5-3.少女の年齢
本日三話目
*・*・*
「結果だけで言うけど、漣ちゃんは守護無しでほぼ間違いなし。記憶喪失の方も、重度に近い中傷程度だと荘重君の診断だ」
ブレイクタイムの後半に燈と菜幸以外の万屋メンバーが集まったところで、克己がそう切り出した。
「克爺、身内とかの捜索は篤兄らにも回したのか?」
「篤嗣伝で、久礼野君にお願いしてあるよ。彼くらいになら漣ちゃんの事情の一部は話せれるからね」
「そっか」
捜査一課の部長なら、晁斗もひと安心出来る。
「検査は具体的に何したの?」
紅茶を持って来た悠耶は人数分配っていた。茶請けには、咲乃手製のメープルクッキーだ。
先に渡していた漣は咲乃に薦められて食べていたが、いたく気に入ったようで笑顔だった。どうやら菓子類は例に漏れず好みのようだ。
「脳波全般……心理テストに基本的な健康診断は受けてもらったよ。それでわかったことなんだがね?」
急に歯切れが悪くなった。
そして、少し間を置いて大きくため息を吐く。克己にしては珍しい行動だ。晁斗はわからず首を傾ぐ。悠耶も咲乃も似たようにしていた。
「……漣ちゃんの大体の身体年齢なんだが」
「あ、わかったんだ?」
現代医学や科学のお陰で、細胞の個体差によって表れる数値はおおよそ割り出せられるようになっている。
検査事態はごく簡単で、口内粘膜と血液を採取すれば可能だ。年々微妙な誤差は減っていき、体細胞年齢とは別に引き出す事が出来る程まで立証されている。
「驚かないでおくれ……」
「何躊躇ってんだよ?」
「漣ちゃんも聞いたんでしょう?」
「え、はい」
「大体いくつだったんだい?」
注目が克己から漣に移る。
克己以外の大人から一斉に視線を向けられた少女はおどおどとしてしまい、どう答えていいかあぐねてしまったようだ。
「……え……っと…………22歳前後だそうです」
小さい声だったが、部屋全体の空気を凍らせるには充分な効力があった。
「嘘っすよね! 私の一個下!?」
「何聞き耳立ててたんだよ菜幸!?」
騒ぎ出したのは、いきなり開いた扉から入って来た菜幸だった。側には自身の守護精を携え、小型化になってる彼女は苦笑いしている。
「ご主人をお止め出来ずすみません」
「ネージュは悪くないよ」
「……ふわふわの髪のお人形さん?」
「初めまして、菜幸様の守護精……樹木精の化身が一人のネージュと申しますわ」
主人とは正反対の気品ある守護精は、着ているギリシャ神話の女神のような白衣の裾をつまんで丁寧にお辞儀した。その姿は愛らしくもあり美しい。
漣の頰も薄っすら紅潮していく。
それはさて置き、
「マスター! 漣ちゃんが成人済みってマジっすか!?」
「あ、ああ。本当だよ。荘重君も少し信じられない顔をしていたが、カルテからちゃんと読み上げてくれたしね」
「ふぇーー!」
「ふぇ、じゃない! お前今ホールの仕事なのに何してやがんだ?」
おそらく晁斗のこめかみには青筋が立っているだろう。自身でも血管が浮き立ち、わずかながらも脈打っているのが実感出来た。
加えて、人相もいくらか変わっているようで、菜幸の興奮していた表情が途端に青ざめていく。
「せ、先輩……?」
「業務中はこっちかあっちの役職で呼べって言ってるよな? それに何しに来たんだ?」
「え、あ、そ、そーっす! ウィンタージュ側が大変なんすよ!」
「……は?」
一気に毒素を抜かれた気分になった。いや、現状は決して良くないが。
「何があったんだね、菜幸君?」
当然、マスターの克己の表情も険しいものになり、即座に岐笙を降ろした。
菜幸も表情を落ち着かせて、克己に向き直った。
「……………半堕ちっす」
その単語に、漣以外も即座に守護精を降ろした。
晁斗は白虎の空呀を。
悠耶は青龍の星燕を。
咲乃は朱雀の鳳嬰を。
これで克己の岐笙を合わせて四神を模した守護精が出揃った。
「え、え、え?」
一人事情が飲み込めないでいる漣は突然のことに狼狽えるのも仕方ない。記憶がないこともだが、万屋の仕事の本来の仕事を教えもしていないので無理もないのだ。
「菜幸、客は?」
「大半はお帰りいただいてますが、氣に当てられて守護精でも満足に守護出来ず倒れたのが数名。バイトの子達が間に合って保護してるっす」
「君の指示で?」
「はいっす!」
「浄化は水より炎がいいわ。鳳嬰、先に行って状況も確認してきて」
「承知」
篠瑪より格段に大きく、鮮やかな朱色を主体とした羽根や色とりどりの尾羽を揺らし、気品漂わせるその面差しは人をも魅了するようだ。
鳳嬰と呼ばれた美しい鳥は翼を羽ばたかせて、瞬時に菜幸が開けた扉から喫茶側に急いで飛んでいった。
「俺と空呀も先に行く。漣は克爺や菜幸とここにいろ!」
「な、何が起きたんですか!?」
「闇に堕ちかけた不届き者が、私の大事な店に上がり込んで来たようだよ」
「やみにおちかけた?」
「詳しい事は漣ちゃんには後で教えるわ。晁君達はお願い。お兄ちゃんには連絡しておくから」
「おう!」
「行っくぜー!!」
「僕らも行くよ、星燕!」
「応!」
説明したいが、とにかく急ぐしかない。バイト達では遭遇経験が浅過ぎるからだ。
たとえ、半分堕ちた守護堕ですら。
次回は15時〜




