5-2.構いたくなる理由?
本日二話目
「好き嫌いとか特にないかな?」
「今のところはないです」
「んー……じゃあ、せっかくだしシェフおすすめのランチはどうかな?」
「このおまかせって言うのですか?」
「うん。内容は燈さんが得意な明太子のクリームパスタって言うのだけど」
「じゃあ、お願いします」
「飲み物がついてるけど、オレンジジュースでいいかな?」
「アイスティーって何ですか?」
「興味ある? 飲んでみたい?」
「はい」
「かしこまりました。待ってる間、どうする? 何か適当な本とか持ってこようか?」
「えと……朝あんまり見れなかったんで、あそこ行きたいです」
と言って、漣が指したのは雑貨コーナー。今も数人女性やカップル客で賑わっている。
「ああ、いいよ。そうだ、誰がどれを作ってるかは咲乃から聞いた?」
「んと……大雑把には」
「僕は革製品だけど、晁斗は金とか銀を使ったアクセサリーが多いよ。咲乃は編み物なんだ」
「かわ? あみもの?」
「とにかく行っておいで。紙とかで簡単な説明とかは書いてあるから」
「はい」
本当に聞き分けが良く、悠耶が促せば席から立ち上がって行ってしまった。
急ぐわけでもなくゆっくりと、席の間を縫いながら他の客とぶつからないように目的の場所に行く様は、とても記憶喪失者に見えないごく普通の少女だ。
今日も咲乃のお下がりの一つを着ていて実に愛らしい。昨夜のパーカーとジーンズだけでは少年と見紛うくらいだったのに。
「さて、注文を受けたから急がなくっちゃ」
いい加減戻らねば、無理やり仕事につかせた晁斗が黙っているわけがない。
「オーダー入りました。おまかせランチ一名様です。セットドリンクはアイスティーで」
「りょーかい!」
「承りましたー!」
「悠耶、てめぇ! なんで俺に行かせなかったんだ」
オーダーを通すと速攻で晁斗がやってきた。これは予想通りなので平静を崩す必要はない。
「マネージャー、業務中だよ」
「うっ……だからって、サブリーダーのお前が俺を押しのけて何してんだ!」
「だから、だよ。僕は自覚してるからいいけど君へのリピーターだってごろごろいるんだからね? そう言う視線から漣ちゃんを守ってあげなきゃ」
「は? 俺?」
「バイト時代から結構経つのにいまいち自覚ないよね……」
困った従兄弟である。
「マネージャー、お電話でーす」
「……わーった、今行く」
ちょうどいいタイミングに会話が終われた。悠耶もサブリーダーの一人なので暇ではないからだ。
晁斗はバイトの一人に呼ばれて、喫茶側の事務所に向かった。
「えーっと、サラダとパンにスープ……」
おまかせランチ用の前菜の準備をして漣の席に戻ったが、まだ彼女はいない。雑貨コーナーに目配せすれば、ちょうど晁斗のコーナーを真剣に見つめていた。
(ああ言う表情を見ると、ちゃんと女の子だね?)
咲乃や菜幸が商品を作る時とよく似ている。
ゆっくり見させてあげたいが、パンとスープは温かい方がいい。なので、席に置いてから漣に近寄った。
「漣ちゃん」
「あ、はい」
横から声をかけてあげれば、彼女は慌てたように顔を上げた。
「真剣にしてたところごめんだけど、注文の一部が用意出来てね。席に置いてあるから」
「あ、ありがとうございます」
「食べ方は大丈夫?」
「昨日と朝に晁斗さんが教えてくれました」
「そっか。じゃ、ごゆっくり」
*・*・*
解せぬ気持ちが渦巻く。
(悠耶ははぐらかすが嘘はつかねーし……)
通常業務をこなしながらも、晁斗は悠耶の言っていたことがわからずで逡巡していた。
客からの視線。それは常日頃あって普通だ。こちらは店員なのだから。
だが、晁斗へのリピーターと言うのはよくわからない。イケメンや美女と称されるのはどう観点を変えても従兄妹達の方だろうと今まで意識していたが、悠耶は基本嘘をつく男じゃないのは重々承知だ。
なので、少し見方を変えてみようと意識してみた。
「あら、熊谷さん。今日も笑顔素敵ね!」
「まあ、美味しそうね。熊谷さんが持って来てくれるなんてラッキーだわ」
「熊谷さーん、注文お願いしますー」
「おにーさん、こっちも注文お願いしまーす」
などなど。
今までごく普通に応対して来たが、中には昨日来たばかりの女性二人組もいた。
(あれ? たしかにリピーターいる?)
喫茶側のウィンタージュに勤めてそれなりの時間が経っているにも関わらず、今日まで気づかないでいた。
雑誌などの取材では主に悠耶や咲乃のことが書かれているのに、まさかそれが自分に当てはまることがあるとは。
これは、スタッフ側にも一部確認せねば。
「晁斗先輩へのリピーター? 今更っすか? 下手すれば悠耶先輩抜かす勢いっすよ」
「マネージャー、自覚なかったんですか……?」
「マネージャーの笑顔は茅沼サブリーダーに匹敵しますからね」
菜幸やバイト達にこっそり聞いたら、心臓にグサグサ突かれる勢いで言われまくった。
「な、菜幸……俺ってモテる部類なのか?」
「高身長は燈さん並みっすけど、フツメンには見えませんね。真顔はちょっと怖いっすけど、バイトの子達が言うように笑顔で陥落させちゃうのは日常茶飯事じゃないっすか」
「か、陥落って……」
ごく普通の接客態度でいたつもりが、自分の基準点を高めているとは思いもよらなかった。
「それが急にどうしたんすか?」
「……漣に構い過ぎだろって悠耶に言われた」
「私は今日からっすけど、たしかに気にし過ぎっすよ。事情は何であれ普通の女の子なんすから」
バイトがいる手前、漣が守護無しであることは避けてくれた。別に万屋の仕事を知らないわけでもないが、あまり公言しにくい内容だからだ。
「茅沼サブリーダーが注文取りに行った女の子ですよね? 雑貨コーナーではマネージャーの作品を真剣に見てましたよー?」
「俺の?」
「何か欲しいかもしれませんね?」
バイトには熊谷の親戚の子をしばらく預かるとだけ告げてある。記憶喪失や年齢や職業については一切告げてない。だが、事情持ちなのは察してもらえているようだ。
ちらっとホールに視線を向ければ、漣はパスタに苦戦しながらも食事をしていた。念の為に朝食もパスタにして正解だった。ウィンタージュのミートメニューの半分はパスタで占められているので、仕様がないのだが。
「もくもく頑張って食べてるのが可愛い!」
「高校生ぐらいでしたっけ?」
「た、多分?」
バイトがはしゃぐのに菜幸がなんとか答えていた。
慌てん坊の癖があるとは言え、菜幸も守秘義務を守るいい大人だ。
「んじゃ、聞きたいこと終わったからお前らも補充なりヘルプだったりしてこい」
「了解っす」
「行ってきまーす」
軽く手を叩いて解散の意を示せば、すぐに離散していった。
(……俺のか?)
そう言えば、悠耶から在庫切れ間近であると言われていた。事務所に作り置きしてあるのを出せばいいかと、晁斗は踵を返して事務所の方に向かった。
*・*・*
それから喫茶側のブレイクタイム。晁斗は漣を連れて、万屋側の事務所に向かった。
「どうしたんですか?」
「ん。ちぃっと見せてぇもんがあってな?」
「見せたいもの?」
首を傾げる漣に苦笑しながら、晁斗は来い来いと手招きする。小動物のようについてくる漣がなんだか可愛らしい。晁斗の体格に比べれば、大抵の小柄な人間はそう見えてしまうかもしれないが。
「入れよ」
「お邪魔しまーす」
事務所に入れたら適当に座るように言っておいた。その間に手にしていた紙袋を自分のデスクに置き、中身を一個一個取り出していく。
「んーと、出来上がってんのはこれとこれとかか」
意外とたくさんあった。
ストックとしてちまちまと用意していたが、喫茶側に回す分にも大分余裕がありそうだ。
「漣、準備出来たぞ」
来いよと手招きすれば、とことこと言う具合にゆっくりやってきた。
そして、デスクの上に並べたものを見れば無意識なのか声を上げた。
「うわー、綺麗です!」
金銀銅、それらをいぶし加工したものもあるが、大小様々なアクセサリーや小物が出揃っている。
「これ全部晁斗さんが?」
「まあ、既成の部品繋いだとかもあるが、一から作ったのだとこう言うのだな」
漣の手に取らせたのは銀色のブローチ。四つ葉のクローバーをモチーフにしていて、飾りなどにはガラスビーズのようなものを使用していた。
「可愛い……」
「好きなもんがあるなら、一個いいぞ?」
「ええ!? で、でも、僕お金持ってないですよ」
「いいって。バイト達から聞いたけど、俺とか他のやつらのも真剣に見てくれてたんだろ? これは俺のだし、一個くらい構いやしねぇよ」
「え、えーっと……じゃあ、選んでいいんですか?」
「おう、ゆっくりでいいかんな?」
「はい!」
「……っ!」
満面の笑みで答えられたのに、晁斗は心臓を掴まれたような感覚を得た。
次回は12時




