スケッチブック
第20章
夕食の時には、またレノミンとグレースが同席した。今回、ドント宰相は欠席している。
目の前には積まれた蟹、カタクリ国王たちも初めて見る光景だった。カタクリ国とハナ国は海に面していない、4国の中心にあるカタクリ国は、すべての国に面していて国境警備に莫大な予算を使っている。
塩の問題は海水が一部の川に流れ込んでいる所があり、そんなには不自由をすることが無い。
レノミンが蟹の食べ方をレクチャーする。食べやすいようにすでに裁いてあるので食べやすいが蟹が、どのような物かを、カタクリ国王に紹介するために、そのままの形でテーブルにも飾った。
「これは蟹です。目の前の湖で捕れます。グレースの誕生日に消費して、少しだけ残ったものがあったので、お出ししました。寒くなったらもう少し捕れると思いますが召し上がって下さい」
「こんなに大きな蟹を初めて見る。うん、美味しい、これは美味しい・・・なぁ、宰相・・」
「はい、初めて頂きました。このスープに入っているのも蟹ですか?」
「はい、そうです。煮るとだしが出て、より一層、美味しくなります」
「揚げてある魚もこの湖で捕れた物ですか?」
「はい、湖の恩恵を受けていて、毎日、感謝しています」
「この別荘の周りは実にいい!!特別な人参も採れ羨ましい限りだ」
「特別な人参って・・・?」
「君は知らないのかね?まったく!!」
「---高麗人参の事だと思います。エミリオの為にダリアが森の中に取りに行く」
「高麗人参がこの森にあるの?」
「はい、私も森のどこにあるかは知りませんがダリアが産後、乾燥させた物を良く煎じて飲ませてくれました」
「高麗人参って、それって金に匹敵する貴重なものだよ。我が国にも金山が・・・」
「お父様、人参は輝いていないよ。不味いし、私もそのお茶のんだ事あるけど、はちみつを沢山いれないと飲めないよ。ね! ダリア! 」
今晩の夕食の給仕は、ダリアが担当している。いつもの様に周りに使用人がいて、少しは和やかな雰囲気で、レノミンは心が落ち着いていた。
「森の中に沢山ありますが、乾燥に時間がかかります。わたしは少しストックがありますのでカタクリ国王のお土産に差し上げます」
カタクリ国王が
「すまないねダリアさん、君はレノミンのナニーだったそうだね。ナナには会った事があるかい?」
「いいえ、ありません、奥様が亡くなってから採用されましたので・・、旦那様が大切になさっているスケッチブックでお顔を拝見したことがありました。奥様はレノミン様のようにとても絵がお上手でいらして、ご自分と旦那様が並んで微笑んでいらっしゃる絵でした」
「そういえば、屋敷にも、別荘にも肖像画がありませんね」
「---理由はなんとなくわかるけど・・・」
「そのスケッチブックは今ありますか?」
「
「ここにはありませんが、屋敷の旦那様の机にあると思います。いつもそのスケッチブックを旦那様は眺めておいででした」
「ダリアは見せてもらっていいな~~」
「それには理由があるのですよ」
グレースは突っ込む、
「どんな??」
「私が採用されて、旦那様に初めてお会いした時に、あまりにも素敵な男性だったので、のぼせてしまって、旦那様の話が頭に入って来なかったのです。そしたら、そのスケッチブックの奥様を見せて下さいました。余りにも美しくて、痩せていて・・・・私とは大違いでした。その時は今よりも少しだけ太っていましたので、すぐに目が覚めました」
「おじい様はダリアが太っちょだからお母様のナニーに採用したの?ふふふふ」
「違いますよ。いや?そうなのか?---私の実家は元来、高麗人参のような根や草などを薬に替える漢方の店だったので旦那様は体が弱かったお嬢様の為に、私を雇って下さったと思っていました・・・今まで・・・・」
ダリアは少し暗い顔になって行く。
「私はきっとダリアの明るい性格が、お父様が気に入られたと思います」とレノミンは急いで言う。
「そうですよ、きっと!! 」
周りのみんなは気を使って大きく頷く・・・・
「そのスケッチブックは見せてもらえるだろうか?」
「はい、急いでこちらにお届けします」
「それ以外はナナの痕跡は残していないのだろうナ・・・」
ダリアが発言していいかと国王に目で尋ねる。国王が頷き、
「旦那様は、この別荘をこよなく愛していたのは、奥様がこの別荘にいらしたからと聞いています。普段、旦那様は屋敷で公務を行い、奥様は、この別荘で、旦那様のお帰りをお待ちしていました。ですから、この別荘が奥様のすべてだと思います。湖も森も奥様が手入れをなさっていて、薬草が豊富に採れるのも、高麗人参が沢山、自生しているのも奥様がまるでレノミン様に残したように思えます。蟹や魚がレノミン様が好きなのも知っていたように、この別荘のすべてでレノミン様を愛しているといつも私は感じています」
カスター国王は天を仰ぎ、
「ダリア、私を泣かせないでくれ・・・ナナに笑われてしまう。きっと、この場にいるだろう・・」
グレースがそっとハンカチで国王の目を抑える。
「おじい様、おばあ様はきっと、この別荘のどこかで私たちと一緒にいらっしゃいます。だから、時々、おじい様もこちらに遊びに来てください。湖は沢山の魚が捕れます。魚釣りをしましょう」
カタクリ国王はグレースをじっと見て、
「私は跡継ぎにはとても恵まれているが、王妃や皇太子妃が妊娠する度にどうか、どうか、男の子でありますようにと祈る。実際、女の子の孫が生まれて、3日で亡くなった時には皇子にかける言葉が見つからなかった。グレースを見て、本当に自分の孫だったらどんなにいいかと思うよ」
「グレース、女の子は可愛くて優しい・・・」
「でも、おじい様、私はキレイでやんちゃだと言われています。可愛くて優しいの方がいいのに・・」
「グレース、それも、誉め言葉だ。ハハハハ・・・・・」
楽しい食事が終わり、サロンに移動してお茶を飲んでいると、スケッチブックが運ばれて来た。国王は1ページ、1ページとめくって行く。グレースが待てずに覗き込む。
「わぁ・・おばあ様、キレイ・・・優しそうでお母様みたい・・・」
スケッチブックの中には前領主と二人で寄り添ったものが多数、描かれていた。ナナ王女が幸せだったのが、わかる品物でもあった。その中には妊娠中の王女の絵もあり、そこには、生まれてくる我が子へ、とサインがあった。もしかしたら、出産は無理だと知っていたかの様に・・
静かな時間が流れ、レノミンが初めて
「叔父様、このスケッチブックの中で気に入られた絵があれば、どうぞ、お国へお持ちください」
「レノミン、君は・・・・・・うん、もう少しこのスケッチブックを貸してくれ、今日はもう寝るよ。お休み・・・」
次の朝、国王二人は話し合い、王都での、皇太子暗殺に関わったすべての貴族を、処分することで合意した。宰相によると、セカンド家、サード家が、殆どの暗殺行為に手を染めていると証言した。その証言だけでは死刑が確定できないと考え、バルト、サンドロ、ギシに証拠を集める様に頼んだ。
フォース家は両親も亡くなり、宰相だけだった。あえて、家族は作っていないと話した。
貴族たちは宮殿に閉じ込められていたので、市中でも捕り物はほとんど行われず、国民は安定した暮らしを送っている。王都の国民は国王の交代劇にすっかり慣れていると言っても過言ではない。
「今度は、カタクリ国になるのかね?ついにサンシン国も無くなるのか?まったく、無様だ!」
市中にはカタクリ国からの兵士が沢山いたので、その為、商売も上手くまわっていた。どんな時も動じないのが、この国民の素晴らしいところだろうか?
500人ほどの兵士たちは宮殿の下に集められ、サンドロによって使える者とダメな者に仕分けされた。サンドロが国王に電話で言うには、
「使える者は一人もいませんでした。皆、元は農民だったらしく、訓練をうけたことも無いらしいです。背が高く、ガタイがいいのと言う理由で入隊が決まったと話しています」
キース国王はまたまた頭を抱えて下を向いた。その時にカタクリ国王が、
「力があるなら、コチャ領の道を整えて、カタクリ国への橋を架ける仕事をさせよう。橋が架かる場所があるとあいつが話していた」
カタクリ国王の鶴の一声で500人の兵士は移動を始め、宮殿には残党貴族だけが残った。




