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即位式準備

第52章

 カスター先王の言う通り、住まいは重要な問題だった。


 本来ならグレースが領主の屋敷に、移り住むことが理想だったが、両親としてはグレースが他の場所で暮らしても、今の健康が続く事が一番の心配で、危険を冒すことは出来ない。そうなると新しい屋敷の建設だった。


 「屋敷を建てるにあたって、場所は、水のある川の近くがいいのでしょう。後は何か希望がありますか?」

 「二人だから、何か日本式の物を取り入れますか?」

 「竹とか?」

 「かぐや姫風?」

 「---こたつは?ダメでしょうか?」


 「いいね! こたつは人間を駄目にするけど・・僕たちは隠居の身だからね。あってる。後は、僕たちの寝室は、きっと掃除する使用人くらいしか、入室しないから3LDKのマンション風にするのはどう?キッチンもつけて・・スリッパ生活」


 「それは王宮の国王のお部屋みたいですか?」

 「エミリオが話したの?」


 「はい、エミリオが王宮での国王の部屋のことを話していた時に、それって・・・日本のマンション感覚と思いました」


 「安全な場所はあの部屋だけだったから、少しでもくつろげる部屋が欲しくて、特にお風呂と洗面所は全くの日本スタイル」


 「そうですね。お風呂は欠かせませんね。後、トイレや、ソファも・・」

 「ソファは大事だよね。そこは任せて作った事があるから、では、寝室は僕が作っていいですか?」

 「はい、お願いします」


 「私は川に向いている庭とダリアの薬草畑や、温かい大きなこたつのあるサロンを考えます」


 「絵はレノミンさんが得意だからそれをイメージして作らせる。でも、構想から完成までは2年はかかるね。大掛かりな建築になるから・・」

 「はい、それまではコチャ領のグレースさんの別荘に居候させて頂きましょう」


 「うん、子供が生まれて、結婚式を挙げてからの新婚生活はリバーサイドの屋敷になる。幸せだ」


 二人は顔を見合わせて微笑む、本当の新婚カップルのようだ。


 そんな両親を持ったエミリオは大変に忙しい、自分の即位式を自分で仕切る。相談できるのはドント宰相、ギシ、コチャ領の皆さん、それにカタクリ国のビル国王だった。


 ビル国王にとっては、自分の息子より小さいエミリオだったので、それは、それは親切に相談にのった。

 「何かあったら相談してくれていい。先王もレノミンに、これからもお世話になると思っているから・・すまない・・」


 「ありがとうございます。即位式は、カタクリ国で経験させて頂いて大変助かりました。この後、行われるキュル皇太子の即位式も隅々まで覚えて帰ろうと思っています。しかし、今回、初めてお母様が国民の前に立つことになります。お母様は今まで贅沢とは無縁の生活を送ってきました。もちろん、宝石などは、前領主のおじい様が、お母様に残したものがありますが、衣装でなにか気をつけることはありますか?その事を、王妃様に聞いて頂けますか?国王が即位式で着る伝統衣装がありますが、お母様は王妃ではなく、生母として出席なさりたいと申していまして・・そうなると、前例がないもので・・・」


 「誰よりも、キレイなお母様と一緒に、宮殿のバルコニーに立ち、国民に挨拶をするのが一番の楽しみです。それには間違いがあってはならないと、思いまして相談しました」


 「そうだね。レノミンとグレースは初めて国民に顔を出す。レノミンとグレースの衣装の件は王妃たちに聞いてみるよ。安心して、失敗は絶対にないから・・任せて! 」


 「ありがとうございます」

 電話の後、サロンに向かいエミリオの心配事を、王妃二人に話す。


 「王妃、即位式で、何か伝統的に衣装につける物とかありますか?例えば我が国でもいいのですが?」


 二人は顔を見合わせて、

 「本当にサンシン国は人材不足ですね。でも、衣装は私たちに任せて貰っていいかしら?全力であの二人の為に作りますけど・・・」


 皇后は輝いた顔でビル国王に尋ねる。


 「しかし・・・サンシン国は織物産業の国ですので、自国の生地で作るのが最低のマナーではないでしょうか?例えばですね。襟があるドレスとか、袖丈とか、金糸を使うとか、親からの伝統を受け継ぐとか・・」


 「それ !それ !です」


 二人の王妃は突然、立ち上がり、


 「ナナ王女の衣装はまだ保管されています。それはあのふたりに受け継がれる物です。その中にはきっと即位式に取り入れられる物があるはずです。調べましょう」


 二人はあっと言う間に走り出した。そこに先王が現れて、ビル国王が説明すると、


 「すべての使用人を呼び、王妃の指示に従え! 」と勝手に命令をだした。


 「イヤ、先王・・・エミリオは小さい所を、聞いて来たと思いますよ。誰にも母上に文句を言わせない為、完璧を望んでいる。そういう心だと、理解できます」


 まったく、聞いていない様子・・・


 「どうして、ナナ姫の遺品をこの前、持たしてやらなかったのか・・わしの最大の失敗だ・・。儂としたことが・・思いつかないとは・・」


 「そうだ! 文献も調べさせなくては、エミリオはまだ小さい、国王も当てにはできない・・・」

 「国王、歴史学者に調べさせて報告させるように・・忙しいぞ! 」


 「---自国の即位式は即席でしたけど・・・?僕は気にしませんが・・、」


 王妃たちは、ナナ王女の衣装と装飾品の点検を初めた。それはそれは素晴らしい物が多く、二人を知っている使用人たちも、このドレスを着ているグレースを想像したりしていた。

 しかし、流石に30歳近くのエミリオには似合いそうもない。


 「皇太后の物で何かお印に残るものはなかったかしら?」

 「そうだ!!!!! 」


 それから、その王妃の集団は、今度は皇太后のすべてを保管している所に向かった。


 「そうですね。突然、病気の娘が誘拐されて、どんなに苦しんだでしょう。もしも、この晴れ舞台で、孫に受け継がれる物があれば、きっと、お喜びになるはずです。どんなことをしても、皇太后さまの物を、衣装に組み込んでもらいましょう」


 「はい! 」


 それから、カタクリ国の宮殿では、皇太后とナナ王女の持ち物の点検と修理に追われ、王妃たちのサロンでのお茶会等は、しばらくは開催されなかった。


 ビル国王は自分の説明の不味さをしみじみ感じていた。


 エミリオにはなんと説明しよう。エミリオは幼い国王で助けてやりたいと思ってたが、明らかに、カタクリ国の方が迷惑をかけている割合が大きいと思っている。


 「エミリオ、すまない。大荷物が我が国からそちらに届きそうだ・・・。本当に、すまない」


 その後、グルガシ国では、キュル皇子が国王に即位する即位式が行われた。


 グルガシ国のコロネ国王は、やっと、自分で退位を望み、キュル皇子に譲る決意をした。


 それは、やはり、サンシン国の交代が大きなきっかけとなった。皇子はもう成人して、家庭を持つ年で、責任も取れるはずだ。3か国からは先王、現王、皇太子などの皇族が勢ぞろいして、この日を祝った。


 しかし、グレースとレノミンは来ていなかった。


 コロネ国王が

 「グレースは領主になった。一番の身分は領主だ。わかるな! 」と、話し・・

 「はい、わかります。サンシン国の国王は、実は頭のいいお方です」


 「ああ、きっとそうだ。他国の国王たちは狸のようだ。その中でも我が国に国王は最も誇らしい国王になると信じている。この国を、そして、この世界をお前に託す」


 「謹んで、お受けいたします」


 コロネ国王は泣きながら国王の剣と盾をキュル皇子に伝承した。


 キュル国王は、しっかりとした表情でそれを受け取り、ただ前だけを向きそれは立派な即位式だった。


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