sway (揺れる)
「聞いたことはありませんが、名称だけで考察するに良くないことな気がしますね」
午後の死という名称から、良い印象を受ける人はそうそう多くはないだろう。
エミリア自身もその中に分類され、頭上に浮かんでいた疑問符はより密度を高めていく。
「良くないって言うのは語弊があるが、確かに不吉なものは感じるな。因みに午後の死ってのは、リキュールに黒色火薬を混ぜたもんだ」
「火薬を? しかし、そんなものを飲んで人体に影響はないんですか?」
「どうだかな。俺も、名称と製法くらいしか知らんし、試そうと思ったこともないね」
冗談混じりに鼻で笑ったドロスの表情は以前として暗い。
その怪訝な表情の理由は、店内に取り込まれる光が少ないのか或いは、拭いきれない一抹の不安に駆りたてられているのか。
無論どちらかと問われれば、後者の方が圧倒的に強いだろう。
「しかし、未だに話が散らばりすぎててまとまりがなく、荒唐無稽に等しい話に思えますが」
「確かに、俺も一連の出来事がマリアの死に直結してるなんて到底思えないし、思いたくもない。けどな『派手な爆破』をするって言うチンピラどもの言葉、あれがどうも引っ掛かってな。爆発させて誰か得するといや、お前んとこの屋敷かオックスフォード大学くらいしか近くにないだろ」
「だから、気を付けろと?」
訝しげな顔がエミリアにも移ったのか、表情を強張らせる。
「ただの狂言で、今回の事は出来すぎた偶然が重なっただけかもしれん。まあ用心するに越したことはないが、あまり考えすぎるのも精神衛生上宜しくない」
ドロスの深い溜め息に混じった言葉達が周囲に伝播し、それがエミリアの元にも運ばれてくる。
その溜め息が伝わるのを同じくして、エミリアが今までひた隠しにしてきた事象が徐々に揺らぎ始める。出来すぎているからこそ、その偶然を利用して責任転嫁さえもいとわない虚実を述べ、自分自身が救われると言う道の存在に。
そんな無実の証明方法を思い浮かべてしまったエミリアは、愚かであり甘美でもあるそんな理想的な虚実の提案に今にも飲み込まれそうになっていた。
「・・・持ち帰って何かしらの判定をくだします」
螺旋状になり脳を旋回していた思いを口にすることなくすんでで留まり、愚昧な自分を律して拳を強く握りしめる。
虚実に救われたとしても、虚実である以上その救いも偽りのものだと瞬時に理解し、自己解釈したのだろう。
息を殺して様子を見ていたドロスは何かを察し、以降特に主だった何かを発する事をせず熊のような体を揺らしながらカウンター奥にあるワインセラーに姿を消した。




