tall man(大男)
「随分と久しぶりだな、エミリア」
「ドロスさんもお変わりなく」
手を差し伸べたドロスは、熊のような髭をたくわえ、顔には年相応の皺が形成されている。
ベア亭と言うパブの主人であり経営者。その店では主に新進気鋭アーティストの演奏を行っており、ベア亭で提供されるアルコール類の奇抜さも相まって地元民から絶大な人気を誇っている。エドガーは勿論の事、リンベルや先代のブラウザーとも親交が深く、エミリアもいつの間にか顔見知りになっていた。会うのは、実に2年ぶりの事だったが。
そんなドロスは、大きな頭を傾げながらエミリアに質問する。
「マーケットくんだりまで来て何してたんだ? 買い出しか?」
「それは」
エミリアは、これまでの経緯を事細かに伝え始める。すると、体を大きく揺らし、顔の皺を波打たせながら
豪快に笑い始める。
「そりゃ災難だったな」
「笑い事ではありません。本当に困っているんですから」
「悪い、悪い。けどな、あいつは嘘は言わんよ」
声のトーンを変えずに、ドロスはエミリアを諭す。
「でも、こんな中人1人探すのは無理があります」
変わらない喧騒の中、ため息交じりに切り返し俯くエミリア。
「そろそろだな」
「? 何がです」
「いや、このマーケットは14時になると一気に人が引けるんだよ。すると・・・ほれ、あそこ」
先ほどまで人々でごった返していたマーケットは、いつの間にか喧騒とはかけ離れた情景を映し出している。
そんな中、ドロスが指さす方向にエミリアの見慣れた姿が見えた。息も絶え絶えに駆け寄って来るその姿はまさに、シンデレラを探すそれであった。
「やっと、見つけた」
肩を大きく揺らし、息を付くエドガーの額には汗がきらきらと光っている。その汗を拭う素振りを一蹴するかのように、ドロスが口を開く。
「全くだ。お姫様探しにそこまで掛かるようじゃ、まだまだ青いなエドガー」
「ドロス!? なぜ君がここに」
「そこの角で、座り込んでる見知った姿が有ったんでな」
2人の会話にどのようにして入れば良いものかと思案しているエミリアを、ちらちらと目に留めるエドガーだが、お互い距離を測れずにいる。
気まずい空気を察したのか、互いの間に大きい体をねじ込ませるように割って入って来る。
「そういや、いい食材が手に入ったんだ。どうだ、これから家に来ないか」
藁にも縋る思いだったエドガーは、その誘いに縦に首を振る。