カスター国王の退位
第44章
二人はそっと、部屋に入る。
レノミンは眠っていた。すでにダリアが薬草を入れたお風呂を用意していたので、そのままレノミンを入浴させる。
「エミリオ様、グレース様、少し待って下さいね。ダリアがレノミン様を治療してきますので‥」
二人を頷き、レノミンの為に、コチャ領から派遣されて来たシルキーが、二人にお茶の用意をする。
「私も浴室に入りますので、こちらでお待ち下さい」
「グレース、ごめん、」
「お母様がご病気なのに直ぐに来れなくて・・・こんな時間を何週間も一人でいたなんて・・辛いよ。ごめんなさい」
「うん、でも、キュル皇子がいつもそばに居てくれたし、おじい様たちも慰めてくれていた・・でも、早く、コチャ領に帰りたいの・・・・今はお母様には無理させられないのはわかっているけど・・」
「うん、僕も、お父様も二人には早くコチャ領に戻って欲しいと思っている」
「サンシン国はどう?ご病気の人たちは治ったの?」
「うん、もう、安全だよ。スゴイことに、コチャ領では一人も病気に罹らなかったんだよ。家令とティアが頑張ってくれた。でも、二人ともとっても寂しがっていたよ。お母様とグレースに早く会いたいって、心配していた」
「うん、私もみんなに会いたい」
1時間半が過ぎ・・・レノミンはポカポカの状態で浴室から出された。二人は立ち上がり、
「お母様!!」と駆け寄った。
レノミンは、
「エミリオ、グレース・・・良かった、会いたかったワ!」
「エミリオ、遠くからご苦労様、サンシン国はどう?大丈夫?」
「はい、お母様のおかけです。カタクリ国より沢山のお酒が運ばれ、すべて消毒に使用して病原菌を断ちました」
「はい、こちらは、お酒に少し薬草と卵は入ったスープです。今回の病によく聞きました」
「ダリア、ありがとう。ダリアのお蔭で、何とか治療が出来て、大勢の命が救えました。本当にありがとう」
「何言っていますか?私が一番に救いたい人はレノミン様で・・・レノミン様がご病気になるなんて・・・こんな事・・・悔しくてなりません」
ダリアが泣き出し、エミリオとグレースはいつもの様に慰める。
こんな日常が一番だと、周りにいたシルキー、ミンク、ジャル、サンドロ、バルト、ギシは思う。
皆の心はすでにコチャ領に向いていた。
1週間後にビル国王の即位式が行われた。
そこで、国王は皇太子へ国王の証の剣と青い服を渡した。
その後、発表があり、その他の皇子は男爵まで位が下げられた。そして、今回、流行り病の治療にあたって多くの国民を助けたレノミンには伯爵の位を、マルク医師とダリアには男爵の位が特別に送られた。
マルク医師は欠席だったが、ダリアはその場でびっくりして、足がガタガタ震えていたが、なんとかビル国王の近くまで行き、証の勲章を手にした。
ビル国王はダリアを支え感謝した。
その後、会場は静かになり、ビル国王が話しだす。
「今回、我が従妹のレディ・レノミン・ファーストの功績を国民全員で称えて欲しい。彼女は今、起きられない程に力を使いました。前国王と共に、ここにいる全員で拍手を送りましょう」
大きな歓声と大きな拍手だ起こり、エミリオとグレースは涙を流し、そして、沢山の花火が上がった。
シルキーたちと、窓から即位式を見ていたレノミンはカタクリ国の皆さんに感謝して、ずっと、泣いていた。
「レノミン様、カタクリ国だけではな、他の国からもきっと沢山の拍手を送られているでしょう。私たちの領主様は最高の領主様です。ありがとうございます」
周りにいるコチャ領の人はレノミンを支え抱き合い喜びを共にして、サンドロの上げる花火をずっと、見ていた。
即位式、2日前、その嵐は突然、やって来た。
国王陛下に申し上げます。
「ハナ国より、ライ皇子が到着いたしました」
「??????」
「ライ皇子?随分、急なお出ましだ・・?」
「初めまして、この度はハナ国への沢山のアルコールの寄贈を、ありがとうございました。また、貴重な情報も、いち早くお知らせくださって、ハナ国一同、カタクリ国には大変感謝しております。国内も落ち着き、私も2週間、感染者との接触がなくなり、取り急ぎ、両陛下のお祝いに駆け付けた所存でございます。父より、何台かの軍用に用いられる武器等を持参して参りました。お納めください」
「ライ皇子、わざわざ本当にありがとうございます。式典は2日後になりますが、どうぞ、ごゆっくりしていって下さい」
「ありがとうございます」とライ皇子が、頭を上げた時に最初に目にしたのは、グレースだった。
グレースはいつもカスター国王の隣にちょこんと座っている。キュル皇子対策と言っても過言ではない・・・。
そのまま、ライ皇子は2、3分、グレースを見て動作が止まってしまっている。
ライ皇子は14,15歳くらいで、従者には父親から降下されたホリーとモリスがついて来ていたが、彼らの咳払いも、聞こえない程にグレースに夢中だ。怖くなったグレースはちょっと、カスター国王の後ろに隠れる。
ライ皇子はホリー達に急かされて、立ち上がり、部屋を出て行った。
その後の無言の状態が怖かった。ひゅ~~~~~。
「グレース、エミリオたちの部屋に行って、なるべく今日は出歩かないでいた方がいい・・」
「はい、」
「父上・・・一難さって、また一難ですね。あのライ皇子・・・明らかにグレースの美しさにやられてしまっています。如何なさいまっすか?」
「如何なさいますって、この件はすでにビル国王に引き継いだ。任せたぞ!!」
「国王・・そんな・・・!」
「お前が国王だ!私は退位する。-----寝る。頭が痛い・・・」
「------」
その場に残った王妃たちは、
「我が国に、女性皇族が誕生しないのは、もしかして・・意味があったのでしょうか?」
「私も思いました。ナナ王女とココ王女は、ほとんど人には会っていません。しかし、グレースは、周りの誰からも好かれてしまいます。そして、これを鼻にかけない天生の性格の良さです。このままグレースがどこかの国に嫁いでしまったら・・・この4カ国の同盟にも傷がつくのではないでしょうか?」
「美人は本当に災いの元だと今わかりましたね」
しかし、それから、ライ皇子が持参した、自転車に周りの皇子達は夢中になって、グレースを囲んで一緒に自転車の練習をして、王室の広い庭をサイクリングしたりして、いい関係を作っていきました。
ただ・・・何度もグレースは転んで切り傷が増えていくと、カスター国王よりグレースは禁止されてしまい。泣きながらレノミンに訴えに来た。
「え~~~ん、お母様、もう少しで上手に乗れるのに・・・おじい様がダメって・・・皇子達は皆で練習して乗れているのに・・・」
「どれどれ・・こんなに膝を怪我して・・・もうすぐ大事な式典があって、あなたはお母様の代わりに出席するのよ」
「はい、初めての領主代理です。ティアから長いお祝いの文章を暗記するように送られて来て・・・吐きそうです。気分転換に自転車に乗りたい・・・グス・・・」
レノミンは自分でも甘いと考えながら、ここ1ケ月近く、グレースにはたくさん我慢をさせたと思い、サンドロを呼んで補助輪をつけてもらうように指示を出した。
そして、グレースの可愛い自転車は補助輪が付いて、みんなと合流することが出来ました。
それを見たエミリオは・・・
「これなら、3歳児でも乗れるな」
グレースは真っ赤になって怒って、周りの皇子たちは、やはり兄弟は残酷であると悟った。




