sweets(お菓子)
二階にある角部屋の扉を開けると、眼前には色彩豊かなお菓子があった。
一番目を引いたのが簡素なテーブルの中央に位置したバタフライケーキだ。
「女の子が初めて作るケーキ」としてロンドン近郊では馴染みの深いもので、別名「フェアリーケーキ」とも呼ばれている。ほとんど欧米のカップケーキと差異はないのだが、デコレーションが蝶の羽や妖精の羽のように美しく優雅であるため、このような名称で親しまれていた。
そんなバタフライケーキの周りには、レモンパイやスコーン、ダンディーケーキと数種類のお菓子が所狭しと並んでいる。
「あっ、メイド長。お待ちしてました」
テーブルを挟んだ向かい側で紅茶の準備をしていたブラムがそう声をあげた。
朝の出来事とは打って変わりブラムの表情は明るく、エミリアは胸を撫でおろした。
その中で、彼女が身に纏っている部屋着にふと目が行ったエミリア。
フリルを慎ましやかにあしらったそれは実に女の子らしいもので、全身を包むよう醸し出す淡い紫色が、彼女の雰囲気を丸くさせているように思える。それに加え、彼女の若さに少し憧れを感じているエミリア。
「体調はいかがですかな、メイド長」
「ひゃっ・・・。リ、リンベル執事長」
憧憬の眼差しで服とブラムを見つめていたエミリアの背後から、何処と無く現れたリンベルに驚き、つい肩を弾ませてしまったエミリア。
「執事長もお人が悪い」
ほんの僅かに頬を膨らませるエミリア。傍から見ると、父親にからかわれている娘のようだ。
「これは失礼を。しかし、その顔色を見る限り悪くは無いようで安心致しました」
企てた悪戯を成功させた子供のように、無邪気な笑顔を見せるリンベル。そして、彼の背後にはもう一つの影が揺らめく。これは、彼の内心という哲学的なものではなく、実際に存在している影だった。
「まさか、こうも上手く行くとは思いもしなかったな執事長。だがまぁ、良い顔が見れて俺は満足だよ」
「ほほっ。忘れかけていた童心を思い出したような気がして私もなかなか楽しめましたよ、リビィ」
なんとも呑気な様子でリンベルの背後から現れたリビィの面持ちはリンベルと同じく、まるで悪戯っ子のように満面の笑みを浮かべ満足気だ。
まんまと驚かされたエミリアは、情けなさのあまり声もまともに出せず、ただ赤面させるばかりで顔をあげることに戸惑いを感じている様子が伺えた。
「二人とも、メイド長が可愛そうですよ」
助け船を出すつもりだったのだろうが、口元には綻びが生まれ今にも吹き出してしまいそうになっているブラム。堪らず、両手を口に被せた。
どうにかこの状況を変えたかったエミリア。しかし、下手に口を動かしたら見事に言葉を噛んでしまいそうだ。過去形で表すのは相違ないことではあるが、ここまで来ると寧ろ同情心の方が強く芽吹いてくる。
そんなエミリアが発する空気を感じ取ったのだろう。三人は話を早々に切り上げ、席に着くようエミリアを促した。




