の実験をしながら他の実験もしていたようだし、人工魔石の方も何度も失敗を繰り返しているようだからね。最終的にどんな風に作ったのかは、読みながら書き出していくしかない」
「それはなかなか大変な作業だな。さっき一冊手に取ってみたが、過去の実験を前提にした記録もあって、作り方の部分だけを抽出しても難しいように感じる」
「そうなんだよ。よくわかったね。人工魔石を構成する素材や最後に完成した呪文を書いてあるところはもうわかっているんだ。でもそこに至るまでにどんな種類の魔法を組み合わせていったのかが難しくてね。今回は初めの部分から順番に読み解いていこうと思っている」
「待て、貴様時間稼ぎのつもりか。呪文がわかっているならすぐにできるではないか。今すぐ作れ。作らねば、ただでは・・・ぐぇっ!」
アーチボルドがのしのし迫ってきたので、素早くキャロンは杖を振った。アーチボルドは倒れて動かなくなった。
「外に捨てておくか」
「こら、貴様、何をした!」
レナードが慌ててアーチボルドに駆け寄る。
「殺してはいないぞ。まだ、な。邪魔をするなと言ったはずだ」
レナードはアーチボルドの腕を取る。確かに白目を剥いて気を失っているだけで、生きている。
レナードはアーチボルドの顔を叩いて起こそうとした。何度か繰り返すとやっとアーチボルドは目を覚ました。アーチボルドが体を起こす。
「大丈夫か、アーチボルド」
アーチボルドの真ん前にキャロンが立った。
「モンテスさんの作業は時間がかかりそうだ。おまえ達は邪魔だ。出て行け」
「き、貴様!」
アーチボルドはキャロンをにらむが、キャロンににらみ返されて何も言えなくなる。
レナードが立ち上がった。
「アーチボルドのことは謝ろう。しかし呪文がわかっているのに作り始めないのはやはり理解できない」
キャロンは馬鹿にしたような目で二人を交互に見る。またアーチボルドは頭に血が上ったようだが、口をかみしめてこらえた。
「呪文主義の魔術師はこういう馬鹿ばかりで困る。呪文は正確な発音で唱える必要がある。書かれた文字を読めば発動するなんて事は無い。そんなことあんたらも過去に経験しているだろう」
「だ、だから、何度も唱えて、練習すればいいのだ!」
「それは師匠という手本があるからできることだ。そもそも呪文には目的がある。その目的を知ることで呪文の発音を理解できるようになる。それにはその呪文に至るまでの足跡を学ばなければならない。」
アーチボルドが立ち上がった。
「わかったらとっとと出て行け。おまえらは邪魔なだけだ」
じっと黙っていたレナードがモンテスに向かって口を開く。
「モンテス殿。邪魔をしてすまなかった。この部屋に私達がいても研究は進まないだろう。申し訳ないが上にあるという書庫で待たせてもらえないだろうか。私も魔術師の端くれだ。初心に戻って魔術書を読んでみようと思う」
キャロンはモンテスを振り返る。モンテスは少し戸惑った顔をしていたが、やがて答えた。
「上にあるのは雑多なものばかりであまり役には立たないと思うが」
「私が付いていこう。こいつらが悪さをするかも知れない」
キャロンは言って、近衛隊達をにらむ。
「貴様。我々を誰だと思っている!」
アーチボルドが怒鳴るが、レナードはキャロンに背中を向けて歩き出した。アーチボルドも慌てて付いていく。
作業場を出たところで、バロウズに出会う。バロウズが少し戸惑いを見せる。
「今、お茶をお持ちしたところですが」
バロウズはお茶の台車を押してきていた。
「モンテスさんは集中したいようだから、私達は上の書庫に行くことにした。案内を頼めないか」
「それでしたらご案内しましょう」
バロウズは台車を横に避けて置くと、早速歩き出した。その後を近衛隊達が追い、キャロンは最後に付いていく。
この屋敷は上に高いが一つの階がそれほど広いわけではない。
一階は応接室と食堂だろう。二階は飛ばしてきたが、恐らく寝室などの私室があるに違いない。そして三階に作業場。そして最上階の四階に書庫があるようだ。
四階に着いて、バロウズが扉を開けると、そこには山のような本があった。
「これはすごいな」
キャロンが思わずうなる。
「古い本も多いので、乱暴には扱わないでください。もっとも、古い本ほど魔法で保護されているようなのですが」
「百五十年も昔の本が今も残っているのだから過去の魔法というのはとても興味深い」
キャロンは本を見渡しながら言う。近衛隊達も少し圧倒されているようだ。
「古いものだと二百年以上前のものもあります。これでもグレスタ城にあった本の一部のようですね。私は、モンテス様がここに移られたときに、本の目録を作ったんですよ。私も時間があるときはここの本を読むことがあります」
キャロンは書庫の中を歩き出した。分類はされているようで、魔法には関係ない書物も多い。
「ああ、そちらは日記となりますので、あまり手をつけないでください」
「日記をつけるなんて。マメなんだな」
「もちろんアペニヌス家の全員ではありませんよ。いろいろな人がいますから。私は日記をつけていますが、モンテス様は研究書を日記替わりにしているようではありますね。しかし古い時代の人の記録は、読み返すと面白いものです」
キャロンは歩き回りながら、本を見ていった。ここなら一ヶ月くらい楽しめそうだ。
「私はモンテス様にお茶を出してきますので、失礼します。向こうに椅子とテーブルがありますので、読むのならそこでどうぞ」
そしてバロウズは部屋を出て行った。
キャロンは夢中で本を探し、そして目を通した。
魔術書はほぼキャロンが読んだことのあるものだった。傾向としてはやはり付与系の魔法を扱っている魔術書が多い。研究書は圧巻の一言だ。代々の魔術師が自身の研究を詳細にまとめたもの。確かにかなり古い時代のものもあるようだ。
キャロンは魔術書と研究書を数冊持ち出して、夢中で読み始めた。
途中、バロウズがお茶を置いていったが、キャロンは口もつけずにひたすら本を読み込んだ。
そして再度バロウズが現れる。
「そろそろ昼になりますが、食事はどうなさいますか」
キャロンはやっと本から目を離した。
「もうそんな時間か」
目を回すと、アーチボルドは椅子にもたれて転た寝をしており、レナードはまだ書庫をうろついているのか姿が見えない。
書庫の方からレナードが歩いてきた。
「いや、ご迷惑だろう。食事はいらない。それから、私達はあと少ししたらおいとまするつもりだ。グレスタの衛兵隊長にも会う必要があるのでな」
目を覚ましたアーチボルドが立ち上がる。
「えっ、そうなんですか」
「おまえに言ってなかったか? グレスタ領にはグレスタ領の兵がいる。我々近衛隊がダグリス王国直属の部隊であるとしても、グレスタの兵舎に顔を見せずに勝手なことをすればトラブルにもなりかねん」
「そうですか。キャロン様はいかがなさいますか」
バロウズがキャロンに聞く。
「もし迷惑でなければ、いただきたいな」
「では準備いたします」
バロウズは答えて部屋を出て行った。
アーチボルドがあざけりを込めた口調で言った。
「平民はずうずうしいな。飯までたかる気か」
しかしキャロンは平然と答えた。
「当然だろう。くれるというものを断る冒険者はいない。なにしろ、くれると言っておきながら踏み倒すろくでもない貴族が多いからな」
「貴様!」
アーチボルドはキャロンにつかみかかりそうな勢いでにらむが、先ほどからやられてばかりなので、動けないでいた。
そんなアーチボルドを見てキャロンは鼻で笑う。レナードが見るに見かねて口を挟んできた。
「君の態度は目に余るね。それでよく今まで冒険者としてやってこれたものだ。冒険者は貴族からの依頼も多く受けるだろう」
「勘違いするな。こちらの方が馬鹿貴族どもの依頼を受けてやってるんだ。むしろ感謝して欲しいくらいだがな」
レナードもキャロンをにらみつける。
「仕事を与えてもらっているんだ。もう少し謙虚な気持ちが大切だと思うがね」
「金払いの良さだけは感謝しているぞ」
そしてキャロンは口元で笑う。
そこに、再度バロウズが現れ、食事の準備ができたことを告げた。
「何かありましたか」
バロウズの問いに三人とも答えなかった。三人は案内されるまま一番下の階まで降りる。小さな食堂に入ると、すでにモンテスがいた。
レナードが一歩前に出てモンテスに言う。
「モンテス殿。所用があるので失礼する」
モンテスも立ち上がって答えた。
「そうなのですか。食事でもと思ったのですが」
「大丈夫だ。それでは」
そして二人の近衛隊は玄関に向かう。バロウズもその後を追っていった。キャロンは彼らを無視して、食堂に入った。モンテスは迷っていたが、その場に残ることにしたようだ。




