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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第1章 思いがけず弟子を取ってみた

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(20)バム一家の災難

 バム一家はマガラス領の街道で盗賊をやっていた一族である。バムを筆頭に、弟のネーヴと三人の息子、ラスカル、バーグラ、ツーグの五人がメンバーである。

 盗賊同士の縄張り争いは常日頃起こっている。バム一家はそれなりに腕に自信がある方だったが、オウナイ一味と争ったときはすぐに降伏して、傘下に入ることにした。オウナイ一味は人数も多く、盗賊たちもオウナイの指示通り動くので、戦っても無駄だと思ったからだ。

 その後、グレスタ領で廃城の管理を押しつけられた。オウナイ一味はダグリシアに向けて旅立っていった。何か因縁のようなものがあるらしい。


 初めの頃は言いつけ通り、その古城に住み着いて新しいアジトにしようと思っていたが、それは難しかった。何しろ、この古城はグレスタから一直線でほとんど人通りがない。人通りがないということは、襲撃する相手がいないということなので、稼ぎにならない。しかも一直線なので、何か事を起こすとグレスタの衛兵に気づかれる。

 一応城を通り過ぎて進めばマガラス領に繋がっており、通る人間が皆無ということはないが、遠回り過ぎてほとんど使われていない。また、森の中の細道を進めば街道に出ることも可能ではある。しかし、道も悪く使い勝手が良くなかった。

 数週間は粘ってみたが、結局城を出て街道沿いに新しいアジトを作った。もともと五人組だから、フットワークは軽いのだ。


 それ以降、付近の盗賊落ちした村人たちを集めて、現在では十三人の集団となっていた。しかもグレスタが近いこともあり、グレスタに入り込んで情報集めをすることもできる。街道で行き当たりばったり馬車を襲う時とは異なり、情報に基づいて狙い目の商人を襲っていた。

 オウナイ一味に感謝できるとしたら、地元マガラス領から連れ出してくれたことだろう。それでもたまに配下を城に派遣して様子を見ているが、変化はないようだ。二ヶ月以上も音沙汰がないのだから、バム一家はオウナイ一味がすでにグレスタ城を捨てたのだろうと考えていた。


 エレイン婦人襲撃で、護衛役は長男ラスカルと次男バーグラ。そして行き倒れ役は三男ツーグだった。そして、弟ネーヴこそが貸し馬車屋の店主である。

 バム一家は盗賊としてそれなりに腕は立つので、仕事は自分たちだけで行う。バム一家の配下となった盗賊の仕事は後始末である。彼らにも武器を持たせているが、元農民の人間も多く、扱いには慣れていない。配下の盗賊は死体を処理し、残された物を片付けるという仕事を行う。

 面倒な仕事に思えるが、衣服や鎧をはぎ取り自分のものにできるし、馬が死んでいたら自分たちの食料にすることも認められている。そして、馬や馬車は、貸し馬車屋に返せば報酬がもらえる事になっている。先の御者もその中の一人で、馬をネーヴに返して金をもらうのが担当だ。

 バム一家にとっては必要なものはすでに取り終わった後なので、残りはどうされようと問題ない。むしろ、面倒な後処理を全部やってもらえるので重宝している。


 ラスカルたち三人の息子はバムの待つアジトに着いた。集落跡らしき場所の一部だ。そこにテントを立ててアジトにしている。早速ラスカルたちは大型のテントに入っていく。

「結構いい物を持っていたぜ。これは高級品だ」

 ラスカルがバムに「星のネックレス」を見せた。

「金もかなり持っていた。しばらく豪勢な食事ができるぜ」

 バーグラも戦利品を掲げる。

「じゃあ、今日はグレスタで騒ぐか。ここは居心地が良いが、楽しみも少ねぇ」

 バムが口ひげを触りながら答えた。

 もともとバム一家は旅人や村ばかりを襲っていたので町とは縁遠かった。しかし、この辺りに縄張りを構えたおかげで、町遊びにも慣れてきていた。もちろん長く住み着くには金がかかりすぎるし、町で働くつもりはないので移住する気は無い。たまに派手に遊ぶから楽しいのである。


 バム一家のアジトのすぐそばにキャロンが見つけた残り八人の盗賊たちの集落があった。キャロンはこの集落の周りを探そうとしなかったので、結局バム一家にたどり着けなかったのである。

 すぐそばにあるとっても、主従関係は徹底しており、アジトと集落に積極的な交流はない。必要があれば一方的に必要な命令を下されるだけだ。バム一家の方も、アジトに戻るときは彼らとは全く別なルートを取っている。バム一家ははなから彼らを信用してはいないのである。

 盗賊たちの集落は馬車と馬の保管場所でもある。バム一家が襲撃した後、馬と馬車は一旦ここに集められ、数日後に帰り便の馬車として堂々とグレスタに戻ることになっている。すぐに戻っては門番に怪しまれてしまうからだ。


「戻ったぞ。早く行け」

 御者の男が馬を連れて戻ると、集落で待っていた盗賊たちが一斉に走りだしていった。襲撃場所は大体決まっているが、そこに初めから待機していると勘の良い護衛ならすぐに気がつくので、彼らは事が終わるまで集落で待つことになっていた。


 盗賊もどきたちの役割は、ある程度分かれている。これはバム一家の指示ではなく、自分たちで決めた役割分担だ。効率的に仕事をこなすために自然とそうなった。

 襲撃地点で後始末に入る係と、それを邪魔されないように襲撃地からグレスタ側の街道で、街道を来る者を見張る係に分かれるのである。基本的には街道の見張り係は三人程度で、残りは全て後始末係となる。後始末係はそれぞればらばらに現地に向かう。できるだけ早く現場を押さえないと他の盗賊に横から奪われる危険があるからだ。早く動ける者は、他の仲間を置いてでも急行する。もし他の盗賊に先を越されていたら諦めるしかない。なぜなら彼らは他の盗賊たちと戦って勝てる実力は無いのだ。


 今回、襲撃地に真っ先に駆けつけた足自慢の男は、少年が死体を見聞しているのを見た。

 初めは警戒していたが、どうやら一人だけで盗賊ではなさそうだ。男は安心すると、太い剣を構えながら歩いて行った。彼は剣術など知らない。昔は鍬を持っていたのだから。でも子供相手ならどうにでもなる。

「おい、何をしてる」

 男はできるだけ威厳のある声を出す。少年が振り返った。その少年は盗賊を見て驚いていたが、むしろ驚いたのは男の方だった。それは驚くほどの美少年だった。十分戦利品といえるレベルだ。

「処理しに来て、いいもの見つけたぜ。なかなかの美少年だな」

 よく見ると少年は剣を帯びている。冒険者にでもなりたいのだろうか。そのおびえた顔を見るとその男の心に邪な感情が浮かんできた。

「まずは俺が味わうか」

 しばらく女を抱いていない。こんな美形なら男でも十分イケる。男は脅すように剣の切っ先を少年の顔に向けた。まずは服を脱がせようと考えた。

 その瞬間、少年は素早く剣を振った。男の太い剣ははじけとんだ。もともと剣の扱いに慣れていないので、剣のつかみ方一つできていない。男の手元から武器が消えた。

「てめぇ」

 抵抗されて男は逆上した。護身用の短剣を取り出すと、ムキになって飛びかかった。


 しかし結果は無様だった。少年の剣は思いの外鋭く、避けようとしたら腕を切り裂かれてしまった。腕に走る焼けるような激痛で、男は倒れた。大声で叫ぶ。

「畜生! 畜生!」

 そこで声がした。

「おいおい、これはどういうこった」

 仲間の盗賊が来ていた。もちろんそのつもりで大声を出した。そろそろ仲間が集まってくる頃と思っていた。第二の盗賊は倒れている仲間の男と、剣を赤く染めた美少年を見て状況を覚った。


 第二の盗賊は少し細身の剣を抜いた。この男ももちろん剣術など知らない。しかし、相手が子供で、体も小さいとくれば、当然勝てると思った。

 第二の盗賊は余裕を持って剣を握ると、振りかぶって少年に斬りかかっていった。しかしその少年は軽く後ろにステップすると、第二の盗賊が空振りした剣を強く打ち返した。重心が崩れて第二の盗賊はよろけた。

 まずい、斬られる。

 第二の盗賊は焦る。しかし何も来ない。少年を見ると、彼は少しおびえた顔で後ろに下がっていた。


 そのすきに先の男が地面を這いずりながら少年に近寄っていた。少年はそれに気づいていなかった。第二の盗賊は笑みを浮かべた。やはり子供だ。

 第二の盗賊が剣を上げるとその少年も盗賊を見る。その瞬間、腕を切られた盗賊が少年に飛びかかった。腰にしがみつき、少年を転ばせる。

「許さねぇぞ。てめぇ」

 第二の盗賊は安堵した。これでおしまいだ。殺すには惜しいが、これ以上抵抗されてはこちらが怪我をする。

 第二の盗賊は剣を持ち替えると、その少年の胸に向かって剣を振り下ろそうとした。瞬間、第二の盗賊の胸に強い痛みが走った。


「ぐぇ」

 彼は血を吐く。

 相手が倒れているから安全。そして後は突き刺すだけ。そういう単純な思考をしていたので、他は見えていなかった。少年は倒れていてもまだしっかりと剣を掴んでいた。第二の盗賊が剣を振り下ろす前に、少年の剣はあっさりと彼の胸を貫いていた。

 少年を捕まえていた男は上から聞こえる悲鳴と降りかかってくる血に驚愕し、少年を放した。少年も男から逃れて立ち上がった。その盗賊は一瞬何が起こったのかはわからなかったが、倒れて動かない仲間を見て愕然とした。

 少し前まで馬鹿話をしていた仲間があっさり殺された。男は怒りに燃えた。

「てめぇ、やりやがったな!」

 腕の痛みも忘れて立ち上がると、空いた方の腕に短剣を構える。


 その時、男の目の前に矢が刺さった。すぐ仲間からのものだとわかった。やっと全員駆けつけてきたようだ。

 そのおかげで少し冷静になった。男が振り返ると、仲間が二人来ていた。一人は弓を持つ男。もう一人は重そうな大剣を持つ男。弓の男のコントロールは悪く下手をすれば味方を打ち抜いてしまう。大剣の男は重くて扱いきれないと愚痴を言っていた。あまり良い援軍ではないが、これで三対一である。

 腕を切られた男は安心して再度少年を見た。

「うぉーっっ!」

 その途端少年は叫び声を上げて斬りかかってきた。冷静になってしまったのが悪かった。男は急にその少年の剣が恐ろしく感じた。男はそのまま逃げ出した。短剣では長剣に敵わない。当たり前のことを思い出した。

 しかし後ろから背中を切られた。倒れたら殺されると思って、痛みに堪えて必死に逃げた。せっかくの援軍の二人も、何と逃走していた。結局、盗賊もどきたちは戦利品を何も獲られないままそのまま撤退した。


 彼らは逃げ続け、街道を見張っている男たちの前に戻ってきた。

「俺を捨てて逃げやがったな」

 腕と背中を切られて、苦痛に喘ぐ盗賊が先に逃げた弓と大剣の盗賊に文句をつける。

「しかたがねぇだろ。俺の弓は近寄られたらおしまいだよ」

「俺なんて、一回剣を振ったら、もう隙だらけだぜ」

 その男は必死に布で縛って止血をしたが、血は流れ続けている。ちゃんと手当てをしないと死んでしまう。

 一連の話を聞いた見張りの男の一人が言う。

「三人でその有様かよ。馬車を返さないと金にならないぜ。逆に奴らに殴られる」

「だがよ」

「おまえは俺の代わりにここで見張りしていろ。残り全員で行くぞ」

 怪我をした男は戸惑う。

「俺一人残していくのか。まだ血が止まっていない」

「すぐ戻ってくる」

「待て、俺一人じゃ誰かが通りかかっても止めきれないぞ。しかも怪我をしている」

「むしろおまえが馬車の方に行っても役に立たないだろ。俺たち五人いれば向こうの回収もすぐに終わるさ」

 そして、抵抗する男を尻目に、五人の盗賊たちは馬車の現場に戻っていった。


 残された盗賊は出血に苦しみながら、何度も布を締め直して止血に励む。そのかいもあって、流血は止まった。血が止まれば、後は回復を待つだけだ。男は安心してその場で仲間が帰還するのを待った。


 しかししばらく待っても仲間たちが帰ってくる様子はない。さすがに五人もいて問題が起こるとは思えないが、だんだん不安になってくる。様子を見に行くべきか悩んでいると、襲撃現場の方からものすごいスピードで何かが近づいてきた。

「あれは、何だ?」

 そしてその何かが男の前で止まった。それは小柄な美女だった。何より目を引くのは鮮やかな紅毛と肌の露出過多なビキニアーマー。ふと彼女がその背中に例の美少年を背負っていることがわかった。

「何だ。おまえは・・・」

 あまりの異常事態に、思考が追いつかない。少年が生きていると言うことは仲間は全員やられたのか。

 誰に?

「おまえ、生き残りだな」

 そしてその女は無造作に剣を振った。男は自分が殺されたことにすらすぐに気づけなかった。

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