Girl's Side 4 ~部室~
かるた部に部室として宛がわれたのは、六畳間の宿直室。普通に高校生活を送っていたら、そんな部屋があったのだということすら知らないままだったかもしれない。この部屋が、これからボクらの活動の場になるんだ。
「宿直室ってんなら、TVの1つや2つ置いてあると思ったんだけど、当てが外れたな」
「あら、落ち着いていていい雰囲気じゃないの。私は気に入ったわよ。給湯室がすぐ目の前にあるところなんて、特に」
八十島さんは放っておいたらティーセットなんか持って来そうだ。そんなやり取りを他所に、一先ずカーテンと窓を開けてみる。下校する生徒たちの声が飛び込んできて、思いの外賑やかだった。誰にも認識されないような校舎の片隅のカビ臭い部屋をイメージしていたので、光の指す宿直室はとても輝いて見えた。
八十島さんがはたと思い付いた様に問う。
「部の備品なんかはあるのかしら?結構最近まで部として存続していたのなら、先輩方の使っていた札なんかがあると思うのだけれど?」
「それなら、そっちの押し入れに」
言われて入口脇の衾に目をやる。そっと開けると小さな段ボールに詰められた札や冊子が出てきた。
「決まり字で纏めたリストだね。先輩方が作った物かな?」
「こっちのはまた凄い年季が入ってますね」
大江山さんが取り出したのは黒いラジカセだった。
……ラジカセ。ラジオが聞けてカセットテープの再生や録音が出来る、アレ。CDやMDはついていない、生粋のラジカセだ。
そのラジカセと一緒にカセットテープが2本出てきた。色褪せたラベルにはボールペンで“朗読テープ ´98”と書かれている。
「朗読テープ?」
八十島さんが肩越しに覗き込む。
「それがあれば詠み手は要らなくなるから、人数が少なくても一応、練習が出来るわね」
人数が少なくても……何だかちょっと引っ掛かる言葉だ。八十島さんは現状の部員の少なさを言いたいのだろうか?それとももっと少なくても、最悪一人ででも練習が出来るとでも言いたいのだろうか?ボクだったらそんな状況ならさっさと帰ってしまいそうだけれど。
当の八十島さんは何やら思案していたようだけれど、すぐに一人で納得してしまった。
「ところで和泉部長、練習日とかは決めなくていいのか?」
あ、ナイス質問。
「私もそれ、聞いておきたいです。和泉部長」
「部長ってのも何だかこそばゆいね……えっと確か大江山さんは兼部するんだよね?」
「あっ、はい。なのですみませんが水曜日はお休みしたいです……」
大江山さんは友達との約束で家庭科部にも入るんだって聞いている。
結局、大江山さんに配慮する形で部活は毎週火曜日と木曜日に決定した。