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第5話:海の家とか実在するの?

 俺は今トイレに居た。しょんべんだ。


 流石に海に直接するわけにはいかないので、海の家の隣に備え付けられている仮設トイレにいるのだ。


 ちなみに彼女は海の家に並んでいる。


 ちょうど昼時なので行列が出来ていたのだ。


 トイレはまだ4時間くらい大丈夫とえらい具体的な事を言い残して彼女は並んでいってくれた。


 とても助かるが、トイレ近くまで付いていってほしかった。なんか寂しかった。


 そんなしょうもない事を考えつつ、トイレを終えて外に出る。


 そして海の家方面に歩いて、彼女を探す。


 海の家行列は俺がトイレに行ってる間に更に長くなっていた。


 行列は蛇行しており、詰められており、探すのが難しい。


 彼女の身長は百七十センチ近くあり高身長だが、それより高い人が壁になっているためか、見えない。


 携帯での連絡を考えたが、そういえばそういう荷物はコインロッカーに全部預けてしまっていたので無理。


 じゃあ、あの行列に飛び込んで探すか……めっちゃ迷惑になるなこれ。ならば、


「……上から探すか」


 俺は空中に浮く必殺技を持っていないので、海の家横にある防波堤から見下ろす事にした。


 というわけで備え付けの階段を上り、見下ろした。


 目論見通り行列内部が良く見える。


 だが問題が一つ。上から見るという仕組み上、


「髪色ぐらいしか分からねぇ……」


 だからと言ってほかに方法があるわけでもなく、防波堤の上で必死に探す。


 そうして探すこと数分。


 一か所、変な所を見つけた。


 金髪の見るからにチャラそうな男が、黒髪の女に話しかけていた。


 最初それを見たときは、まぁ知り合いなのかなと思ったが様子が少し変だった。


 具体的に言えば、金髪男が体全体を使って「わーい」とテンション高めに話しかけているのに、相手の黒髪女は微動だにしていなかった。


 つまり、お互いのテンションが不思議なほど合っていなかった。


 男が女に対してナンパでもしているのか? 相手が嫌がってるならば止めた方が良いか? 目を細めて良く観察してみる。


 そうするとあることが分かった。


 まず、男と女の身長差があまりなかった。女は女性としては高身長であることが分かった。


 黒髪女の水着が黒だった。文房具ドラゴンだった。


 ……高身長で文房具ドラゴン水着を着るような女性。彼女であることが確定した。確定してしまった。


 それが分かった瞬間。俺の体は凍結したように何も動かなかった。冷え切っていた。


 金髪男を再度観察してしまう。肩が大きく、上からでも筋肉が発達してるように見える。俺の肩の倍くらいありそうだ。


 ふいに前見た映画がフラッシュバックした。主人公の女性が、筋肉が発達した男に無理やり言い寄られるシーン。俺には「それすると相手嫌がるだろうな」としか思えなかったシーンだが、彼女は眼を輝かして見ていた。


 ひょっとすると彼女は金髪のナンパを受け入れてしまうかもしれない。


 そんな恐怖で一杯だった。


 もし彼女の元に行って「俺の彼女に悪さをするな」っと言い放っても彼女は俺を無視して、ナンパ師に「コイツの事は気にしなくても良いから行きましょ」なんて言う未来を幻視してしまう。


 何も動けなかった。


 以前、俺は彼女が俺とは別の彼氏が出来たらぶん殴ると思っていた。だけど実際、彼氏ではなくナンパ師だがぶん殴る事が出来ずに此処で恐怖に怯える事しかできない。自分を過大評価していた。


 ――そんな俺を救ったのは、パチィンっという肉を打つ音だった。


 彼女がナンパ師をビンタした音だった。かなりの衝撃だったらしくナンパ師は倒れている。音もそこそこ離れたここまで聞こえるほど大きかった。


「――!」


 彼女は何かしらを叫んだ。ここまで聞こえる事は無かったが、様子から彼女はナンパ師に対して怒鳴っている事は分かった。


 そうしてナンパ師は飛び上がって逃げて行った。


「……」


 俺はその様子を見て呆然としてるだけだった。そして急に我に返って訪れる後悔。


 彼女があんなに叫び散らすほど嫌がっていたのなら、さっさとぶん殴りに行けば良かった。


 そんな憂鬱した心で彼女の元へ向かった。




 @




「……あ、トイレおかえり。なんか気が沈んでそうな顔してるけど何かあったの?」


「えっとな、その、お前がナンパされてるところを見ちゃったんだ……」


「あぁアレの事ね」


「お前最後、ナンパ師に凄い切れてただろ。俺はその結構前から見てたのに怒りに行けなくてさ……彼氏失格というか何て言うのか……」


「……行かなくて正解だったわよ。あの野郎の狙いは貴方だったから」


「は?」


「一緒に遊んでいたお兄ちゃん紹介してくれとか言い寄られたのよ」


「」


 世の中には色んな人間が存在していると良く感じられた。

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