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第4話:ロミオとジュリエット・承

 その一方、キャピレット家にはある問題を抱えていた。


 それは子供がなかなか育たないことだ。


 今では信じられないことかもしれないが、この時代では子供が無事に大人になる確率というものは低い。医療技術や知識は、現代とは呆れるほどの格差があり、はやり病などにより十人に一人は死んでしまう可能性を秘めていた。


 しかし、そうであってもキャビレット家の子は死にすぎていた。数々の子供が死に、生き残ったのはジュリエットただ一人であり、キャピュレット夫妻は掌中の玉のように一人娘を大事に育てていた。


 そんなジュリエットには求婚者がおり、その人物の家の格を考えてもキャピュレット家としては申し分ない花婿候補であった。キャピュレット夫妻は乗り気であり、申し込みを相手に伝えて、ジュリエットにもそう伝えた。


 だが、当のジュリエットは――


「お父様と、お母様が良い相手だとおっしゃるのなら好きになるように努力するわ」


 ――と、従順な返事を返していた。


 ジュリエットには、結婚っと言われてもピンっと来ていなかったのである。




 @




 太陽の代わりに月が上がり、舞踏会の夜が来た。ロミオとベンヴォーリオは、舞踏会の会場であるキャピュレット家の前に居た。


「ほら、ロミオ。かわいい子がいっぱいだぜ?」


「確かに、都市中の美人が集まるのは本当らしいね。……これならロザラインも来てる」


「……お前はそればかりだなぁ」


 ベンヴォーリオはロミオにあきれながら、仮面を渡す。そして二人は仮面を付ける。


 ロミオのモンタギュー家と、舞踏会を開催するキャピュレット家は争っている。


 そんな中、舞踏会にロミオが入ったとなれば問題になるのは目に見えている。だからこそ、顔を隠す仮面を被った。


 舞踏会には招待状が必須らしいが、二人は招待状を持っていない。


 ではどうするか。決まってる。招待客に紛れて忍び込むのだ。


 幸い招待客の人数が多いのが原因なのか、厳密なチェックはしないらしく受付などを素通りすることが可能だった。


 ――ホールは美麗だった。


 キャピュレット家の財力を象徴させるように、細かい彫刻や絨毯などが輝いている。都市一とされている音楽隊が音を奏で、それに乗るように招待客が躍る。くるくると踊る人々はみな美しく、ホールが美麗である事実をさらに示していた。


「……」


 しかしながら、ロミオにはそれらを目に入れることはなかった。

 それはロザラインを探すことに目を皿にしているから――ではなく。


「……綺麗だ」


 一人の少女に目を奪われていたからであった。


 その少女は非常に美しく、他のなにもかも全てが霞んでしまうほどの初々しく美麗であり、あれだけ恋焦がれていたロザラインでさえ、頭蓋から消え失せる。


 だから、ロミオは少女をひたすらに見つめ続けながら、近づいていく。


「……?」


 そんな情熱的な視線に、足音に、美しい少女――ジュリエットは気づく。


 二人の視線が交わる。


 ジュリエットは知らずの間に足を動かし、ロミオに近づいてた。


 二人の距離が縮まる。


 コツコツと足音が重なる。


 距離が無くなり、二人は手を取り合う。


「……ぁ」


 その途端、ジュリエットは恋に落ちた。




 @




 舞台の上で、副学級長が演じるロミオと、彼女が演じるジュリエットが手をつなぎ躍っている。


 緩やかに、華やかに、そして愛し合うように、二人は手をつないで躍っている。


 カツン、カツンと靴が鳴り、くるくると体が回り、体全体で踊りの美しさを示している。


「……」


 そんな二人を俺は見てることしかできない。


 当たり前だ。俺の役のロレンス修道士はこの場面には出ることは出来ない。台本にはロレンス修道士の台詞もなにも書かれていない。


 舞台から観客席に視線を移す。観客の誰もが二人のダンスに目を奪われている。


――とってもお似合いの二人だね。


 ふと観客席から、そう聞こえた気がした。


 ……たしかにそうだろう。美しい二人。頭の良い二人。ここまで情熱的に踊ることができる才。二人はそれを持っている。


 俺の顎に液体が伝る感覚。手の甲で拭って見てみると、そこには赤黒い血の跡があった。遅れて下唇からの痛みを感じ、知らぬうちに下唇をかみ切っていた事を知った。


   (「……全てが終わっ)   (たら、どこかで踊り )   (に行こうかな」)


 本音を言えば、踊りを今すぐ止めて彼女と何処かに逃げたい気分であった。


 だけど、それは出来ない。


 なら思考を向ける先は未来。ポジティブに考えるのだ。


 今を耐えるには、そうするしかない。そうするしか、なかった。

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