19-4.話し合う②
お待たせ致しましたー
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最初は、大きくて強そうな人だと思っていた。
記憶を失い、常識もかなり欠如してしまった自分を。はじめは克己にも言われて義務感で引き取ってくれたのだとも。
現代では珍し過ぎる、『守護無し』だと判明しても。特に差別することなく、一人の人間として扱ってくれた。
男と間違われた時は驚いたが、漣自身もあの時着替えを要求されなければ自分が女だとも知らなかった。
そして、呼び名とは言え、『漣』とも名付けてくれた。
だから、恩返しがしたいと。出来ることが出来た時に、漣は晁斗への憧れが強くなった。その好意は恋慕ではないとその時は思ってもみなかったが。
けれど、次代狗神の件で密接に接することとなってから、気持ちが変わってきた。
癒し手として、万屋の役には立ちたいが。もっと、晁斗の近くに立ちたいと。
それが恋だと自覚出来たのは、彼の従姉妹である咲乃のお陰だ。でなければ、漣はずっと気付かぬままバレンタインを過ごしていたかもしれない。
そして、ケサランパサランに乗せた願い。
あれを、今目の前にいる晁斗にきちんと告げねばならない。
「……僕が、望んだのは」
「……ああ」
晁斗は何も知らないでいるから、漣の今の想いも知らないのだろう。
けれど、報われなくてもいい。大事なのは、伝えることだからと、ここの皆に教わったのだから。
「…………晁斗さんが、僕を見てくれたらなって」
「え?」
「僕……晁斗さんが、好きなんです!」
言った、言い切った。
もう言ってしまったから、後には引き返せない。
思いっきりぎゅっと目をつむって返事を待っていると、大袈裟なくらい大きく息を吐いた音が聞こえてきた。
「……よかった」
「へ?」
何が、と返事をしようとしたらいきなり温かい何かに体を包まれた。
慌てて目を開ければ、目の前には晁斗の着ているセーターの腕の部分が見えた。
これは、つまり。
「……嫌われたのかと、ちょっと思ってたからな? その逆だとわかって安心出来た」
声も近い。
やはり、晁斗に抱きしめられていたのだ。あまりの衝撃にびっくりして意識が遠のきそうになったが、まだ彼の方から返事はもらっていないのでそういうわけにもいかない。
「え、えっと!?」
「俺もだ、漣。お前が何もんでも、俺も漣が好きだ」
「へ、え!?」
欲しかった返事がもらえたのは嬉しいが、込み上がってくる気持ちが恥ずかしさで埋め尽くされてうまく言葉が紡げない。
とんでもなく優しい声音と、同時に感じる吐息に鼓動が早くなっていく一方。嬉しいのと恥ずかしい気持ちがぐちゃぐちゃになって、きちんと返事をしたいのに出来ない。
あと、晁斗の腕の力が少しずつだが強くなっているような気がする。
「……漣」
ほら、また。
なんと言うか、いつもの晁斗と違う。
漣は常識が著しく欠如しているので、なんと言っていいかはわからないが。いつもの晁斗じゃないとわかってはいる。
ただ、これはいったい誰なのか。
漣の知るどの晁斗とも違うので、頭の処理能力が追いつかずにぐるぐるしてしまいそうだった。
「そ、それって」
「おう」
「僕と……晁斗さんが」
「ん?」
「咲乃さんと、悠耶さんのように……なるんですか?」
「そーだな。俺はそうなりたい」
「! 僕も……です!」
それがわかれば、漣も自然と晁斗に抱きつきに行けた。
晁斗もしっかり抱きとめてくれて、腕も背中に回してくれた。
嬉しくて、嬉しくて。
そして、晁斗から優しいけれど甘い匂いがしたのに首を傾げるのだった。
「どーした?」
漣の様子が気になったのか、晁斗から声を掛けてきた。
「いえ。その……晁斗さんから甘い匂いがするなって」
「あー……お前にあげるバレンタインの菓子。悠耶ん家で作ってたからな?」
「え?」
「次代に最初言われてた期日のために、練習してたんだよ。いちおー持ってきてはいるけど、食うか?」
「! 僕……この前、咲乃さん達と練習したんですけど。今……ないです」
「んじゃ、やっぱ。当日に交換しねーか?」
「はい!」
それと、と晁斗に顔を上げさせられて顎を手で固定されてしまい。
晁斗の顔が近づいてきたかと思えば、唇にふにっと柔らかい感触がしたのだ。
何をされたのかわからず、ぽかんとしていたら。後方にある事務所の扉からガタガタと大きな音が聞こえてきたのだった。
「あ?」
急に晁斗が不機嫌になり、漣から離れると大股で扉を開けに行けば。
漣の目に映ったのは、床に倒れ込んでいた菜幸や咲乃、悠耶だったのだ。
「う……うっす」
「ふふ?」
「ごめん?」
「おーまーえーらぁああああ!?」
どうやら覗かれていたようで。
晁斗は三人に盛大に説教することになってしまった。
漣はその様子に、またぽかんと口を開けてしまったが。こう言う日常は、悪くないと苦笑いしか出来なかった。
次回は金曜日〜




