tea(お茶会)
「それにしても、ミリツァのやつ遅いな。どこで油を売ってんだ」
空気を変えようと差し込んだリビィは、頭を掻きながら言葉を放つ。
「まぁまぁ、女の子には色々準備があるんですよ」
平静を取り戻したブラムは、ソーサーに置かれたティーカップを差し出し微笑む。その動作を四回繰り返した後、新たな茶葉の用意を始める。
「準備ねぇ」と短く切り、差し出された紅茶をすするリビィはどこか粗暴な感じを受けるが、彼にとってはこれが普通なのだろう。
「あなたがそんなだと、ミリツァも可愛そうね」
「私も、同感ですな」
先の報復と言わんばかりに皮肉をぶつけるエミリア。その顔は、少し前にリビィとリンベルが浮かべていた表情と同じに見える。そして、リンベルも同じ表情を浮かべ、髭に手をあて微笑む。
「あん? 俺はミリツァに迷惑をかけることはしてないぜ。寧ろいい上司だと思うが・・・」
「いえ、可愛そうですよ」
少し食いぎみに会話を割ったブラムは神妙な面持ちでリビィの向かい側に席を取る。エミリア達とは正反対のその表情に、リビィは不思議そうに首を傾げては疑問符を浮かべた。
「ブラム、俺には本当に心あたりがないんだが」
一人、思考の狭間に囚われているリビィをしり目に他の三人はほぼ同時に溜め息をつく。なんとも様々な色合いを帯びたその溜め息は、彼にとって精神的な圧迫以外の何物でもない。そして、その無言の圧力が彼の口を重くさせる。
「あれ、みんな黙り混んでどうしたんですか?」
「どわぁっ…! ミ、ミリツァ。お前、何時から」
「いや、今さっきですけど」
不意に現れたミリツァ。
余程驚いたのか、浅目に腰をかけていた椅子からずり落ちる格好になる。
「まったく、落ち着きがないですね調理長」
彼女が浮かべる表情、纏う空気はとても穏やかでまっさらに澄んでいる。反面、澄みきっているのに思いは底を知らず深い。
際限なく心の奥までも透度を保っている彼女を見るエミリアの瞳は、それと比にならないくらいにくぐもっていた。彼女はそれをまとも見ることが出来ず、思わず視線を逸らしてしまった。
「誰が落ち着きないって? 悪いが、あの三姉妹よりはましだぜ」
「年齢差を考えてくださいよ。大体、その歳でアリスちゃん達と同じだったら、私少し距離を置きたくなります」
端からみているブラムとリンベルは終始苦笑いを浮かべ、二人の痴話喧嘩にも似た言い争いを耳に入れる。微笑ましいと言えばそれまでなのだが、二人の関係性が進展しないことをエミリアを含めほぼ全ての従者がもどかしく感じている。