ロリコン戦士の友人事情
オマケという名の蛇足。
「……で、結局元に戻ったという訳なのか」
バルコニーの手摺に頬杖を付き、呆れたような顔をして眼下の光景を見たカメーリアはポツリと呟いた。
僕もつられてそちらを向くと、中庭に出ていたらしいマリオンとアンジェラちゃんの姿が見えた。
遠目で見ても仲睦まじいのが伺える。
元々婚約していたと後になってから聞いたが、僕を含めた魔王討伐パーティーの仲間は誰一人として驚かなかった。
感じ方の差はあったかもしれないが、皆思っていたのだろう。
マリオンとアンジェラちゃんの仲は、きっと普通じゃないって。
いや、結構マリオンの方は分かりやすかったけどね。
普段からアンジェラちゃん盗み見たり、アンジェラちゃんの絵姿書いたり、アンジェラちゃん大好きという気持ちが行き過ぎてた感じはあったけどね。
……僕、神官ってもっと清貧なイメージあったんだけどな。
いや、綺麗すぎる顔立ちのマリオンはそのイメージにぴったりと当てはまるんだけど、中身が外見を見事に裏切ってた。
普通に肉は沢山食べるし、デズモンドみたいに女の子にモテたいとか言ってたし、アンジェラちゃんの事女神とか言ってたし、アグネーゼ様信仰してないし。
これが本当の神官達の姿……じゃないよね。
アンジェラちゃんに関しては、ほぼ確実に犯罪に片足突っ込んでたし。
それよりも異様なのは、それを全て知った上で許容していたアンジェラちゃんだった。
大量のスケッチブックに自分が描かれていても、マリオン曰く追っかけされていても、笑顔で容認していた姿に僕は出来た子だなあと思っていた。
最初のうちは。
彼女のそれは、優しいとか心の広いとかそういうのじゃなかった。
いや、魔王討伐の道中、マリオンに懐かれるまで分からなかったと言った方が近い。
マリオンにやたら懐かれるようになってから、何処からか殺意にも似た気配が頻繁に飛んできて、身の危険を感じた事が何度もある。
殺されそうな気がした。
物理的ではなく、社会的に。
おまけにマリオンに近付こうとした女の子を、アンジェラちゃんが容赦なく口論で排除している所に出くわしてしまったのだ。
聖女が慈悲深いだなんて、誰が言ったんだろう……。
思わず現実逃避しかけた僕に気が付いたアンジェラちゃんは、まるで天使のように可憐な微笑みを浮かべていたのだが、僕にとっては魔神を背負った禍々しい魔王にしか見えなかった。
「マリオン兄様には内緒にしておいて下さい」
「う……うん。勿論だよ……」
顔を引き攣らせながら頷いた僕に満足したのか、アンジェラちゃんはそのままマリオンの元へと向かったが、残された僕は戦慄していた。
女って……怖い。
そんなアンジェラちゃんがデズモンドとくっ付いてびっくりしたのだけれど、結局はマリオンの元へと戻ったという訳か。
デズモンドも振られて諦めがついたみたいで、今は切り替えて他国の王女と仲良くやっているらしい。
流石は元遊び人というか、押しが弱いというか、あっさり陥落してた。
「ほらほら、カメーリア。あんまりバルコニーから身を乗り出すと危ないって」
「ちょ……、チェスター!抱き上げるな!子供扱いするな!」
暴れるカメーリアを宥めながら、もう一度中庭をみると相変わらず2人は仲良さそうに歩いていた。
お似合いというか、似た者同士というか。
「何というか、遠目から見たら絵になりそうだよね。あの2人」
「……む、確かに。マリオンは口を開かなければ綺麗だしな」
「アンジェラちゃんも腹に一物抱えてそうだけどね……」
蘇りそうになった恐怖の記憶を気合いで封じ込めようとした僕だったが、カメーリアがふふっと微笑んだのを見て全部吹き飛ぶ。
「まあ、いいんじゃないか?本人達が幸せなら」
幼い顔立ちなのに、浮かべた笑みは大人びていた。
僕は思わず目を細める。そして彼女へ微笑み返した。
「そうだね」
ああ。なんだか、眩しいなあ。