貴公子アムレート 1
西側諸国の経済都市ロラン付近の平原
皇帝に四天王が召集された日から三ヶ月が経とうとしていた。
帝国の西側には大小二十余の国家があり、その一つひとつに帝国と渡り合う程の力は無い。
しかし、帝国が侵攻を開始すると二十余の国家は予想を遥かに上回る早さで連盟を結び、共同戦線を張ったのだ。
政治や戦略に関して、アムレートは興味が無かった。
しかし、一度や二度の勝利で西側諸国との戦いを制することが出来ないことを考えると、目の前の戦場にだけ思考を集中できない苛立ちは少しずつ募った。
二十歳にして、帝国の四天王である。
武芸に優れ、戦術家として天才と称され、貴公子と称される程の美しい顔立ち、天が全てを与えたかのようなアムレートだが、中身はやはり若者である。
苛立ちを吐き出すかのように、毎晩のように女を抱いた。
若い女には興味が持てなかった。
三十代の女を決まって抱いた。
美しい顔立ちと鍛えあげられた美しい肉体に女達は悦ぶが、その声を幾ら聴いてもアムレートの心はやはり満たされ無かった。
女は好きだが、やはり求めているものが少しずれている。
だが、そんな悩みも街に居られる時だけだ。
敵が動いて、野営となれば女など抱けない。
しかし、戦場に出れば戦ができる。
アムレートには女を抱く以上の悦びが、そこにある。
西側諸国は連合を組み、対シリウスの先鋒として辺境の騎馬民族を中心とした二万を当てた。
シリウス側の総大将アムレートは、西側諸国に対して編成された八万の軍勢の指揮権を与えられているはずだが、今はまだ二万にも満たない兵しか展開していない。
機動力と戦闘力に勝る騎馬民族をぶつけ、あわよくばアムレートを討ってしまえば、この戦役はこれで終わるかもしれない。
討てないまでも、全兵力が揃う前に騎馬民族の戦闘力で総攻撃をかけてしまえば、帝国軍も相当な損害は被るはずである。
その間に、西側諸国の連合軍全軍を集結してしまえば、おそらく数では連合軍が勝る。
連合軍の軍人達は、戦略的に有能であった。
騎馬民族の軍勢が、アムレートの敷いた陣まで二十キロの地点に到達した。
農民に変装した斥候達が狼煙をリレー式にあげるため、かなりの速度で情報はアムレートの知るところとなる。
本気で駆ければ、騎馬民族は偵察兵よりも速い。
狼煙の煙では敵の兵力までは伝えられないが、アムレートは敵が二万から三万であると読んでいた。
こちらは一万六千の兵力しか展開していない上に、騎馬は五千程度である。
将校達に現状の説明を行うと、明らかに不安そうな顔色のものが幾らか居るが、アムレートはそういうことには関心が無い。
必要なら、そういう将校は前線から外すこともするが、今回はアムレートにとっては大して深刻な事態でも無い。
むしろ、深刻な事態に見舞われたことが無いので、自分に比べれば凡人である将校達の気持ちも理解が出来ない。
そして、それを理解する義務は指揮官である自分には無い。
『私としては、既に勝利を確信している。』
歩兵部隊の将校達は怪訝な顔をしたが、騎兵の将校達は笑った。
このあたりが、アムレートの直属部隊の将校達とそれ以外の将校の決定的な違いだろう。
『戦は確かに数の勝負だ。しかし、逆を言ってしまえば、人数だけで勝った負けたを判断するのは愚かである。一の力しか持っていない一万人に比べれば、五の力を持つ三千人の方が遥かに強いからだ。』
皆何も言わないが、やはり騎兵将校と歩兵将校の思うところは概ね真逆のようだ。
『今回は騎兵五千のみで敵にあたる。歩兵は拠点の防衛に専念してくれ。もっとも・・・』
言葉を区切ると、本心からアムレートはため息をついた。
『もっとも、私の心配は勝つか負けるかでは無い。私と私の精鋭相手に、敵が半日は壊走せずに楽しませてくれるかだが。』
アムレートの直属である騎兵将校達は逞しく大笑いした。




