7-2.どこがどうなる?
本日二話目〜
*・*・*
「癒し手の素質か……」
篤嗣は当直明けの眠気を堪えながらスマホを見ていたが、やはり眠気には勝てずであくびをかみ殺す。
「誰がですか?」
彼以外にも当然居て、こちらは仮眠をいくらか取っただけで平気な様でいる御子柴。今は書類整理のためかパソコンのキーボードを叩いていた。
「お前は直接会ってないが、例の守護無しのお嬢ちゃんだ」
「ほぅ?」
出会った時に性別とかは半信半疑でいたが、どうやら少女だったらしい例の守護無し。今日は妹の咲乃や後輩の菜幸らと服や身の回りのものを調達するのに女子会をするそうだ。情報源は、自慢気にLINEを送ってきた妹の方である。
「10万人に一人の確率でも出るかどうか不明の癒し手が、まさかそのように身近なところにいるとは驚きですね」
「その割に驚いてないだろ?」
「熊谷氏の周辺で不可思議でないことが起きないのが珍しいかと」
「まあな?」
身内ではあるものの、昔から異常に怪異などに遭遇するのが日常茶飯事だったのは否めない。
篤嗣も刑事になる前は、先輩の燈としょっちゅう退治や後処理を克己から任されていた。
「詳細はあんまねぇが、荘重医師のとこで検査中に判明したらしい。能力値はまだまだ未知数だと」
「確認しに行きますか?」
「今はいい。本人がコントロール出来るように晁斗達が訓練させんだろうし、俺らには優先順位があるだろ」
「あれから一向に目を覚ましませんからね……」
ウィンタージュに突如現れた半堕ちにも満たない闇堕ちの男。
邪気は完全と言っていいくらい咲乃と祓えたが、警察病院に搬送してもそれ以降全く意識が回復しない。同じく邪気塗れになっていた守護精の方も呼吸が落ち着いた以外変化がないでいた。
「邪気からの負荷がどれほど彼にかかったかは測定しにくかったですしね」
「量は半堕ち並みにあったのになぁ?」
こんな症例は刑事に就いてから一度としてお目にかかったことがない。事情聴取をしようにも本人が目覚めなければ何も聞けないからだ。
だが、全く状況が進まないわけではない。
「彼は隣の矢萩市在住の甲本泰彦、27歳。IT関連の中小企業に勤めるWebデザイナーで、会社に問い合わせたところ昨日は休日だったようですね」
情報収集は警察側とて地道に行わなくてはならない。
とは言っても、今の御子柴が口にしたものは彼のパソコンから繋がる情報屋達から仕入れたものだ。
篤嗣はそれを聞きながら、克己直伝のドリップコーヒーを二人分淹れていく。
「思ったより若いな?」
老け顔でもないが、童顔とも言い難いごく普通の容姿であったからだ。
「性格は至って模範的で、人材としては若手ながらも実力があるようです。社交性も良い方で揉め事などはあまりなかったとされています」
「表向きには、だろうが」
裏の裏を探るのはこちらの仕事だ。事情聴取である程度聞きたいが、未だ病院から連絡はないので今日一日はそちら側の情報収集が主な仕事になるだろう。
出来上がったコーヒーの片方に角砂糖を三つ入れて、それを御子柴のデスクに置く。クールな外見と違って彼は無類の甘党だ。
篤嗣は何も入れずに飲みながら御子柴のデスクトップを覗く。ウィンドウが何重にも開かれていて、これをすべて把握出来る御子柴に毎度舌を巻いてしまうしかない。
「とりあえずは親族に交友関係、金銭関係とかも念のためだな」
「では、後者はASUKUに追加で頼んでおきますね」
「ん」
気に入りの情報屋に頼むのであれば、篤嗣としても問題はない。
さて、コンビニかどこかで遅めの朝食でも買って来ようとコーヒーを飲み干すと、スマホからバイブ音が聞こえてきた。
「ん?」
また妹かとロックを解除すれば、女性三人が仲良く写ってる画像が届いてきた。そのうちの一人の赤面っぷりには思わず吹き出してしまった。
「どうかされたんですか?」
「ああ、例の守護無しのお嬢ちゃんとかと一緒に撮った写真を妹が送ってきてな?」
「……見ても構いませんか?」
「いいぞ」
今後会う確率が全くないわけがないので、御子柴にその写真を見せることにした。
ただ一つ忘れていたことはあったが。
「こ、これは!?」
「あ」
御子柴の驚愕っぷりに、篤嗣はすぐに忘れていたことを思い出した。
彼が、甘い物以外に執着しているもののことを。
「この画像いただけますか! 菜幸さん今日はオフだったなんて!」
あのおっちょこちょいで少々男っぽい口調の、一回り近くも年下の眼鏡っ娘に首っ丈なのだ。
どこが良いかと聞いても模範的に『全て』としか御子柴は答えない。人の趣味をとやかく言うわけではないが、御子柴程なら例えば我が妹のような砂糖菓子を体現した女性の方が似合う気がする。その妹は既に従兄弟のものであるので勧めないし御子柴も知っている。
「……菜幸もいいが、ちゃんとこっちの嬢ちゃんも見たか?」
写真は後で送ることにして、篤嗣は漣の方を指した。
途端、はしゃいでいた御子柴は眼鏡を持ち上げて軽く咳払いした。
「……高校生くらいの少女に見えますね?」
「昨日爺さんと検査しに行ってわかったらしいが、これで22くらいらしい」
「小柄な女性と言われれば、納得出来ますね。たしか、健忘症と篤嗣君は言っていましたよね?」
「結構重症だったな」
一体どのような拍子で戻るか定かではないが、出来るだけ手を差し伸べてやりたいとは思っている。まだ数時間しか会話はしていないものの、非常に庇護欲を掻き立てる少女なのだ。
「このお嬢さんのことも聞き回りますか?」
「あー、一応保留だ。晁斗達の方がやってくれんだろうし、頼まれりゃ協力するでいいだろ」
「わかりました」
*・*・*
「いやーーん、可愛いーー!!」
「可愛いよ漣ちゃん!」
「え、はぁ……?」
ショッピングモールが開店してからまだ間もないのに、咲乃は目当ての洋服店で思い思いに菜幸と一緒になって漣を着せ替え人形にしていた。
漣はどれを着ればいいのか本当にわからず悩んでいたのに手を差し伸べただけが、今では店員も巻き込んでの着せ替えタイムにまでなっている。
しかし、似合うだけでなく漣が気に入りそうに目配せしたものだけを取り置いてもらっていた。
「お肌がすっごく白いですからこう言う色味が映えますね!」
店員も乗り気で対応しているので時間は気にしないでくれていた。
だが、店はここだけのつもりじゃないために咲乃は菜幸と厳選なる審査をしていく。
「これ全部もいいけど、春物もまた出るから私とかのお古をあげてもいいわね」
「私のとかは?」
「ボーイッシュ……いいわね! 漣ちゃん中性的だから女性客受けを狙うのもありだわ!」
「じゃあ、それはまた明日以降でいいとして……次はランジェリーショップっすね!」
「え、ここだけじゃないんですか?」
「違うわよ」
まだまだ行くところはあるのだからと咲乃は漣の頭を軽く小突く。
服の方は防寒着も含めてひと通り購入してから、熊谷宅に宅急便で配達してもらうことに。とにかく量が女性三人じゃ持ち着れないのと克己達にはそう伝えてあるので問題ない。
「………私よりも大っきい」
「結構着痩せするタイプだからわかりにくいのね?」
ランジェリーショップに着いて漣のバストを測ってもらってからわかった情報だ。菜幸も小さくはないが平均より少し上程度。
咲乃は自他共に認める程の大きさ故に可愛いタイプを選べないのがコンプレックスだ。漣はそんな二人の中間だったため、可愛いのが色々と選べる。咲乃は漣の容姿から色気を狙うよりは可愛い方がいいだろうと、漣に聞きつつ選んでいく。
半分は、洗濯の時に晁斗が見ないわけがないのでそこを考慮してだ。
(伯母さんやお祖母ちゃんのも洗濯したことがないみたいだからしょうがないわよね)
女が従兄妹の咲乃以外だと遠方にいる親戚しかいない故に、女性に関してはほとんど免疫がない。何故彼女を作らないのかも未だ不思議だ。
そこに飛び込んで来た漣と共同生活することで、色々と変わってほしいと言うは従兄妹心となるものか。とにかく、モテないわけがない自分の魅力にも気づいて欲しくもあった。
漣は拾ってもらったからとも思えるが、非常に晁斗には懐いていた。脈があるかどうかはまだ数日も経っていないから不明だ。
「さぁて、あとは小物とかね。靴はさっきの店でひと通り選んだし」
「先輩、うちで働く用に使うスニーカーとかはスポーツショップじゃないと」
「あら、そうね。ブラウスやズボンとかはあってもそこは持参だったから」
菜幸に言われるまでうっかりしていた。
ランジェリー類の会計を済ませてから、これも宅配便に。それから時計を見れば、昼にはいい頃合いだった。
「休憩も兼ねて、お昼ごはんにしましょう。フードコートで色々選べば菜幸ちゃんも大丈夫だろうし」
「お世話かけまっす」
「ふーどこーと?」
「お店が色々集まった場所よ。上の階だから行きましょう?」
漣をエスカレーターに慣れさせるためにも、咲乃は二人を伴って先に進んだ。
次回は12時〜




