第5話:お化け屋敷
私は嫉妬深いのか?
最近、こんな事を考えてしまう。
がしゃん、っと食器が落ちる音。「いたた……」店員のメイドが食器を落とした音だった。
そこに、
「大丈夫ですか……?」
「ウホウホ……」
「こんな時にもキャラ演じるんだ?!」
彼は手を伸ばす。
店員が食器を落としたのは、彼のすぐ側だ。だから彼は対応したのだろう。
そう考えて、疑問に思う。
私は何故そう考えたのだろう? 普通は彼が店員を助けるために手を伸ばしたんだと、最初に考えるだろうに。
理由は簡単だ。私はして欲しくないんだ。彼が私以外の人間に優しさを見せる事が。
だから、それは単なる合理的な手段としての行動だと考えてしまうんだ。
そんな事を考えて自分が嫌になる。自分勝手な私自身が嫌になる。
その一方で、彼の事を独占したいと考える自分がいる。自分勝手で良いじゃない、っと考える私がいる。
――でも、あの時の悲劇の様な事は、嫌だ。
自分勝手な思考のせいで、彼の心が傷ついた、あの役決めのようなことは――ダメだ。
だからといって、このまま彼の優しさを見てるままなのは嫌だ。
席を立ち、彼の食器集めを手伝う。
集まった食器を店員に渡し、お礼をウホウホ言われる。
……その時、彼が店員に食器を渡す際、彼の手が、店員に少し触れてしまっているのを見た。
……次に行く所は、ガッチリと触れ合っても大丈夫そうな所に行こう。
私はそう決めた。
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お化け屋敷とは、和風ホラーなはずだ。
だがしかし、そのお化け屋敷は和からは遠く離れた雰囲気(変換できる)を放っていた。
なんか全体的に洋風ホラーなのだ。
入り口のドアは、金色のよくわからないアンティークのような装飾が施されており、洋風ドアな感じに。
ドア横には、頭がない騎士の像(with 生首)が置かれている。
というか名称もお化け屋敷ではなく、キャッスルオブバニアであった。お化け屋敷じゃない。悪魔城ドラキュラじゃねぇか。
「こんな、お化け屋敷(笑)じゃなくてさ、もっと別の出し物行かないか?」
「なによ、怖いの?」
「こ、怖くないよね?」
「なんで疑問系? なんで私が聞かれているのよ」
いや別にホラーとかが苦手なわけじゃないんだよ。
でもね。ほら、びっくりするヤツが得意な人っているの?
「私は好きだけど」
俺は好きじゃないね。びっくりするやつ。多分、お前が特別なだけで、殆どの人類は苦手だと思うよ。
だから、俺はこう思うんだ。お化け屋敷なんて、びっくりするのが好きなやつが病気的に挑戦しているだけで、人類の9割はホントは好きじゃないんだ。
俺は好きじゃない。
「じゃあ今から好きになれば良いじゃない。良い機会だと思ってチャレンジしてみたら?」
いや〜、それはー。
「……」
あはは……
「怖いんだ?」
「……はい」
俺は白状した。
だって入りたくないんだもん。
「じゃあ、行くわよ」
「ああ、うん」
そう言って彼女は俺の腕を、お化け屋敷に引っ張った。
……え?
「あの、ごめん、俺なんか嫌われる事した?」
「あなたが怖がっている姿を見たいの」
「返答になってない!」
俺は彼女の腕を振りほどこうとする。が、がっしりと掴まれた手はびくともしない。
あらゆる体育測定で女子トップを取った彼女の腕は、男子平均レベルに収まっている俺では対抗することが出来なかった。
「たす、たすけて! 死にたくない!! 死にたく、ないんだ!!!」
必死になって声を荒げる。誰か親切な人が助けてくれると信じて、声を荒げる。
「はいはい、おとなしくおとなしく。ほら、お子さんにも楽しくがモットーって書いてあるわよ」
「信じられない!」
クスクスと笑いながら、彼女は俺をなだめている。
その姿を見た周りの反応は暖かな眼差し。誰も俺のことは気にしてくれない。
気にしたとしても「あの男子、子供みたいだねぇ」という印象しか持ってない。俺は周りから見捨てられていた。
「二人で」
「はーい」
「嫌だぁー!」
お化け屋敷の入り口が開かれ、俺たち二人は入室する。
――そして、悪夢が始まる。
「狼男です」「うわあああ!!!」「パンプキンです」「うわあああ!!!」「猫です」「うわあああ!!!」
対象年齢5歳以上を語ったお化け屋敷に、俺の心は滅多刺しにされた。
「……流石にビビりすぎでしょ」
少し引いたような声を彼女は出した。




