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沈黙の鉄仮面 3

『お前の本業は棒使いだろうが。剣も使えるなんて聞いてないぞ。』


『もちろん、得意は棒ですがね。前はうちの大将に来る日も来る日もしごかれましたからね。自分で言うのもなんですが、剣もそこそこ使えるようになりましたよ。』


ビッグが酒を飲みながら詰め寄っても、ロッカはうまくいなしてしまう。


帝国の偵察兵に変装し、敵の背後から敵の大将の居る地点まで素通りできた。


普段であれば、上手くはいかないであろう策だったが、戦の駆け引きがコーエン将軍の計算を狂わせた。


ロッカがコーエン将軍の首をはねた時、ロッカとその手勢は敵から追撃されるのではないかと思ってもいた。


しかし、ロッカ達が離脱を図るのと同時に、敵の騎兵目がけて岩が落ちてきた。


追撃の態勢ゆ取る前に、騎兵は追撃を諦めざるを得なかった。


『まったく、うちの大将の采配は見事なもんですよ。正直、今回の相手が八百で、おまけに敵の指揮官がコーエン将軍だと聞いた時には、ほとんど諦めてましたよ。』


『そんなに有名なのか?』


『コーエン将軍ですか?南部辺境に居るのが不思議なくらいな軍人ですよ。敵とはいえ、過去形で語るのは少し残念ですがね。』


『過去の人にお前がしたんだろうが。』


『いや、それはうちの大将が・・・ 』


そこまで言いかけた時、ビッグとロッカの間にフルフェイスの兜を被り、甲冑で全身を包んだ男が座ってきた。


鉄仮面ことウォルフその人である。


『よぉ!天才!いつ頃から勝てると思ってたんだ?』


ウォルフは何も答えない。


もともと無口な男である。


半年前まで、ビッグはウォルフとロッカの率いる一派と数ヶ月にも渡る抗争を繰り広げていた。


お互いに賊として五十人程度の部下を従え、縄張りを巡って毎日のように争った。


しかし、ビッグが決戦を挑むと、ウォルフはいつもそれをかわした。


ある日、お互い一派を率いて対峙したところを帝国軍の討伐隊に奇襲された。


ビッグの一派はたちまち包囲され、じわじわと締め上げられていったが、それを救い出すために奮戦したのが、宿敵であったはずのウォルフ一派であった。


それまで、ビッグがウォルフに襲いかかったことは幾度もあるが、ウォルフは応戦せずに上手く逃げていた。


しかし、その日のウォルフの戦いぶりを目にしたビッグは、ウォルフの強さに唖然とした。


ウォルフの弟分であるロッカとは、何度か渡り合い、条件次第ではビッグが押せる展開も度々あった。


しかし、ウォルフはロッカとは比べものにならない程強い。


フルアーマーの甲冑を常に装着し、一メートル以上ある剣を巧みに使い、敵を薙ぎ倒していく。


決して速くは無いはずの斬擊を、敵は全く防げない。


何よりも隙が無い。


死角から襲いかかった敵に、フルアーマーの甲冑で武装したウォルフが、綺麗にハイキックを入れた光景には、もう呆れるしか無かった。


フルアーマーを駆使して、剣だけでは無く全身で戦う。


仮に敵の一撃を避けなかったとしても、よろめかずに反撃する。


討伐隊を追い払った後、ビッグはウォルフの下に付く覚悟をしたが、ウォルフはどちらが上でどちらが下であろうと構わないとだけ言った。


討伐隊と戦うことが増えると、ウォルフの作戦指揮に従ってみた。


いずれも見事な勝ちしか無かった。


三軍の編成も見事である。


若く力のある五十人をビッグが率い、身軽な者三十を騎兵としてロッカが率いる。


老人や戦闘に向かない二十人をウォルフ自らが率い指揮した。


そして、この三軍をウォルフは巧みに動かして勝利した。


弱まった焚き火の火を見たロッカが枝を足した。


ウォルフが兜を外した。


緑色の髪の毛が印象的なこの寡黙な青年は、ようやく口を開いた。


『次は勝てない。』


連戦連勝の将が放った言葉の重みがロッカとビッグに突き刺さった。


そんなことはないと言いたい二人だが、やはりウォルフの言う方が正しいだろうという思いの方が遥かに強い。


『更に南に行こう。』


『南?何故だ?』


『ここで終わるつもりが無いからだ。』


『国でも作るんですかい?』


冗談半分でロッカは投げかけたつもりだったが、ウォルフの沈黙が逆にどんな返事よりも重い何かを二人に伝えていた。


『南に行く前に、俺は体を洗いたいぜ。俺達先鋒は全員返り血塗れなんだ。』


『確かに、臭いな。』


ウォルフの一言にロッカが思わず笑った。


やはりウォルフは無口な方が良いかもしれないとビッグは思った。

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