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存在意識

第35章

 その日の夜、ダリアは、ナナネコに囲まれて眠る皇子を見て安心していた。


 この所の公務がとても忙しいエミリオに、レノミン様が下さった休息だと感じられた。


 一方、エミリオ様に、色物出版がバレてしまった。バルト達は今後の事を話し合っていた。

「今回・・・王都での件ですがどうしましょうか?」


 「レノミン様とのお約束で、私たち以外に、このことが漏れた場合は、色物出版は中止となります」

 「例え、それが皇子であってもです。よろしいでしょうか?」


 残りの5人は揃って頷いた。

 「ギシとサンドロは、このまま残って少し皇子をサポートして欲しい。残りはいち早く別荘に向かおう」


 別荘で、王都の事をエミリオに報告したバルトは

 「---という理由でBL出版は中止にした方がよろしいかと思いまして・・・」


 「ええ、それでいいです。いつでも終わらせるように、毎巻、完結風にしてあります。結局、二人の男の子は森で手を繋いだだけで、終わってしまったのですね・・・・互いの気持ちを言わないまま・・・」

 「今度こそ、進展を描きたいと思っていましたが、そこだけは残念です」

 「レノミン様・・・・」

 「でもね、次の物も考えてあるの・・・・バルトは少し?もしかして・・責任とか感じている?」


 「--ええ・・?」

 「手先は器用な方?」

 「普通だと思います」

 「普通がいいの・・」

 「??????」


 「これハチネコのキットだけど、誰でも出来る様に説明書と編み棒と毛糸のセットになっているの、これで小さいハチネコが出来上がるか挑戦してくれる?」

 「え??私がですか?」


 「はい、バルトさんお願いします。男性でも出来上がったら一般の人も大丈夫かなぁ~~と思いまして、お願いします」

 「後、どの位の時間で出来たかもお願いします。ネコの胴体もボタンも入っていますので、ハチネコが完成するはずです」


 「私は・・・実験ですか?」

 「はい、そうです。お願いします」

 

 「わかりました」


 バルトはそれから今日の仕事をティアに伝え、部屋に籠ってハチネコに取り掛かった。


 何度もやり直して、不細工なハチネコが出来上がった。


 ハチネコは不細工なネコだったが、ネコ好きもあり、自分の手で仕上げるといっそう、愛情が湧いた。レノミンが一緒に手渡したハチネコのイラストが参考になり、同じように出来上がった。


 次の朝、嬉しそうにバルトが走ってやって来た。

 「レノミン様、出来上がりました」


 レノミンは嬉しそうにバルトを見て、頷いて、

 「ありがとうございます。----昨晩は寝ましたか?」

 「いいえ、何度もやり直して、正確に出来上がるのに集中しました」


 レノミンはバルトが一生懸命に取り組んでくれた事に感謝した。

 「自称、毛糸大臣としてはこのキットを今度は売ってみようと思うのですが・・・どうでしょうか?」

 「ええ、いいと思います。しかし、もう少し、モニターが欲しいですね」


 そこに、グレースがやって来た。

 「お母様、今日は学校がお休みです。雪が降ってきました。アレ・・・この不細工なネコなんですか?」

 「バルトが作ってくれたのよ。グレースも作ってみる?」

 「うん、」


 早速、グレースは新しいおもちゃにとりかかった。

 「今日は雪で、別荘の全員に配れるように準備しましょう」


 そして、試作品がどんどん作られて行って、国王の元にもグレースが届けた。


 「お父様、このキットでブサネコ・・・いいえ、ハチネコができるらしいですよ。お母様が今日はのんびりして、別荘のみんなで作ってくださいって、おっしゃっていました」


 国王はそのキットを見て、レノミンの所に行った。

 トントン、

 「レノミンさん、少しお話いいですか?」


 国王はとっても慎重に話かけていた。

 「はい、どうぞ・・・」


 部屋に通されたのはどの位ぶりだろう・・・

 「このキットですが、売り出す予定ですか?」

 「はい、国王がこの国は布しかないと、おっしゃって、私は毛糸でサンシン国を応援できたらいいと、思いまして・・・」


 「有難いです。これに小さなメッセージカードでもいいので、少し物語を入れてくれませんか?」

 「どのようなメッセージ物語ですか?」


 「もしも、これからS国がこの大陸に押し寄せて来て、戦争になった時に、私たちが生きている間は、4国が連携して立ち向かうでしょう。


 しかし、ドント宰相の話を、信用するのであれば、何年も先の話です。その時が、いつかなのかわかりません。4国の連携も、その時まで保っていられるかもわからないのです」


 「だから、宰相の未来の話を、このブサネコのキットの中に入れて欲しいと思いました。もちろん、このキットが売れて、国民の記憶の隅に残ればいいと思います」


 「記憶に残る為には、親世代と子世代の両方に残ってほしいのです。その時にじっくりブサネコを作っていたことが、浮かぶくらいの記憶でもいいのです」


 「ドント宰相の話を、どうにか国民に知られておきたいと、ずっと、考えていました。でも、私が国民に話しても、頭がおかしいと思われます。だから、存在意識の中に植えていきたいです」


 「あなたが作った物は他国にも輸出できて、4か国にも広まる可能性があります」

 「どうでしょうか?」


 レノミンは、そんな事は全然考えていなかった。でも、この国王は、遠い未来のこの大陸のことも、考えていたのだろうか?レノミンはまた難しい顔をして、しばらく考えていた。


 「---宰相の話を聞いてからの返事でよろしいでしょうか?」

 「いいです」


 国王はレノミンが答えてくれたことが嬉しかった。

 「国王! このネコ、ハチネコと言います。ブサネコではありません」

 「はははは・・・わかりました。名前はハチでいいです」


 「後、久しぶりにレノミンさんと話せて良かったです。ありがとう」と爽やか系を装って、国王は立ち去った。

 (いやいや、あなた、沖芸能人だから・・・)


 その後、レノミンはドント宰相と、二人で話をすることができた。家令や国王は二人きりは、乗る気ではない様子だったが、何故か同じ転生人として、二人で話してみたかった。


 二人は向かい合い、国王の意図を宰相に伝え、協力をお願いした。

 「レノミン領主様は私の話を信じますか?」

 「ええ、信じます」

 「どうして・・・??」


 「あなたがずっと独身だと聞いたからです。国王の次に、いえ、国王以上に力を持っていたに違いないあなたは、結婚をしていない・・・前世では奥さんやお子さんが、いらしたのではないかと考えました。もしかして、ご家族をとても愛していらしたのではありませんか?」


 宰相は体が震えて、涙がドンドン出て来た。

 「はい、私には愛する妻と子供たちがいました。それだけで、十分幸せだと自分に言い聞かせて、この年まで生きてきました。彼女が生きていてくれるだけで十分だと・・・」


 「宰相、私も愛する父を亡くしています。父は、愛する母を失いました。もしかしたら、私が選んだ道が父の死を早めてしまい、私が生まれる為に母の死も早めた。もしも、時間が戻ったら、私は生まれない選択をするのでしょうか?---それは無いです。生きて、最善を尽くす努力をしたいです」


 「でも、これから起こる事が、恐ろしい事で、その未来を少しでも早く国民の一人でも、察知してくれたらと言う、国王の賭けに、私は乗りたいと思います」


 「わかりました。しかし、前世と今は全然違います。前世では、何年か後に、ハナ国とグルガシ国は長い戦争に入ります。それは、どちらも譲らない戦いです」


 「2国が、戦争状態に入った時に、S国はカタクリ国に武器を売ります。ハナ国は車の開発が進んでいましたが、カタクリ国は、これと言った戦力がありませんでした。もちろん、サンシン国もです。しかし、ナナ王女の事で、国内に不穏な動きもあり、後継者争いも起きました。その時に、サンシン国がある皇子に加担したのでした。その皇子は、国王の命を狙う為に、サンシン国に協力を要請していたことが、カスター国王の逆鱗に触れたのです。ハナ国の後継者争いの時も、北の宰相についていたサンシン国は、3ケ国の内、2国を敵に回してしまいました」



 「---戦火は広がり、町全体を覆ったのです。その時には、どの国が、敵か、国民に知らせる手立てがありませんでした。戦火を逃れる為に町の外にでましたが、我が国の軍隊は、国民を守ることが出来ず、その火はやがて国中に広がり、気が付けば、勝利していたのはS国だったのです」


 「私の大事な妻と子供たち、そして、私も火の海の中にいまいした・・・・無念です」


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