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第4話:人込み嫌い

 海はザザーン、ザザーンと音を立てる。


 空は雲一つなく、見えるのは青とおてんとうさまだけ。


 そんな美しい世界で、俺たちは、


「……」


「……」


 ピーチパラソルの下で涼んでいた。


 会話は無い。語ることはない。


 だけど気まずい雰囲気は流れては無い。逆だ。俺たちはゆっくりと過ごせていた。心地よい、二人だけの空間が広がっていた。




 @




 ――というのが理想であったが、現実は、


「海やっほぉい!!」「おら! あそこまで泳ぐぞ!!」「ビーチボールまだ膨らませられてないのかよ」「うるせぇお前がやれ!」「ママ、パパ。砂でお城作りたい~」「ははは、ここに作っちゃうと邪魔だから作る場所を見つけたら良いぞ」「ちょっと君たち女の子だけ? だったら一緒に食事しない?」「ええ~。どうしよっかなぁ?」


「……」


「……」


 周りに見えるのは男、女、おじいちゃん、おばあちゃん、男の子、女の子、赤ちゃん、大学生、中学生、幼稚園生、高校生、小学生、ゴリマッチョ、細マッチョ、デブ、ガリ、人間、人、人、人、人、人。


 とにかく人しか見えない。


 せっかくの海が邪魔な物体(にんげん)で埋まっている。


 海なんてこれっぽちも感じられなかった。


 せっかくピーチパラソルの下で二人で居るのに、良い雰囲気をこれぽっちも感じられなかった。


 感じられるのは何だか微妙な雰囲気。


 それにいたたまれず、彼女に目を向ける。彼女もなんか違うと言いたげな顔をしていた。


 そんな変な雰囲気になって数分後。彼女が口を開けた。


「……えっと、海でも泳ぐ?」


「そうするか……」


 そういう事になった。




 @




 だがしかし、現実は非常である。


「おらくらえスマッシュ!」「うわっ全然飛んでねぇ」「きゃ! 誰か足踏んだ!!」「あ、ごめん! それ私だわ」「ほおら! お父さんウエーブだぞ~」「うわぁ! ゆれるー!!」「わ! どこ触ってんのよ!!」「あ、ごめぇん。わざとじゃな――ぐえ!」


「……」


「……」


 人で密集していた。そこそこ人がいる電車内くらい人がいた。


 ぜんぜん動けなかった。泳ぐなんてとてもじゃないができない。


 水鉄砲で遊ぶとか出来ない。周りに当たる。


 ビーチボールも無理。周りでやってる人たちは周りの迷惑とか考えないようだ。


 人工的に波を作り出してもダメ。そこのお父さんは息子さんを頑張って楽しませてください。


 人が居ない場所となると、立っても海底が足につかないそこそこ離れた場所でないといけない。が、行かない。


 そんなところじゃ「うふふキャキャ」が出来ない。別に泳ぎに来たわけじゃないのだ。素敵な思い出を作りに来たのだ。


 だからここで「うふふキャキャ」しなくてはいけない!


「……そういえば俺の友第に息を一分止められる奴がいるんだよ」


「それは凄い! 私はそこまではとても出来ないわね」


「俺も無理だよ。……まぁお前よりは自信あるけど」


「あら? ……ふふふ。凄い自身なこと。私に百メートル走に負けたのに」


「だったら今証明しようか?」


「分かったわ。じゃあ1,2の3で潜って先に顔を出したら負けね」


「あと罰ゲーム追加しようぜ。負けた方は勝った方の願いを一つだけ叶えるとかな」


「よろしい。カウントはそっち主体でいいわよ。どうせ勝つのは私だから」


「ははは言いよる。いいぞ、そう言った事を後悔するんだな。……ほら、1,2の3!」


 ざぶんっと海中へ一緒に潜る。


 目を開けて彼女の方を見る。当然ゴーグル付きなので海水でも目が痛くない。


 彼女もこちらを見ていた。ゴーグル無しで。……ゴーグル無しで?!


「だいじょ――ごぶえ!!」


 びっくりして大声を出したのが運の尽き。海水を思いっきり吸って咽た。


「が! ゴブヘッ!!」


「大丈夫? よしよ~し」


 咽から立ち直れない俺に対して、彼女は背中を優しく摩ってくれた。


 そのおかげか咽は収まり、後は荒い呼吸だけが残り、それも自然に消滅した。


「え、なんで? なんで海水で目を開けても大丈夫なの?」


「海水は別に大丈夫だと思うのだけど?」


「いや、痛くなるだろ! 大丈夫なのかよ!!」


「痛くないって。大丈夫よ。海水の塩分濃度は2%から3%だからね」


「え、塩分濃度がそのぐらいだと大丈夫なのか?」


「そうよ。……とりあえず罰ゲームは忘れないでね」


「罰ゲーム……? あ!」


「ふふふ」

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