make believe (偽り)
それからのアリスは、先程の涙が嘘のように嬉々とした様子で口を動かしていた。
その度、愛らしい笑顔を振り撒いては相槌や感想を求めてくる。歳相応と言うには語弊があるのかも知れないが、アリスはまだまだ未熟で子供。これが本来あるべき姿なのかも知れない。
「でねでね、それから・・・」
常に話題を出していたアリスだったが、語尾がいきなり消え入りそうなくらいに小さくなる。
「やはり、不安だったんだな」
座りながら頭を揺らしているアリスを、そっと横にするエドガー。
「こうしてみると、私達の子供みたいだな」
愛らしい寝息をたて、あどけない寝顔を浮かべるアリスに視線を送りながら、何の気なしにエドガーは口にした。
取り繕う間もなくエミリアは赤面し、同意を求めたであろう彼の問いに何一つ言葉を返せない。確かに、会話の流れを著しく逸しているこの問いにまともな回答が出来る人間はそう居ない。
「ご、ご冗談を。私はあくまで仕える身、旦那様との子供だなんて」
「例えばの話さ。アリスは親の顔をはっきりと覚えていないからたまに寂しくなるのかも知れない。度が過ぎる悪戯も、きっと妹達とリリスに自分と同じ寂しさを与えないよう気遣っているんじゃないかな。だから、せめて親の代わりになれればと勝手に思ってしまったんだ。少し失言だったね。忘れてくれ」
整った寝息をたてるアリスの頭を、エドガーは撫で下ろす。その横顔は正しく、我が子を愛でる父親の様相を呈していた。反論を並べ、脳内に保留していたエミリアだったがその横顔を見るや口を接ぐんでしまう。
三姉妹を「特殊な雇用」と前記にしたのだが正確には雇用と言うよりは寧ろ、保護し連れ帰った方が近かった。
アリス、ベル、イリーは幼き頃に両親に捨てられ、それを理解出来ず両親を探し路頭に迷っていた所を営業回りしていた工場の職員が連れ帰って来たのが始まりだった。
見ず知らずの人に囲まれ最初は困惑していた三姉妹だったがエミリアやエドガー、他の使用人達のお陰もあってか徐々に打ち解け、笑顔を垣間見えるまでになった。
その後、長女のアリスは屋敷の手伝いを買ってでたりするようになり、妹達も感化されたのか使用人に混じり姉に負けず劣らずの愛らしい笑顔を振り撒きはじめる。たまには悪戯もするが、なんとも憎めない三姉妹を皆可愛がっていた。
彼女達が働き初めてからかれこれ1年近く経ったある日、取引先の工場で三姉妹の両親が働いているという情報がエドガーの元へ舞い込んできた。それを受け、態々自らが出向き三姉妹を両親の元へ帰そうとしたのだがそこで事件は起きた。この時はまだ彼女達が「捨てられた」などとは彼自身、知り得ていなかった。
「本当に、あれは親としても人間としても失格だと思ったよ」
掠れた声には、エドガーらしくない憎悪が僅かに滲み出ていた。




