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ウィンタージュに憩いの羽音を  作者: 櫛田こころ
バレンタイン練習
73/164

17-3.内輪で祝う

お待たせ致しましたー







 *・*・*








 実に初々しい事態だ。


 従兄弟が、あの背丈だけは異様に大きな従兄弟の晁斗(あさと)に。


 遅咲きではあるが、春が来たのだ。これを喜ばずにいられようか。


 警視庁に籍を置いている、今日もくたびれたスーツを着る刑事、宮境(みやさか)篤嗣(あつし)は。


 コンビニ帰りから、少し上機嫌になりながら庁へと戻っていく。世はバレンタインと言うこともあり、バレンタインフェアの商品からいくつか選んだのを、茶請けにしようと袋にたんまりと買い込んだ。



「あ〜の、晁斗がねー?」



 自分とは違い、ウィンタージュを、万屋を継ぐべく。学生時代から篤嗣の祖父でもある克己(かつき)の背中を追うのに、青春時代も謳歌するどころか修行に明け暮れていた。


 そんな彼は、体格も大きく、最初は女性に驚かれるが。接客技術で培った人懐っこい笑顔で、今度は女性を虜にすることを本人はおそらく気づいていない。


 それが学生時代からだったし、告白してくる女生徒達をすべて遠ざけたくらいだ。だのに、そんな彼に遅咲きの春。


 偶然とは言え、拾った少女に想いを寄せてしまった。


 その事実を知れて、今篤嗣は上機嫌だ。


 従兄弟の春を内輪で祝うのに、仕事の相棒とも言える御子柴(みこしば)清司郎(せいしろう)と酒は今飲めないがコーヒーで一杯やろう。


 一課に戻ると、清司郎から声をかけられた。



「戻りましたか。……朝からですが、やけに機嫌がいいですね?」

「ふふ〜ん? これ買ってから、お前にも言おうと思ってさ?」

「ほう?……随分と買い込みましたね?」

「何せ、祝いだ!」

「? 篤嗣君がですか?」

「いんや、晁斗だ」

「晁斗君?」



 今一課には自分達しかいないので、遠慮せずに伝えることにした。



「あいつによーやく春が来たんだよ! おっと、菜幸(なゆき)じゃねーぞ?」

「……そうですか。で、お相手は?」



 菜幸絶対信者の清司郎に、まさか相手がその菜幸だったら普段の冷静さを喪って我を忘れるだろう。


 とにかく、先に違うと告げれば沸騰しかけてた頭が落ち着いたのか、眼鏡をかけなおしながら聞く姿勢をとった。



「お前はまだちゃんと話してねーだろ? (れん)って晁斗がつけた癒し手の嬢ちゃんだ」

「!……そう言えば、なんだかんだで一度もご挨拶してませんね? 入院中も特に面会しませんでしたし」

「今は、克爺の計らいで喫茶と万屋両方の戦力だ。中性的だし、結構可愛いから人気あんぜ?」

「その彼女に、晁斗君が?」

「おう。無自覚の頃からべた惚れらしいぜ?」

「それは喜ばしいですね」



 用意したのは菓子だが、昼間からそれを食べるくらい悪くなかろう。


 一番手には、篤嗣は大きめのチョコチップクッキー。清司郎は抹茶とチョコのマドレーヌだった。



「……そういや、清司郎」

「はい?」

「例のケサランパサランはどうだ?」

「!……そうですね、白粉は与えましたが。結構増えました」



 陸螺(くがら)市に、突如広がっている幸福の象徴とも言われている、ケサランパサランと言う妖怪もとい妖。


 妖が存在する時世なので、アイテム等は警視庁にも揃っているので桐箱はすぐに見つかった。今は鑑識に預けてはあるが、清司郎が一度様子を見に行った時は五体にまで増えていたらしい。



「害はねーが、増え過ぎて幸福のラッシュになったら……まだこの界隈だけとは言え、荒れるな?」

「ええ、おそらく。宝くじ当選連続などまだ可愛い方でしょう。問題は、ケサランパサランに頼り過ぎて堕落してしまう国民が増えることです」

「『裏』……が関連してるとは言えねーが。この前の、黒ずくめの連中がかんでてもおかしくねぇ」



 甲本(こうもと)を半堕ちにさせて、依頼を失敗したら即殺害。ならびに観茂名(みもな)市の由緒ある神社で起きた、土地神の堕神。


 何を計画しているのかはさっぱりだが、犯行は一人ではなく二人。さらに言うなら、背景には組織が絡んでいそうだ。ひょっとすると、守護堕ちを定期的に生み出す組織、通称『裏』が関与しているのかもしれない。


 今回は被害はまだ出ていないようだが、篤嗣としては無事にバレンタインを過ごせれれば、と思う。


 つい先程まで話題に出した、晁斗と漣がうまくいけばいいと思っているのだ。従兄弟の幸せを、篤嗣は何よりも望んでいるのだから。



「……そうですね。しかし、篤嗣君」

「ん?」

「君にもそろそろ春を見つけた方がいいですよ?」

「菜幸に伝えられないお前が言うか?」

「ぼ、ぼぼぼ、僕のことはいいんです!」



 菜幸を信奉するだけで充分だから、とまくしたてた時に口に入れたマドレーヌで喉を詰めるのだった。


 隠れファンを装っている清司郎だが、菜幸本人以外に気づかれているのを清司郎はまだ知らないでいる。しかし、菜幸には既に想う相手がいるので実質今の状態が清司郎にとって幸せだろうが。



「とりあえず、ケサランパサランの情報集めはASUKUに依頼してくれ」

「……わかり、ました」



 今日はこれと言って暇ではあるが、仕事がないわけではない。


 けれど、今家では妹の咲乃(さくの)と例の菜幸が漣を巻き込んでチョコレート作りに勤しんでいるはず。


 まだ本番ではないようだが、甘いものは好きなのでおこぼれに与れるか、と自分で買ってきたバレンタインフェアの菓子を食べながら思うのだった。

次回は月曜日〜

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