11.氷の剣士
第11話「氷の剣士」
《バルドース城 大広間》
私とリカちゃんがたどり着くと、大広間は騒然としていた。
大勢の兵士達がモンスターを相手に戦っている。だが、
「数が多すぎます・・・これでは、防戦一方ですね。」
リカちゃんの言うとおりだ。
こちらの兵はもう疲弊しきっている。
しかし相手方は次から次に押し寄せてくる。
仕方がないか。
私は借り物の剣を握り直した。
「リカちゃん、どれくらい戦える?」
「・・・オーク程度なら、難なく。」
「頼もしい・・・」
私は脚に力を込め、一気に加速する。
瓦礫を踏み台にし、兵士たちの壁を飛び越える。
所詮、この街は私とは関係のない街だ。
私が助ける必要はない。
・・・でも、見つけてしまった。
夢を持つ少女を。
その夢を、追い求める眼差しを。
求めるものは違えども、
乙女として、同じ夢見る乙女を放っておけない!
だから、
・・・行かせない。
ここから先には、
「行かせないぃぃぃぃぃッ!!!」
雄叫びと共に敵の群れの中へ飛び込む。
敵に斬りかかる寸前、体の奥から何かが沸き上がってきた。
でもそんなことをいちいち考えてる余裕はない!
「りゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
渾身の一撃を浴びせる。
敵を切りつけた瞬間、その場所から凍りついていく。
「うおおおおおお!!!」
ただひたすらに、切る、切る。
斬りつける度に、敵は凍りつき、倒れていく。
何体か敵を斬り倒すと、巨大なゴーレムが行く手を阻む。
ゴーレムは私に向けて腕を振り下ろした。
「ぐうっ!!なんて、重いッ・・・!」
腕がしびれる。
ゴーレムが逆の腕を振り上げたのを、視界の端でとらえる。
これは、ヤバイ。
すぐにその腕は私目掛けて振り下ろされた。
覚悟を決めたその時だった。
「はあッ!!」
強烈な一撃がゴーレムの腕を弾き飛ばし、私から反れたところに腕を下ろさせる。
その攻撃を入れたのは、大剣を構えた一人のメイドだった。
「今です。とどめを。」
冷静に、取り乱すことなく私に告げる。
「ちょっと・・・カッコ良すぎだよ・・・!!」
彼女の一撃でゴーレムの体制が崩れた。
私は振り下ろされたもう一方の腕を駆け上がり、ゴーレムの頭上へと飛んだ。
そして、
ゴーレムの頭目掛けて、落下の勢いをつけ、思い切り振り下ろす。
「凍りつけえええぇぇぇぇぇッ!!!」
ガツンッ!
と重い音が響き、私が斬りつけた場所から巨大な氷が勢いよく飛び出す。
その氷は周りのモンスターをも巻き込み、次第にその範囲を広げていく。
やがて、大広間の通路を覆うほど巨大な氷となった。
しばらくすると、大広間は静寂に包まれた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
私は床に突き刺した剣にもたれるようにしていた。
体が動かないし、あちこち痛い。
無茶したからな・・・
「お見事でした、ミクリ様。少々お待ち下さい。」
リカちゃんがそう言うと詠唱を唱え出した。
詠唱が終わると、体の痛みや疲れが少しだけ和らいだ。
「あまり高位の回復詠唱ではありませんが・・・」
「いや、十分だよ。ありがとう。」
私は剣を地面から引き抜き、眺めた。
別段、特別な様子はない。
ただの鉄の剣だった。
「しかし驚きました、ミクリ様。」
彼女は氷に閉じ込められたモンスターの群れを見た。
どうやら、この氷そのものがバリケードの役割を果たしているようだった。
もうモンスターが侵入してくる様子はない。
「ミクリ様が使えるのは氷結魔法とばかり思っていました。とるに足らない、平凡な能力だと。」
それは、最初にルークにも言われたことだった。
やっぱり、普通に使える能力なんだね。
「しかし実際は氷結魔法ではなく、『氷結剣技』だったとは。」
「へぇ~。これ氷結剣技っていうんだ。」
「・・・まさか、ご自覚無かったので?」
「うん。でも、こんなのをみんな普通にやっちゃうんだよね。」
すごいな、この世界の人は。
運動不足の私はもう、大技一回でへとへとだよ。
「何を・・・おっしゃっているのですか。」
リカちゃんの顔は驚きに満ちていた。
あれ、私なんか変なこと言った?
「剣技を扱える人がいるというのを聞いたことはありましたが、少なくとも私は、剣技を見るのは初めてです。」
「・・・えぇ!?」
拝啓、昨日の私よ。
前略。
やっぱり私は勇者でしたよ!