1. 監獄
この小説に目を通していただいた数奇な御方。今しばしこの物語にお付き合いください。この話が、揺蕩う現世に咲く鮮やかな華となりますように――――。
光の堕ちた世界の端。
抗い、足掻き、散りゆく人の成れの果て。
何を求める?何を願う?
貴方は何を知っていて、何の権利を持っている?
嗤え、貴方がいるのは既に滅亡の淵。知らず知らずに踊り狂い、いつか死ぬまで無知でいよ。
――――哀しき世界の果てに貴方は何を見いだすだろう?
さあ、物語の始まり始まり。
この世界には、《刻印者》と呼ばれる者達がいる。
その名の通り、身体には印が刻まれており、その刻印は一人一人異なっている。《刻印者》の殆どの者は酷く卓越した力を保持していて、ある者は数多の災害にも等しい魔法を操り、ある者は拳のみで大地を割り、ある者は森羅万象全てを見通し、全てをその手の中に納める。
ここに、幼き《刻印者》だけが住まう場所があった。
正式名称は「希望の園」。強力な《刻印者》養成の為に作られた場所。
食事付き、無意味な労働なし、最高級の訓練あり、休憩多め、一人一台のベッド付き、睡眠時間確保可能、良質な治療室完備。
――――そして、完全実力制。
「希望の園」の全ては《ランク》の上下と個々が保有する《ベラ》で決まる。
《ベラ》は「希望の園」における通貨のようなものである。毎日の生活態度や貢献点により授与される。訓練で良い成績を残せばボーナスとしてあたえられることもある。
《ベラ》を払えば食事をアップグレードしたり、よりよい訓練用の部品を買えたり、訓練を休むことができる。特別な部屋に入る許可をもらうこともできる。《ベラ》があれば大抵のことは見逃されるというのが、「希望の園」での常識だ。
《ベラ》を大量に保持している者は威張るし、《ベラ》を殆ど持っていないものに娯楽も尊厳もない。
だが《ランク》はより圧倒的だ。いくら《ベラ》を積んでも《ランク》を上げることはできない。《ランク》が高い者は《ベラ》を支払うことなく格別な好待遇が約束されている。《ランク》が低い者は《ランク》が高い者に通常、逆らわない。勝てないからだ。
「希望の園」をでた後は戦場で働くことになろうが、高位の《ランク》のものはその力を十全に発揮できる役職が与えられる。死の危険はあるだろうが、それさえ乗り越えれば安泰の生活が待ち受けている。
《ランク》を上げるには、より高位の《ランク》の者を蹴落とす必要がある。一部の特殊な《刻印者》を除き、《刻印者》は全員単独で戦う力を保持している。否、単独で戦うことができなければ、生きてはいけない。ちなみに戦う力を持たないが有用な力を持っていると判断された者は、別コースに配属されその中でしのぎを削る。
「希望の園」での《ランク》は十段階制。上から順に一級、二級、三級と続き九級までいき最後は十級。
一級に認定されるものは三名。二級は七名。三級からは人数がぐっと増え、六級あたりからまた減る。十級に認定される者は十名。総勢、五百人を超えるだろう《刻印者》の最底辺。最早、名前ではなく底辺と呼ばれるようになる。
「希望の園」はある程度は楽園だ。実力制とはいえ、死の危険がないのが良い。最底辺だろうが生きていけるだけ素晴らしい。この素晴らしさが分からないやつはこれまでの人生で大分、恵まれている。
で、「希望の園」はどこまでいっても天国へはつながっていない。
入居者達は限られた世界しか知らない。日々隣の者の足を引っ張り、上の者に縋り付き、牙を立て、弱者を踏み潰し、無視する。そうすることしか知らない。そうやって生きていく方法しか分からない。
それに何人たりとも、たとえ一級でさえ、「希望の園」を抜け出すことはできない。外の空気を吸うことは許されない。日光をみることもできない。無理なものは無理。そして「希望の園」をでたら、まず間違いなく戦場行きで、そこは恐らく激戦であって、そこで多くの者は死ぬ。
「希望の園」の入居者の道は悪趣味なまでに飾られていて、華々しい終わりへと繋がっているのだ。確定された死へと。笑えてしまう。
「希望の園」、入居者達は密やかに呼ぶ。
――――監獄、と。
とはいえ、私は「希望の園」で這いずって生きているような有様だ。楽園で這いずる気持ちはあんまり良くない。
ああ、そう、私、を紹介しよう。
名前・・・・・・とはいえ、これが親から与えられた名前なのか、それとも他の入居者と被らないようにてきとうに付けられた名前なのかも分からない、が、とりあえず名前。
名、ヴィォヴァント、識別番号、十/〇/〇/二八〇
女子。身長は一五二。男子とも思えるような短い黒髪、青が少し混じる黒目。一応今年で一五のはず。違うかもしれない。最後に笑ったのはいつか覚えていない。《刻印》の系統不明。能力不明。
絶対的最底辺。
それが私の全て――――私の全て。
……エピソード8,9に性癖が詰まっています………




