51.白馬の浮気男
アンネリース侯爵令嬢は、フェアフュアングに顔の痘痕を治してもらった令嬢の一人である。彼女はその時、フェアフュアングに恋をした。最初は、フェアフュアングは皇女殿下の婚約者ということで諦めようとしたが、どうしても諦めきれず、毎日泣いて暮らした。
しかし、そのうち、「正室は無理でも、側室にはなれるのではないか、側室がダメなら愛人にしてほしい」と思うようになった。それを父である侯爵に打ち明けたのだが
「そんな、ばかなことは考えずに、侯爵家を継いで婿を取れ」
と言われてまった。
この家には子供は私一人、侯爵家の存続のために私が結婚して子供を産まなければいけない。それは分かっているのだが、気持ちが付いて行かない。
そこで、こんな思いを再度父に投げかけた。すると侯爵も最近の娘の落ち込みようが堪えていたようで、娘の話を真剣に聞くことにした。
しかし、相手は皇女殿下の婿になる人。今の帝国では浮気はいけないことになっている。このような状況で、娘は日陰の身になる。子供を授かったとしても父親の名を公にはできない。生まれてきた孫も不憫である。せめて、フェアフュアングの側室になれば、娘も日陰の身でなくなり、大見えを切って孫を侯爵家の跡取りにできる。
親子で協議した結果、主人公がいろいろな令嬢と浮名を流す、そんな浮気自由な小説を書いて、帝国中に広めてはどうかという話になった。アンネリースは文章の才があるようで、これまでも、色々な小説を書いて、帝国中に売っていたのであった。これは、顔の痘痕が気になって、部屋から出ることが出来ない令嬢の唯一の楽しみであった。それで叶えられない思いを、小説の中で叶えていたのであった。これまでは、悲劇のヒロインを白馬の王子が迎えに来るといった定番の乙女小説を書いていたが、今回浮気男の物語が追加になった。
物語の題名は「白馬の浮気男」、容姿端麗な王子が、本来の身分を隠して冒険者として各国を回る。そして、行く先々で、窮地に陥った令嬢を救い、救った令嬢と恋に落ちる。そして、それらの令嬢をすべて妻にする。そして、幾人もの子供が生まれる。そして本来は、喧嘩したりいがみ合ったりする令嬢たちが、仲良くその冒険者と一緒に暮らすという物語である。その令嬢の中には王女も何人かいるし、商人の娘もいるし、貴族の娘もいる。令嬢の条件は、その冒険者に窮地を救ってもらったその一点だけ。
この物語が広まれば私もフェアフュアングの側室になれる。そんな思いが見え隠れるする。
アンネリースは猛烈な勢いで、この物語を書き始めた。何かに憑かれたように、昼も夜も寝る間も食事の時間も惜しんで、ただ一心に物語を書いている。フェアフュアングへの思いを込めて。この物語にはそんなアンネリースの思いが魔力を伴うことで、一つ新たなスキル、「物語による思い共有」が生まれた。このスキルは、物語を読む人に書いた人の思いが伝わり、読む人が書いた人の願いが叶うことを一緒になって願うというものである。
元々、乙女小説で多くの読者をかかえていたアンネリースの小説は、瞬く間に帝国中に広まった。アンネリースはこの小説に、一つの工夫を加えた。女性だけでなく、男性にもうけるように、男女の絡みシーンも入れたのである。自分がフェアフュアングに抱かれることを想像して。これは男性にもうけた。そして、この小説は男女の別を問わず帝国中に広まった。
父親である侯爵も、そんな娘を、これまで抱えていた娘の書いた物語を書き写す人を増員して支えた。この世界にはまだ印刷の技術はなく物語は人が書き写していたので、物語を広めるには多くの人を必要とした。
そして、この物語は、宮殿の官吏やメイドにも読まれるようになり、当然、皇帝や皇女殿下の耳にも入った。一番堪えたのは母である皇妃がこの物語りの一番の読者になったことである。そして「フェアフュアングはいっぱい側室や愛人をかかえてもいいのじゃない」と言い出したことである。
「何とかして、神様、学院に行く前から、この様子ではフェアフュアングは私と結婚するまでにいったい何人の愛人をかかえることになるの。どうかフェアフュアングに変な虫が付きませんように」もう神頼みしかない皇女殿下であった。




