嘘の理由
人はどうして嘘をつくのだろう。
自分を守るため?
誰かを守るため?
相手を陥れるため?
責任から逃れるため?
人間関係を潤滑にするため?
理由は色々ある。
ただ、私が嘘をつく理由はいつも同じ。
それは――。
大きく息を吐いた。
こちらを見つめる二人を見返す。
「どこからお話ししましょうか」
「一番知りたいとこからだよ。嘘って何。先生、ボクらに嘘つくタイミングなんてあった?」
「タイミングも何もないよ。3日目、台本が出来上がって、私たちダイナーで読み合わせしたでしょ。あの時に言ったこと」
あれ、全部嘘だったの。
2人ともポカンとした顔をしている。それはそうだろう。
「……アタシの頭が悪いんですかネ。言ってることがよく分かりませんで……」
「ボクも分かんない。全部嘘って、そんな訳ないじゃん。台本は確かに出来てたし、ついさっきまでボクらはそれに従って芝居してたんだからさ」
「……全部、というのは流石に誇張した。でも、あの日けっこう時間を割いて色々説明したでしょ。全てにちゃんと必然性があるって――」
その部分が、嘘なの。
本当は、意味なんてない。
「一番最初、どこかで聞いたことのある話や設定を繋ぎ合わせただけって言ったの、覚えてるかな。あれが本当。いわゆるテンプレだけで構成した適当で安直でオリジナリティもリアリティもない、整合性も必然性もない話を書いたつもりだったんだけど――そう、ギルド編の下り。命くん、受付嬢が下着を晒す必要があるかどうかで揉めたじゃない。安直なエロは作品を安っぽくするって」
「そんなこともあったね。よく覚えてるよ」
「今思えばあそこがターニングポイントだったんだと思う。どうして下着を晒さないといけないか、色々と理屈こねたと思うけど、あれって全部後付けの理屈なんだよね。だから厳密には嘘という訳ではないんだけど、書いてる時はそんなこと考えないで書いてた。あそこで命くんの発言があったことで、私の中でスイッチが入った。あの後、事あるごとにツッコミが入ったよね。ここはどんな意味があるんだ、この要素は必要なのかって――その都度、私は理屈に理屈を重ねて二人を納得させた。全ての事柄に意味があって、緻密に計算されてるんだって。大嘘。あれね、頭空っぽにして書いたクソ台本なの。二人を――特に命くんを納得させるために、私は嘘を重ねた。嘘と言うよりも詭弁、方便かな?」
「……ボクが悪かった、ってこと?」
「ううん。命くんは悪くない。悪いのは私。と言うより、命くんが言ってたことって、全部正しかったんだよね。受付嬢のパンチラは、ただそういう場面を入れたかったってだけの安易なセクシーシーンだし、ミコというキャラはオタクに媚びを売った安直な萌えキャラ。その後のコダチの居合で服が千切れるシーンも同じ。意味なんてなーんにもないの。バカ丸出しのラッキースケベ」
「悪くないにしても、先生に嘘をつかせたのはボクだよね」
「こだわるね。……嘘の理由は、三つ。一つ目――きっかけは、確かに命くんだった。君が露骨に嫌悪感を示したから、何とかして納得させないとって思って、即席でそれらしい理屈を考えた。で、だんだん詭弁、方便を駆使するのが楽しくなってきちゃって、途中からはゲーム感覚で楽しんでた。これが二つ目。三つ目は――これはあまり言いたくないんだけど――二人から尊敬の目で見られたかったってとこかな。凄い、そこまで考えて書いてるんだ、さすがはプロの漫画家だって――賞賛されたかったのね。小さい、つまらない人間でしょ。でも、それが私の本質なの」
認められたい。
評価されたい。
注目されたい。
愛されたい。
誰だってそうだ。
私だってそうだ。
「下らない見栄とプライドと承認欲求に二人を巻き込んだこと、本当に申し訳なく思っています。こんな――こんな、つまらない台本に付き合わせちゃって……」
「ちょっと待ってくださいヨ」
しばらく黙って聞いていた明治がここで口を挟む。
「さっきから聞いてれば何ですか、『適当で安直でオリジナリティもリアリティも必然性も整合性もない』だの『頭空っぽにして書いたクソ台本』だの、自分が書いたものをボロカスに言うじゃねェですか。読み合わせの時の講釈が嘘だったとしても、台本そのものは面白かったと思いますけどネ」
「面白い訳ないでしょこんなのがッ!」
大きな声が出る。
言った後でハッとしたけど、熱は下げられない。
「面白い訳がないんです。そういう風に書いたんですから」
眉間に皺をよせ、腕を組む明治。
「……また分からなくなってきましたネ。面白いと思って夢中で書き上げたものが、後から読み返すとそうでもないってことァよくある。自信作が他人から酷評されることも、時間がなくて満足のいく出来のものが出来なかった、てのもまァ分かりますよ。ただ、自覚して駄作を作り上げる創作者ってのァ、ちっと聞いたことがねェな。一体全体、どんな事情があるんです」
明治の疑問はもっともだ。
私は一度深呼吸をして、唇を湿らせる。
腹はすでに決まっている。




