表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウソツキ・ファンタジー  作者: たもつ
38/40

張りぼて

 アンジュが出現させた小瓶の液体で喉を潤す。

 これはダイナーにも置いてあった聖水だ。未だに効力がどれほどのものか分からないが、気のせいか元気が回復したような気がする。

「えっと、もうだいぶ尺を取ってしまったので、転移後に関しては簡潔に話します」

「最初は宿屋に居候して似顔絵描きをしてたのが、ひょんなことがきっかけで変身屋に転身、評判が評判を呼んでビルザン皇国に名声轟き、気が付けば2か月、3か月待ちは当たり前。そこにビジネスチャンスを見出した男の登場により、町の変身屋はカルト教団の教祖へとジョブチェンジ、しかも本人の与り知らぬところで民衆を煽る邪悪な魔女の汚名を着せられ、哀れ断頭台へ――というストーリーでしたネ」

「要約ありがとうございます。でも、今、師匠が語ってくれた物語って、全部が私発信なんですよね。傍証なんてないし、アンジュ様もほとんど何も言ってない。だけど、2人とも完全に私の言い分を信じてくれた。私は何も悪くないのに、誤解とすれ違いで処刑の憂き目にあった悲劇のヒロインだって――」

「それも、嘘だったってことだね」

「分かる? 分かるよね。命くん、理不尽だって怒ってくれたけど、そんなことないの。多分、この3人の中だと私が一番タチが悪いよ。悪辣って言い換えてもいい。最悪な人間なんだ、私」

「まァここまで来たら否定も肯定もしませんや。先生の気が晴れるまで『本当』を吐き出してください」

 明治の声音は温かい。

 私は大きく息を吐く。

「――ええと、きっかけはとある恋を成就させるため、容姿に自信のない女性を美女に変身させたって話したじゃないですか。何か成り行きでそうなったみたいに話しましたけど、普通に私が売り込んでやったことなんです。ここで私が自分のスキルを駆使すればどうなるか、(したた)かに計算してたんですね。宿屋に居候しながら似顔絵描きなんてやってたけど、とてもじゃないけどそれじゃやっていけないって分かって、頭を捻って、自分のスキルをビジネスに転用することにしたんです。その後も、別に座って待っていた訳じゃない。全力で営業しましたよ」

「別に、悪いことなんて何もないじゃんか。先生は、《人物造形》を仕事にしたってだけでしょ?」

「命くん、整形には依存性があるって話をしたでしょ。人によっては10回も20回も通っちゃう人がいる。だから私のお客さんにはリピーターが多いって」


 ――それ、私がそう仕向けてたの。


「どういうこと?」

「簡単に言うと、狭いコミュニティの人達に同時進行でスキルを使って、お互いにマウントを取らせ合って競争意識を植え付けて、そこに私が言葉巧みに不安と劣等感を煽って歪んだ美意識を刷り込んで、変身をエスカレートするように仕向けたの。私と言う人間なしでは生きていけないように――依存するように、誘導したのね。と同時に、それを周囲に吹聴するようにも仕向けて、新規の顧客獲得もした。宿屋での営業で限界があるなと思ったら、お金勘定の得意そうな男性を紹介してもらって、専属マネジメントを依頼した」

「あれ、先生が雇ったんですかい」

「全て、私が始めたことです。カルト教団化させたのも私だし、システム化して国外からも客を呼べるようにしたのも、私。気が付いたら教祖に祭り上げられてた、みたいに被害者面してましたけど、実態は真逆だったんです」


 全部、私。


「一旦、軌道に乗ってからは、とにかく客を増やすのに躍起になってましたね。人もたくさん使ったし、たくさん操った。一人でも多くの人間を、私の《人物造形》の手にかけたかった」

「じゃあ、必要最低限の代金しか貰わなかった、ってのも嘘ですかい。相当に儲けていた、と」

「いえ、それは本当です。金儲け目的ではない。本当に、生活に必要最低限のものがあれば、それで充分。この世界は娯楽も少なくて、そもそも使いどころがないですからね」

「分かりませんねェ。だったら、何をそんなに頑張って客増やす必要があるんです?」

「オジサン、先生の話聞いてなかったの? 先生はね、自分の力で人を幸せにしたいと――」

「そんな訳ないでしょう」

「え?」

 ばっさりと一蹴する私にキョトンとする命。

「今度こそ嘘、ってことですネ」

「他人に興味ないんです。誰と誰がくっつこうが、夢を叶えようが、成功しようが失敗しようが、心底どうでもいい」

「じゃあ、何で――」


「必要とされたかっただけですよ」


 静かに、私はそう言う。

「私の場合は一貫してそれです。名誉欲と自己顕示欲と承認欲求。漫画を描いてる時も、変身屋の時も、作戦の台本を書いてる時も、一切ブレずに、ずっとそう」


 私が嘘をつくのは、自分をよく見せるため。


「私という人間を、私の才覚を、私のスキルを、一人でも多くの人間に見てもらいたい。世に知らしめたい。それだけの張りぼて人間なんです。《人物造形》で姿を変えた一人一人は、私の作品。その作品を、できるだけ多く世に放ちたい。この国を、この大陸を、この世界を、私の作品で塗り潰したい――本気でそう考えていました。教団の塔から町全体を見下ろした時、視界に入る人間は全員私の作品で、その光景を眺めるのが至福の時だった。最ッ高に気分がよかった。かつて誰にも見向きもされなかった私の作品も、これで報われると思った。私は最低最悪です」

「言うほど最低最悪ですかネ? 多少やり方が阿漕だったとは言え、客の望み通りの容姿に変身させたのは事実な訳でしょう? 幻の敵を倒して英雄扱いのアタシや、幻の病気を治して報酬もらった坊ちゃんよりよっぽどマシじゃないですか」


「――でも、死人は出さなかったでしょう」


「……え?」

 二人とも、絶句している。

 この話は墓場まで持っていくつもりだったけど、仕方がない。

「教団を大きくしすぎて皇国軍に睨まれたって話はしましたよね」

「勝手に私設兵団を作って衝突したんでしょ。あ、それも先生が?」

「ううん、違う。私は争いごとが嫌いだし、武力や暴力で何とかしようって考えがないから、皇国に色々言われた時点でもう潮時だって諦めてたの。調子に乗り過ぎたんだって。これは本当」

「つまり、私設兵団は本当に、一部の信者が勝手に作って、勝手に戦ったってことですネ。だとしたら、先生は悪くないじゃないですか」


「違うの!」


思わず大きな声を出してしまう。

「――違うんです。確かに、私設兵団は私が知らない間に作られたモノでした。ただ、いざ皇国軍と衝突するぞって直前になって、私はそれを知ったんです。もちろん止めましたよ。でも、聞かないんです。教団を、教祖様を守るにはこれしかないんです。どうか止めないでくださいって、懇願されて――」

「だったら尚更、悪くないじゃんか」

「だから違うんだって。どれだけ言っても折れないから、じゃあ私が負けないように強くしてあげるって――兵団のみんなを、筋骨隆々の屈強な戦士に変身させたの」

「え、でも、いくら見た目を変化させても――」

「そう。それこそ張りぼてだから、ほとんど戦闘力は上がらない。あくまで士気をあげるためのプラシーボのつもりだったの。だけど、みんなは教祖様の加護を受けた我らが負けるわけがないって、無茶な特攻をしちゃって――結局、誰一人戻ってこなかった。全部、私のせい。魔女って(そし)りは決して誹謗中傷じゃなく、それどころか正鵠を射ている。処刑されて、当然の人間なの」

 言いながら、声が震えてきた。

 両目から、涙が溢れる。

 ……何を泣いてるんだ、私は。

 こんなに救いようがない人間に成り果てたのに。

 ああ、だからか。


 (こじ)らせて捻くれていじけて腐った魂は、ドロドロに濁りきっている。


 真に浄化されるべきは、私の魂だったんだ。


「……全て、吐き出しましたか」

 一人ボロボロ泣き崩れる私に、明治はまた温かい声をかける。

「何も言わないんですか。私は大罪人ですよ」

「いやァ、人様のしたことにどうこう言えるほど、アタシゃ偉い人間じゃござんせん。それに、やっちまったことは仕方ねェし、まァ過ちではあったと思いますけど、アタシは決して先生が悪人だとは思いません。誰だって自分をよく見せたいし、評価してもらいたいですよ。先生の場合は、ちょっとやり方が極端だっただけなんじゃねェですかネ」

 優しい言葉に、私は首を振る。

「でも、でも――」

「過ぎたことはもういいし、正直言うとボクらには関係ないよ」

 身も蓋もないことを言い出す命。

「ボクらにとって先生は先生で、魔女なんかじゃないよ。それに、先生がクソだって言う台本も、何やかんやでボクは面白いと思ったけどね。読み合わせの時の解説が全部嘘だったとしても、ね。ただまあ、役者としてはもう少し頑張るべきだと思ったけど」

 話を一気に引き戻す。

 そうだ、そう言えば、芝居の駄目出しをされていたのだった。

 いつの間にか私の懺悔独白会みたいになっていたけれども。


「全部吐き出して、気が晴れましたか」


 アンジュが明治と同じセリフを吐く。

「古井戸白羽が全て吐き出してスッキリしたのなら、取り敢えず、この場はこれでお開きです。時間は再び動き出すので、残りの芝居を精一杯に演じて、結末に導いてください」

 人に長々と語らせた割には、本当にこの天使は余韻も何もなく次へ次へと行こうとする。

 でも、そのテンポの良さが、今は有り難い。


 涙を拭って、顔を上げた。


 アンジュは、自分が雷を落として黒焦げにしたバケモノの骸を見上げている。

「……今さらですけど、少々やりすぎましたね。後で店長に回収に来てもらいますけど、とても調理には使えなさそうです。もったいないけど、廃棄ですね」

 耳を疑った。

「え、これ――食材にするんですか!?」

「何を言っているんですか古井戸白羽。アナタ、チャンプルーを食べたでしょう。これが、サンドワームですよ」


 目の前が真っ暗になった。


 これが、サンドワーム!?


 私は、これを食べたの!?


 アンジュが背を向け、世界は色を取り戻す。


 時間が動き始めた、その瞬間――私は胃袋の中身を、全て砂に吐き出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ