第3話:ロミオとジュリエット・起
・「ロミオとジュリエット」の引用先
http://www2.tbb.t-com.ne.jp/meisakudrama/meisakudrama/romijuri.html
https://tokino-koubou.net/0-tokino-drama/shakespeare/romeo2.htm
「ロミオとジュリエット。間もなく開幕です」
体育館の音響からノイズまみれのアナウンスが響いた。そのアナウンスに客らは口を閉じ始める。ライトが消えて体育館の前方の舞台ライトのみが点灯する。
ブーンっと古いモータ特有の金切り音が鳴り、舞台の幕が上がる。
そこに映る光景は、レンガが並ぶ都市の中であった。
――舞台は14世紀のイタリア、麗しの都ヴェローナ。モンタギュー家とキャピュレット家の格式同じふたつの名家。その二つの家には古くからの怨念があり、それは新たな争いを生んできた。
そのアナウンスに合わせるように、モブ役者が喧嘩を始める。
名家と言ってるが、現代で言うならばマフィアのようなもの。何か物事があればそれを相手の家だと決めつけぶん殴りに行く。そのまま家同士の全面的な戦争にもなれば勝っても自身の家が無事ではないことが分かるので、そのままにらみ合い。それを繰り返し、怨念が膨れ上がっていった。
年々膨れ上がる抗争。町の住人は震え上がり、この都市の修道士たるロレンスはこう言葉を出し、ため息をつく。
「ああ、この争いは世界が終わるまで続くのだろうか」
この役をやってる俺が言うのもなんだけど、このセリフはキリスト教的にはどうなんだろうか? よく知らないのだけどキリスト教は神が世界を作ったのだから、そんな世界が終わるなんて不敬だと考えられてもおかしくないのでは?
そうこう考えながら神に祈るように手を組む。そうしていると天井のランプが徐々に消えていく。そして完全に消灯し、俺はいそいそと舞台から離れていく。
冒頭の説明はこれにてお終い。そして俺の出番はしばらく無い。
ここからは主役のお話となるのだ。
@
「はぁ……」
しかしながら、そんな争論のなか。モンタギュー家のロミオは争いに加わってはいなかった。
その理由は、ロミオが清く正しい性格の青年であることも一つだったが――
「ロザライン……君はどうしてそんなに美しんだろうか……」
――絶賛片思い中であり、それどころではなかったというのが大きな理由であった。
ロミオの頭の中にはキャビレット家への恨みなど一欠けらも存在していなかった。あるのは情熱的な一方的な恋の感情のみ。
だが、しかし。その恋はなかなか宿ることはなかった。
一方的に躱され続けてきた。花を届けたり。歌を届けてみたり。様々なアプローチを試行して誠意をみせたものの、その感情は受け止められることなどなかった。
失敗続きの恋。その影響はロミオの心を蝕み、それは体までに影響を及ぼした。
そんなロミオを心配して、日々日々友人らが手を尽くすがなかなか改善することがなく今に至ってる。
そして今日も都市の広場に黄昏ていたロミオに対して、言葉をかける人間が今日も一人。
「ロミオ。今日は暇か?」
「なんだいベンウォーリオ。僕は今失恋で忙しいんだ」
「意味わからん事をいうな」
その友人であるベンヴォーリオはあきれながら言葉を睦ぐ。
「こんな湿気臭い広場で、ボーっとしてないで面白いことをしないか? 実はな今夜キャピュレット家で舞踏会があるんだよ。行かないか?」
「……ロザラインは居るの?」
「ここでもロザラインかよバカバカしい……あのなぁ、あんなのは偽りの美女だ。見た目だけで中身は不細工のなぁ――クシャ!」
「そう思うのは自由だけど、それは僕の前では言うべきではなかったね」
ロミオにぶん殴られたベンヴォーリオはひっくり返る。
「ああ悪かったって。そんじゃあ、お詫びに舞踏会に行こうか!」
「いや、どうしてそうなるんだよ」
「まぁまぁ、舞踏会には本物の美女が都市中――いや、それ以上の範囲で集まるって聞くぜ」
ベンヴォーリオがこうして舞踏会に誘うのは、ロミオの頭にあるロザラインを追い出すためであった。
彼曰く、本物の美女たちと交流すれば、薄情なロザラインのことなどすぐに忘れられるはずであると。
だがしかし、ロミオの頭の中はロザラインの事しかなかった。
「……それなら行こうかな」
美女が集まるのならば、ロザラインも来ているだろう。
そう思い、ロミオは舞踏会の参加を決意した。




