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8 分析の儀

ミラード開拓都市では、とある話題が持ち上がっていた。

ある市民はこう言う。

「城壁内の施設に無駄が無くなったのは、殆どロイ様の考えだから、当然と言えば当然じゃないか?」

別の市民はこう言う。

「それに老朽化した築城時代の道具屋街の改築工事計画を立てたのはロイ様だしな」

非番の兵士はこう言う。

「ロイ様は城壁のバリスタをまた改造したぞ」

休日の文官はこう言う。

「遺伝が大きいと聞いてはいるが、それよりも実績が勝ったってことじゃないか?」

昼から酒を片手にした市民はこう言う。

「長男のアーサー様は将軍だったよな?次男のダニエル様ももしかしたら将軍かも知れねぇ。将軍3兄弟なんて出来ちまったら他所から何か変なちょっかいでも掛けられるかも知れねぇ、これは神の差配ってやつじゃねぇか?」

老人はこう言う。

「適性や職業だけで人は変わらん。ロイ様はロイ様だ」


先日行われた10歳の子供を対象とした、分析の儀。

そこでロイの適性が判明した。


クラフター


物作り職業全般を総称する適性である。

当然、クラフターはロイだけではない。

クラフターは一般的な適性だからだ。

市民の間では、ロイの今までの行動が当たり前に見られることから、納得する者も多かった。

しかし、父親のジブ・ミラードは別の不安を抱いていた。

自分は、適性がジェネラル、職業が将軍。

妻アンナは、適性がオフィサー、職業が参謀。

長男は、適性がジェネラル、昨年の祝福の儀で職業が将軍と判明した。

次男は、適性がジェネラル、今年の祝福の儀を待つ状態。

王都の貴族界では、話題になっている。

ミラード開拓都市に有史以来の2人目となる、生まれながらの将軍がいる。

次男も同じではないか。

実際、国外にある教会本部も高位の聖職者を派遣し、その事実を確認した。

その話題は周辺諸国にまで広がりつつあった。

底辺国家とされていたスイール王国に、上級職である将軍が2人もいる。

そして、将軍が3人になる可能性も噂されているのだ。

これはスイール国民の知るところではないが、貴族界では派閥が囲い込みの為に水面下で動いている。

当事者のジブはその真っただ中にいるからこそ、その実情を知っている。

現在の所、ジブはどこかの派閥にいる訳では無い。

大臣が率先して囲い込みの動きを封じているからである。

大臣の動きは、自身の派閥への囲い込みを有利にするためではない。

大臣は密命を受けているからだ。

しかし、その密命には、国王派も同様に封じよ、と言うものであった。

国王の思惑を理解できないまま、大臣は密命を遂行している。


そんな状況下で、次男のダニエルが祝福の儀により、職業が戦略家であることが判明する。

戦略家は将軍に比べると、認知度が低い。

能力としてはオフィサー適性の参謀に近いものとされるが、戦場を更に詳細かつ広範囲に把握するものである。

そしてダニエル自身の剣術などは、魔境侵攻部隊に後れを取らない程度の十分な戦力を持っていた。

戦える戦略家。

ただ、戦略を立てるだけではないダニエルの存在は、下級兵たちに至るまで実力を考慮したものであり、数少ない既存の戦略家とは一線を画す存在であった。


ジブは言葉にはしないが、表情を汲み取ったロイは、決めたことがある。

「全てにおいて最大限の全力をもってして努力をする」

机上の空論とも言えることを実施すると決めたのだ。


鍛錬も全力。

勉学も全力。

食事も全力。

睡眠も全力。


ジブは当初、長続きしないと思っていた。

1ヵ月、半年、1年。

ロイは淡々と全力を尽くしていた。

最大値を継続し続けているのだ。

それは鍛錬の指導をしている兵士も理解していた。

魔境侵攻部隊長も知ることになり、目下討伐よりも、モンスターの無傷での捕獲に部隊全体で優先的に当たっている。

捕獲されたモンスターは、城壁外近くでロイの鍛錬の的となっており、日に日にモンスターは脅威度を増し、魔境侵攻部隊以外も協力して、更に脅威度の高いモンスターの捕獲に全力を尽くしている。


ジブは本屋の店主を屋敷へ招き、本屋にも書庫にも無い本を収集する様、大金を払った。

本屋の店主は、ロイの本を読むことを十分に理解している。

過去に読み終えた本の内容をわざと間違えて説明し、都度訂正されているからである。

ロイは暗記のみならず、内容の真偽も出来ていた。

要約本の解釈の間違えや、写本自体の理論の矛盾点、問題点、そして結論に至るまで。

本屋の店主は現在、赤字になっていることに気付かぬまま、本の仕入れに精を出している。


ジブの不安は期待へと変わりつつあった。

家族のみならず、文官達からも意見が上がっているからだ。

発明家、兵器職人、クラフターの適性から生まれる職業を次々に調べ上げている。

市民たちはロイの姿を見る機会は減ったが、飲食店に出入りする文官や兵士たちが話す内容からそれらを聞いていた。

実際に訓練場でロイを見学する市民もおり、有事を想定した訓練で兵站補助を担う一部の市民や戦闘奴隷はロイの城壁外で行われるモンスター戦を何度か目にしている。


ミラード開拓都市はロイに対する期待が広がっていた。

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