9-1.無自覚
本日三話目
*・*・*
漣が気絶したことで、せっかくの女子会は中断となってしまったが。
事情聴取の方は、万屋に協力要請を出したことで篤嗣と御子柴が手間を省いてくれた。
念のために、と言うことで同じく気絶したままの柘植奈央美もだが。一向に目を覚さない漣のこともあって、荘重のいる大学病院に場所を移したのだった。
「ふーん。まあ、憶測だけど。広範囲に歌を響せて浄化を駆使したことが原因かもしれないわ。健忘症もだけど、ちょっとこの子栄養失調気味なとこもあるから体力をかなり使ったかもね?」
「マジっすか?」
菜幸も合流して、晁斗達も漣が心配で付き添っていたが。漣はまだ目を覚まさず。
なので、簡単に荘重医師が診療してくれると、意外な真実がわかったのだ。
「……つーことは」
「安心なさい、新所長。彼女は体力面で気を失っただけよ。起きたら何か食べさせてあげた方がいいわ」
「……ありがとうございます」
「ほんと。新人ちゃんなのに、君んとこの子は無茶する子がほとんどね?」
と言われて、晁斗は荘重医師から軽く頭を小突かれた。ひとまわり離れているとは言え、荘重とは高校生の時からの付き合いだ。
まだ、万屋の一員としては年若かった頃。飛び級とは言え、異常な若さで医師の地位に実力で到達した女性だ。頭が上がらないのは、人としてもだが怪我するたびにやっかいになってたせいもある。
「じゃ、漣ちゃんにはワクワクバーガーのいろんなセットをとりあえず持ってきた方がいいわね!」
そうと決まれば、と従姉妹の咲乃がよくわからないことを言い出した。
「なんでだよ?」
「晁斗先輩、漣ちゃんが食べ慣れているのが多分ジャンクフードっぽいのが、わかったんすよ」
「へ?」
「フードコートに行った時、箸の使わない食べ物ってことで菜幸ちゃんが提案してくれたの。そしたら、すんごい食べっぷりだったのよ」
「考えられるわね? 脳の記憶もだけど、身体的な記憶が薄っすらでも残っているのなら。……漣ちゃんが癒し手として活躍出来たのも納得いくわ」
「んじゃ、自分が買ってくるっす!」
なので、菜幸が名乗りをあげて個室から出て行き、咲乃は奈央美が心配だからと鳳嬰を顕現させてから、一緒に行くと言った荘重医師と出て行った。
残ったのは、悠耶と晁斗だけだ。空呀達は疲れたからと晁斗らの中に戻っている。
「……ごめん、晁斗」
なんとなく黙っていると、悠耶から謝罪されてしまった。
「いつもは僕が君のストッパーなのに。咲乃が危険な目に遭うかと思うと……つい、カッとなっちゃって」
「……お前の咲乃に対する愛情は人一倍ですまないからな?」
漣のお陰もあって、無事に解決したし。とりあえずはよしとしておかねば。
悠耶の頭を軽く撫でてから、振り返ってベッドで寝ている漣の方を見る。
見つけた時も、家に引き取ってからもだが、本当に寝息を立てずによく眠る少女だ。
近づいて、軽く髪を撫でてもちっとも起きやしない。
「……菜幸がお前の好きなもん買ってくるってよ。だから、早く起きろ?」
咲乃の指導のお陰で、サラサラな髪を軽く撫でると漣の方から動きがあった。
離れようとした晁斗の手を瞬間で掴み、ぎゅっと握り返してきたのだ。
「……漣?」
「……むにゃ、晁斗さん。僕もう食べれないですよぉ〜」
目は一向に開いていないが、寝言だったとは。
少し拍子抜けしたが、夢の中で自分はこの少女に何をそんなにも食べさせてやっているのか。
気にはなったが、菜幸がチェーン店で購入して戻ってくるのにはもう少しかかるだろう。
だから、何か購買で買ってくるかと漣の手を振りほどこうとしたら、離さないとばかりにきつく握りしめられた。
「……ふふ。漣ちゃんに相当懐かれているよね?」
「……懐くっつーか」
いや、悠耶の言う通りかもしれない。
拾ってきたのは晁斗。
名付け親、みたいになったのも晁斗。
気になってたアクセサリーをプレゼントしたのも晁斗。
そしてそして、笑顔全開になった時も晁斗をみつめてくれた。
好意は好意でも恋愛要素と言うよりは、主人に懐く飼い犬のようなものかもしれないが、あいにくと晁斗はペットを飼った経験がないので詳しくはわからないが。
だが、不思議と嫌ではなかった。
「いい事じゃない? まったく恋愛ごとに興味を持たなかった晁斗がだよ?」
「……含みのある言い方するなあ、お前」
「だってさ? 学生時代は全部振ってたじゃないか? 万屋を理由にはしてたけど、本音は好きな子とか出来なかったからでしょ?」
「……まあ、な?」
失礼な言い方にはなるが、晁斗にはこれまで好意を寄せられてきた女性はすべて告白などを断ってきた。
理由は悠耶が言うように、万屋を理由にしていたのもあるが。
咲乃を含める身内が豪華過ぎたせいで、まあまあ普通に可愛かったり綺麗な女性を見ても興味を持たなかったわけである。
それが今は違う。
拾った側とは言え、危なっかしい部分とか庇護欲をかき立ててくる、愛らしいところが日に日に気になってしまう。
今朝のいってらっしゃいもだが、邪気のない恥ずかしさは好ましく思えた。
記憶喪失以外にも、まだまだ謎の多いこの少女のことを、晁斗自身好ましいとは思っているが、好意を寄せているとはまだ言い難い。
だが、目の前の従兄弟は気持ちを切り替えたのかいい笑顔で晁斗をみつめてきた。
「ま、少しずつでいいと思うよ? 漣ちゃんが君の運命の相手かもしれないってことは」
「……お前の場合、物心ついてからすぐに咲乃だ! って宣言してたしな?」
「ふふふ。晁斗だからって譲らないよ?」
「こえーって」
譲ってもらうもなにも、本当に幼少期になった途端に『咲ちゃんは僕の!』と大人達に宣言したくらいだ。
咲乃自身も拒絶どころか受け入れているし、今更二人の深い絆を壊すつもりもない。
「……ふ、ぁ。あ、あれ?」
「あ、起きた?」
とここで、本題の漣が目を覚ましたようだ。
寝起きの漣は、どこにいるのかすぐにわからなかったが、両手が晁斗の片手を力いっぱい握ってるのがわかるとすぐに離した。
「ご、ごごご、ごめん、なさい!」
「あー、まーいいって」
離れたことに少し寂しさを覚えたのは、すぐに払拭させて漣の髪を撫でてやった。
「う?」
「今日のお前は功労者。……よくやったぜ、なんせ半堕ちの奴を、お前の能力で癒しちまったからなあ?」
「え……僕が?」
「うん。僕もおこぼれで正気に戻してもらっちゃったしね? けど、危険地帯にいきなり単身で乗り込んできちゃダメだよ? 君の癒し手以外の実力はまだまだ一般人と変わりないから」
「……はい」
褒めるところは褒める。叱るところは叱る。
それをわかってもらえたら、もう何も言うまい。
そして、ちょうど菜幸が紙袋を手に戻ってくると、盛大に漣の腹の音が部屋に響いた。初日並みに凄かった。
「……い、いただき、ます」
それと、食べ進めていく漣の様子が、まるで齧歯類の小動物のように愛らしいなと、晁斗は思うのであった。
次回は15時〜




