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5-4.守護堕の半分

本日四話目

 






 *・*・*






 怖い。


 恐い。


 こわい。


 奈央美(なおみ)は突如現れた恐怖の塊に打ち震えていた。



(……なんでこんなことにっ)



 本当に偶然だった。


 会社が直帰でいいと連絡を寄越してくれたので、気分が良くなったところでライトと相談して恩人とお気に入りになりそうであるウィンタージュにお茶しに来ただけだった。


 入店した時は、夕方より少し前だったからか人は昨日より少なくスタッフも交代で休憩を取っているのか晁斗達はいなかった。


 いくらか残念に思ったが、彼らは仕事だからとライトと雑貨コーナーを見てから席に案内してもらおうとした。


 そこまでは普通だったのに。



「いらっしゃい……ませ?」



 背後に聞こえた店員の声掛けが不安がっていたのに、奈央美は振り返ってしまった。


 来店用の入り口前に立っていた一人の男性が、顕現させている守護精のような者を頭に乗せていた。そこは普通だ。ごく一般的と言っていい。


 だが、その守護精の気配と形相が瞬時にして、周囲の人間達を負の感情に陥らせる程の強さを与えていった。



「ちょ……なにあれ!?」

「邪気が半端ねぇぞ、あれってまさか……」

「『守護堕(しゅごおち)』?」



 具体的な単語が出てくると、息を呑む音から騒めきに変わっていく。


 それから、瞬く間に恐怖の波は荒ぶり店内を飲み込んでいった。



「嘘だろ!? こんなとこで!」

「逃げろ!」

「いやーー!?」

「落ち着いてください! 非常口にご案内致します、スタッフが誘導しますので」



 パニックに陥りかけた客達の喧騒に負けず劣らずの大声がホール内に響き渡った。


 奈央美はライトを抱き寄せながらそちらを向けば、小柄で銀縁眼鏡が特徴の女性が女神のような守護精を携えて、毅然とした風態で守護堕の男性から程近い場所に立っていた。


 しかも、男性はいつの間にか木の枝が蔓のようになったもので全身を拘束されている状態に。



「シェフ以外の店員はお客様方を非常口から避難させて! 邪気に当てられた方達がいらっしゃるようだから、浄化班はそちらを一箇所に集めて出来る限りの浄化を。こいつは私が拘束してるから、マネージャー達を呼ぶまで持ち堪えてて!」



 手慣れているのか的確な指示を次々に出していく。


 そう言えば、ここはただの喫茶店だけでなく万屋でもあった。昨日の今日だと言うのに、恐怖で奈央美も一瞬忘れていた。


 眼鏡の女性の言葉に、喧騒も止んで客達は持ち直したスタッフの誘導によって非常口に案内されていく。


 だが、奈央美は行けなかった。


 実は、ライトは持ち堪えていても、自身が守護堕の邪気に当てられて酷く気分が悪く、恐怖で動けないからだ。



「お客様、お辛いのは承知の上ですがあちらに行きましょう」

「え、えぇ……」



 これが、菜幸が晁斗達を呼ぶまでの五分前のことだった。





 *・*・*










 欲しい、欲しい。


 血が欲しい。


 力が欲しい。


 手に入れたい手に入れられないもの……それが欲しい。


 男はただ些細な欲望を求めていただけだった。


 彼女が、彼女が欲しいとふらりと見かけたので追いかけたまで。


 だがそれが、堕ちる先だとは見出せずに。










 *・*・*










 着いた矢先に状況は最悪一歩手前だと、晁斗(あさと)は内心焦った。


 菜幸(なゆき)がネージュを使って生み出した拘束術も相手はもうじき抜け出しそうだったからだ。決してネージュが弱いわけではないのだが、半堕(はんお)ちもかなりの力を持っているとされてるので対応は難しいだろう。



空呀(くうが)、封縛でなんとか抑えろ!」

「わーった!」



 店の中とは言え、規定サイズに近いくらい空呀を戻させているが拘束術を抜け出そうともがく相手は特に気に留めていないみたいだ。


 だが、抜け出させるわけにもいかないので風を操り、木の枝の上に重ねがけをさせた。



『と、とれ、な……っ』

「風は掴めねぇぞ!」



 空呀が言う通りもだが、風は元々無機質の空気だ。手をすり抜ける感覚はあっても掴むことなど不可能。


 加えてちぎっていくネージュの枝の拘束が絡まって、なお締め付けていくことだ。


 だが、晁斗は守護堕でも半堕ちでも本格的な処置は出来ぬので、あくまで篤嗣(あつし)ら捜査一課が来るまでの繋ぎでしかない。


 戦闘経験はそう多くないからだ。



『ぐぎぎ……ががっ!』



 二重の拘束術にも関わらず、男は抗って抜け出そうとしている。堕ちかけてる守護精は人型としか視認出来ないが動きもない。



(様子を伺ってる……? つか、まだ意識があってここに来たのか?)



 なら何故一介の喫茶店でしかないウィンタージュ側に来たのか。


 万屋に用があるなら、少し遠回りだが別口だってある。あまり知られていない方だが。



「とは言っても、堕になりかけなんじゃうちの管轄だ。悠耶(ゆうや)! 準備出来たか!?」

「結構時間かかるのがネックなんだよね……」



 後方にいる従兄弟とその守護精に振り返れば、彼は印を組みながら額に汗を浮かべ、守護精の方は周囲にいくつもの水の球を従えていた。



「頼むよ、星燕(しょうえん)!」

「応!」



 水球を従えまま青龍を模った星燕は飛び出し、もがいている半堕ちの男性に近づいていく。



「唸れ響け、我が星の片割れ」



 星燕が詠唱を唱えるごとに従えてた水球は彼から離れ、半堕ちの頭上にまで降りていった。ただ無造作にではなく、渦を描きようにして半堕ちの周りに漂い、等間隔に五つの配置につく。


 途端、水球が光り出して電流のようなものを帯びる。



「……(とどろ)け奏でよ、数多募る欠けらの囁きっ」



 詠唱と共に電流が形を変えて線のように細くなり、水球同士を繋ぐようにうごめいていった。


 その形は、五つの頂点をいただく星そのもの。五芒星だ。



「星燕、いい!?」

「問題ない」



 呼吸を合わせ、悠耶は印を組み替え、星燕は顎門(あぎと)を限界まで開く。



波錠(はじょう)砲雷(ほうらい)!!』



 二人の怒号が店中に響き渡っていく。特に星燕は体長2メートルにも満たないのに空呀に負けない咆哮を放った。


 その響きに五芒星の水球は雷光だけを残して弾け、未だ状況を読み込めていないであろう半堕ちの周りに水の膜のようなものを形成していった。



「これやったら、僕らしばらく手が離せないからっ」

「俺も拘束以外対処はむずいっての!」



 戦闘集団ではない万屋。その主な依頼内容は浄化や輸送に捕縛。


 何でも屋と意味する割には戦力としては、大したことはない。あくまで、一般民衆(・・・・)の前でだが。


 現に、店の奥では咲乃(さくの)鳳嬰(ほうえい)と浄化作業を行っているので、気を失っていた客の中にも起き出した者も何人かいた。



「え、何あれ?」

「店員さん達の守護精??」

「……すごい、拘束出来てる」



 つまり、公衆面前で出来ることは限られてくる。


 だだ不用意に技を出し惜しみしてるわけではない。半堕ちだからこそ、これ以上浸透させないようにだ。



(堕ち間近の守護精も動かねぇのが怪しい……)



 通常なら、堕以下でも半狂乱になって暴れ狂うはずだ。


 なのに、菜幸の報告でもただならぬ邪気を漂わせて店内に来たのみ。被害も邪気に当てたれただけと言うまだ可愛げがあるもの。


 だが、それでも半堕ちに違いない。


 菜幸は守護堕を真近で見た(・・)ことがあるから、判断に間違いはないのだ。



「ちょっ、え!?」

「悠耶?」



 考えに耽っていたら、従兄弟があり得ないものを見たような声を上げたので我に返った。晁斗も振り返れば、自分の目を疑いたくなった。



「……嘘だろ」



 四神を模した守護精は、一説によると元となる神獣の力の末端とも言われている。宿主の強弱に問わず、その力は絶大。


 いかに半堕ちと言えども、青龍を模った守護精の拘束術だけでなく白虎を模った守護精の拘束術を、少しの時間だけでほぼほぼ抜け出せているのに、晁斗は驚愕を隠せなかった。



『……しい。ほ……しい』



 晁斗らよりはいくらか世代は上だが若い男。


 ネージュの枝葉を体につけながらも姿を現した半堕ちの彼は、まだ意思があるようで濁声でも言葉を紡げていた。



『……が、……がほしい』



 具体的な言葉が聞こえない。


 しかし、守護堕達が求めるものは大抵決まっている。

 それがわからない万屋メンバーではないのは晁斗も重々承知だ。



「……やるしかねぇか」

「晁斗! ここはまだ一般人が少しでもいるんだよ!?」

「篤兄達が来るにしたって、到着まで間に合わねぇぞ! 店の破壊もだが、一般人がいるんだから余計に巻き込むだけで済まなくなる方が後悔する!」

「……晁斗」



 出し惜しみはここまでだ。


 記憶改竄(かいざん)なんて禁術は扱えないが、残っている客達には後でここで見たことを外に出さぬように説き伏せるしかない。



『……しい。……れが、ほ……しい』



 とうとう水の膜まで破ってこちらへ近づいてくる。狙いは、やはり高位の守護精を所持する晁斗達か。

次回は17時ー

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