コチャ領
第45章
ダリアとエミリオがカタクリ国にやって来て、レノミンはみるみる回復して行った。
そして、ミンクの診察で、コチャ領に戻ることができると判断が出て、長い滞在生活は終わりを迎えようとしていた。
カタクリ国の王室全員、名残惜しみ、悲しんだが、レノミンの事を考えて賛成してくれた。
「おじい様、さようなら、今度はグレースのお家にいらして下さい。待っています」
「そうだね。今度は王妃を連れてふたりで遊びに行くよ。元気でな、グレース」
「また、来てね」
「待っている」
「またね」
「また今度・・」と抱き合いながら・・・グス・・
カスター前国王とグレースは何度も別れを惜しんで、宮殿を出発していった。
「さあ、戻りましょう。私たちのコチャ領へ・・・!!」
宮殿から橋までは、前回以上に、にぎわいを見せていた。レノミンとグレース、エミリオがサンシン国に帰って行く車列は、カタクリ国よりのお土産が多く、ワインに至ってはもう一台、国王が追加したくらいでだった。
今後は両国の往来が長く続いて行くことを願いながらレノミン達はその橋を渡った。
「お母様、この橋の名前を決めていないで帰って来てしまいましたね」
「そうね、正式な発表はされないままに、色々な事が起きてしまって・・・帰ったらお父様とビル皇太子で決めて頂きましょう」
「どんな名前になるのでしょうかね??」
橋の向こうにはキース国王の車が待っていた。
「お母様、お父様よ。お父様が待っていらっしゃる。手を振っているワ・・」
車は国王の前に止まり、レノミンは降りて挨拶をする。すると、突然、キース国王はレノミンを抱き、
「よかった、本当によかった。もう、サンシン国には戻って来ないかと思って、心配していました。良かった。顔が見れて、ご苦労様でした。お疲れ様。レノミンさんのお蔭で沢山の人の命が救えました」
「国王、大袈裟ですよ。後ろの部隊の人だちは??コチャ領の部隊ですが・・・」
「ええ、また、後ろから敵が迫って来た時は、橋を爆破しようと思って・・・待機していました」
「お父様、今度、橋を爆破したら、きっと、おじい様にすっごく怒られると思います。おじい様、明日にでも別荘に来るって感じでしたのに・・・」
「そう?・・・・・」
(・・この橋さえ無くなれば・・・)
カタクリ国からの車列と軍隊を引き連れた国王一行は大人数でコチャ領の別荘を目指した。
別荘では、家令とティアがすでに並んで待っていた。
「お帰りなさい、レノミン様、グレース様、エミリオ様」
「今回は大変な旅でしたね。お疲れ様です。お待ちしていました。さあ、お部屋でお休みください」
「今回、大変な時に、領主が不在で申し訳ありません。良く、私たちが旅立ったままの状態でこの地を守って頂いて、本当に感謝しています。大変でしたね」
「いいえ、日ごろからこの領土では領民の所在の確認を丁寧に行っていたバルトのお蔭です。幸い、この領土内にS国からの侵入者が、いなかったので、助かりました。一応、防疫ですべての領民にアルコールのテストを実施して、カタクリ国より大量に頂いたお酒で毎日消毒を欠かせさないように指導しました」
「今回はカスター前国王には大変お世話になりました。工場の方ではこの3ケ月はマスクの生産をキース国王より依頼があり、フル稼働して対応してました」
「ありがとう、後で工場に行って皆さんにお礼を言わなくてわ」
「いいえ、何より、レノミン様は少しお休みください」とダリアが言う。
周りの人達も一斉に頷き、レノミンはやっと部屋に入り、シャワーを浴びて、眠った。
「久しぶりだ~~~。やはり、我が家が一番いい・・・むにゅ・・・」
どの位、レノミンは眠ったのだろう・・・・?
夕食前に起きる予定だったが、きっと、余りにも深い眠りだったので誰も起こしに来なかったのか?
そして、夜になり、霧が深くなってきた。
国王はレノミンを抱いて、湖畔の特性ベットにレノミンを寝かせていた。
周りの全員の意見も同じだった。今回、レノミンは体力を消費しすぎている。
このままでは、何か月も元には戻らないと、ミンクたちは考えていた。もちろん、グレースやエミリオ達にはそんなことは言えない。しかし、国王は騙せない。
ダリアは特性のお湯は、すでに用意したある。パジャマのままのレノミンを皆で湯舟に入れた。そして、髪の毛からつま先まで、薬草湯につけてマッサージをして、次のお風呂に入れる。
レノミンは一度も目を覚まさない。夢を見ていたのだ。この3年の事、カタクリ国でのS国の人々の事、前世の東京での事、国王の事・・・長い長い夢の中にいた。
夢の中ではレノミンは東京にいた。
東京に出てくるのは久しぶりで、電車の発車案内板を何度も確認していると田舎者だと思われるのかなぁ~~とか思いながら、人々が忙しそうに行きかうコンコースで立ち止まってしまう。
「いけない!いけない!3番線にのって、普通にしなくては、風景に溶け込むように・・・・電車に乗って、駅に着いたら今度はA4の改札を探して・・・・やばい・・息が出来なくなって来た」
そんな時、コチャ領に戻って来れた。頬に涙が伝わっている。でも、安心している。それはきっと、国王がこの世界に一緒に来ている安心感だと夢では素直に思っている。
この3年、国王はよく電話や手紙をくれる。きっと、前世ではラインで済ませていたのだろう・・そんな内容の手紙だ。
この国の手紙の書き方を知らない。でも、いつの間にか楽しみになった。配達に来る人はいつも同じ人で、レノミンもラインのように簡単なメモの返事を返す。ラインの手紙は読んだらお互いは燃やす約束になっている。
音楽関係だけあって言葉遊びが上手でいつも感心してしまう。でも、その言葉を前世で使って上手くいったから、自分にも使っているのかと疑っているのも本心。
「国王、私も転生された人です。わたし、あなたの事、本当は知っています。あなたはあっちの世界でも輝いていて、この世界でもトップの人です。わたしとは違います。私は暑い夏に都会に出ただけで死んでしまう人間なのです・・・・」
その日、イベントがあって、A4の改札で降りて、地上に上がる。
「しまった!大勢の人が歩いているのは道路の反対側の方だ! どうしよう・・・こんな広い道・・渡れない。どうしたらあっちの道に行けるの?? 時間が無いのに・・・何度も確認したのに・・間違うなんて・・・」
その時、ただ一歩だけ道路に足を踏み出した瞬間、曲がって来たトラックに・・・・心の中で両親と兄弟に何度も謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
そして、気分がどん底になった時に、思い出したのはS国の人たちの事だった。もちろん、この世界では侵入者は罪人で、ましてや病気を持っている。しかし、あのブンカ領の人たちは本当にひっそりと生きてきたに違いない。
彼らを助けられない自分を悔やんだ。自分の力の無さを悔やんだ。彼らはきっと、未来の為、あの領土の為に、子孫を残さなかった。でも、レノミンはすでに子を残している。この世界の人たちにとっては自分も同じ侵入者ではないのかと・・・・思い悩んでいた。きっと、これが、レノミンの体調不良の原因だ。そう、心の病・・・・
レノミンは、どんどんうなされて行った。そして、闇の中に溺れて行った。
「た・す・け・て!! 」と言って目が開いた時はすでに朝で、レノミンの部屋だった。しかし、少しだけ違うのは隣に国王が寝ていて、
「おはよう! 」と微笑んでいた。




