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8-5.癒し手として

本日二話目







 *・*・*








 (れん)が闇雲に走っている最中には、頭に例の声が響く言葉なかったが。


 晁斗(あさと)が教えてくれた、よくない感じと言うのは肌で感じ取れたため、それをあてに進んでいく。


 途中逃げ惑うショッピングモールの来訪客とぶつかることはあったが、気にしててはいけないと急いで咲乃(さくの)がいる場所を探してみる。


 記憶喪失でなければ、もっと晁斗らの役に立つ人間であれば、とは思うが。悔いても仕方がないので、漣は急いで目的地らしき場所に向かう。


 大きな角を曲がると、見覚えのあるふわふわした髪が目に入ってきた。



「咲乃さん!?」

「え、漣ちゃん!? どうしてここに!?」

「お伝えしたいことがあって」



 咲乃の側には、無事だったのか柘植(つげ)奈央美(なおみ)が眠ったまま横たわっていた。


 そのことに少しホッと出来たが、まずは咲乃に謝罪しなければいけない。



「勝手に動いてごめんなさい。でも、どうしても言わなきゃいけないことがあって」

「んもぅ。怒りたいけど、そんな誠心誠意な謝罪されたら怒れないわ。なーに?」

「……僕が聞こえた声。男の人、じゃなくて女の子のような声が聞こえてきたんです」

「別の人?」

「はい。けど、怖いことが起きているはずなのに。楽しんでいたんです。『やっぱり欠陥品はそれ程度ってことかなぁ? 大して強くないし欲しいのは手に入らないし、だめだめだねぇ?』って」

「……どこにいるかわからないけど、黒幕が見てるかもしれないってことね?」

「くろまく?」

「今(ゆう)君達が止めにかかってる半堕(はんお)ちが、誰かにああさせられたらしいのよ」



 咲乃が向けた指の先には、黒いもやもやしたのに立ち向かってる晁斗達が見えた。



「晁斗さん!?」

「止めるのも至難の業だけど、守護具を出してもなかなか対応出来なきゃ。このショッピングモールが壊れちゃうわね?」

「こわれる?」

「うーん。めちゃくちゃになって、いろんな人が困っちゃうわ」

「あ、晁斗さん達がそんなこと……!」

「けど、半堕ちになった人間相手にはそれくらいの覚悟をしなくちゃいけないのよ」

「…………僕、やってみます」

「え?」

「癒し手として、何かしてみたいんです!」



 この場を収めることが出来れば。


 多少なりとも、晁斗達の役に立てるのであれば。


 やらないで後悔するより、やってみてから後悔する方がよっぽどいい。


 まだ数回しか試してはいないが、漣は咲乃の前に立って、大きく息を吸うのだった。






 *・*・*








 歌が。


 可愛らしい声で歌う、歌が耳に届いてきた。


 まさか、と晁斗は甲本に札を飛ばしてから振り向くと。後方の、咲乃と奈央美がいる辺りに、一人の少女が立って歌っていた。


 漣、だ。



(なんでここに!?)



 驚いている場合ではないが、ここから止めに行くわけにもいかないので晁斗はまず従兄弟の悠耶(ゆうや)を止めに行くことにした。


 心なしか、漣の歌のお陰で甲本の邪気が薄まり、その隙を狙って篤嗣(あつし)が鎌の鎖で拘束した。



「おっしゃ! ってか、この声誰だ?」

「漣じゃねーか! 隠れてたんじゃねーの?」

「……漣、ちゃん?」

「落ち着いたか、悠耶!」



 全員が漣に気づいたが、本命は甲本。


 止めをさそうとしていた従兄弟の守護具を晁斗と空呀(くうが)が止めて、漣の歌で正気に戻ったのかトンファーの守護具が星燕(しょうえん)の姿に戻っていく。



「……あ、れ。僕」

「咲乃が近くにいるからって、本気出し過ぎだ!」

「あ、うん。ごめん……」

「っかし、癒し手の歌ってすげーなぁ?」



 たしかに。


 戦闘がひと段落ついても、漣は歌うことをやめずに声の出る限り歌い続けていた。



(……昨日も聞いたが、マジで上手いな?)



 声量については、まだまだ鍛えなくてはいけないが。


 声楽の技術としてはかなりレベルは高い。


 辺り一帯に響く、澄んだ歌声は疲弊しきっていた晁斗らの体力や気力を癒してくれた。




 パキッ。




「……ん?」



 何か割れる音が聞こえてくると、篤嗣が声を上げたのだった。



「呪具が壊れた!?」

「へ?」

「マジ!?」



 篤嗣や晁斗、咲乃までもが必死になって奈央美から遠ざけようとしてた呪具のストラップが。


 滴型の黄色の宝石のような部分が、ヒビを生み出してどんどん広がり、最後には砂のような状態になって崩れ落ちていった。



「…………こ、こは」



 甲本の意識も戻ったのか、堕ち特有の濁声にはもうなっていなかった。


 つまり、は。



(半堕ち、を癒した……?)



 たった一人の少女の歌声ひとつで、事態が解決してしまったのだ。



(……これは、マジで万屋(うち)に来て正解だったな?)



 堕ちを癒しで元通りにさせてしまうだなんて前代未聞の事態だ。


 だが、万屋の一員であれば、世間はともかく篤嗣ら警視庁には言い訳が効くはずだ。篤嗣はそこまで見越したわけではないだろうが、漣の居場所を与えてくれて正解だった。



「……綺麗な、声」



 拘束されながらも、甲本の顔にはもう邪気が残っていなかった。



「逃走はまだしも、半堕ちになった経緯諸々……警視庁でしっかり吐いてもらうぞ?」

「……はい」



 なら、これ以上晁斗や悠耶が拘束を手助けする必要もない。


 目配せだけで、篤嗣に告げてから晁斗はまだ歌い続けている漣に声をかけた。



「おーい、漣! 悪いけど、もういいぞー!」

「おっ疲れー!」

「……ふぇ?」



 晁斗の声が届いたのか、少し可愛い声を上げた漣は握ってた自分の手をほどいた。



「……あさ、とさん?」

「おう。お前のお陰で、一件落着だ。ただ、無茶すんなよ?」

「……はい」



 すると、緊張の糸が切れたのか疲れたのか。漣の身体が晁斗に向かって倒れ込み。漣は気絶してしまった。



「お、おい!?」

「晁君、晁君」



 受け止めてから、咲乃が声をかけてきた。



「? どうした?」

「第三者の介入。漣ちゃんは黒幕の声を聞いたらしいの」

「なに?」

「『やっぱり欠陥品はそれ程度ってことかなぁ? 大して強くないし欲しいのは手に入らないし、だめだめだねぇ?』って」

「な……んだ、それ」



 つまり、甲本を半堕ちさせた奴にとっては。甲本が命を落としても構わなかったと言うことか。


 だが、それでも漣がいなければこの場は収まらなかった。


 この少女に、感謝しなくてはいけない。

次回は12時〜

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