9 祝福の儀
ミラード開拓都市の一部では、朝から行列が出来ていた。
教会による、祝福の儀が行われる日だからだ。
市民は勿論、奴隷の子供も同じ列に並んでいる。
そんな行列にロイは並んでいない。
父親のジブと、教会長の考えから、最後とされているからだ。
ロイは分析の儀から5年間、最大値を維持し続けると言う生活をして来た。
ジブにとってもはや不安は無いのだが、何の職業が発現するかは分からないこと、万が一のことを想定して、進行を滞らせないために最後としたのだった。
「やったー!戦士だー!」
1人の奴隷の子が片親を伴って、教会から出て行く。
祝福の儀は、成人の儀でもある。
並んでいるのは子供だが、教会から出れば大人として扱われる。
「良かったわね、これで夢の兵学校の試験を受けられるわね」
儀式では片親しか教会に入れない。
教会の大きさの問題である。
外の広場では、親戚一同が待機している。
一般的に戦士になった者は冒険者になるのだが、ミラード開拓都市では、兵士の方が倍率が圧倒的に高い。
他都市では、兵士は防衛戦を主体とし、冒険者が狩りに出て戦果を独占する、と言う構図が一般的なのだ。
ただ、ミラード開拓都市の常備兵は基本的に攻めることしかしない。
たまに夜間の迎撃戦をする程度である。
防衛陣地の構築・更新は勿論行われているが、築城時代に何度か稼働した程度だ。
他都市で名を馳せる冒険者も、ここでは中級兵程度だったりする。
当然、他都市同様に冒険者ギルドは存在する。
が、現在、冒険者の登録者は0であり、素材の採取、モンスターの解体、運搬などを主とする、探索者が数名登録しているだけである。
無論、探索者は重要な存在ではある。
薬草の状態判別や扱い等、薬師にとって重要な所を熟知した専門家たちである。
ただ、ミラード開拓都市における冒険者ギルドは戦力として考慮されていない。
「昼食を終えたら出掛けるか」
ジブはロイに声を掛ける。
「はい父上」
ジブとロイは屋敷を出、教会へと向かう。
道中の市民の賑わいは大きかった。
盛大に飲食店を利用する者、自宅で祝うために料理を持ち帰る者、それらを祝福する飲食店や、関係は無いが祝いの言葉を上げる宿屋の従業員たち、市民の顔は明るいものだった。
教会前についたジブとロイは、短くなった行列の最後尾に並ぶ。
当然、並んでいた親子は、ジブの存在に気付き、列から外れようとする。
教会の聖職者がその動きを制しながら、男爵様は最後ですので、と言いながら、列を元に戻す。
教会の中には既に数人の文官が待機している。
その内の何人かは、職場放棄している者も混ざっている。
「おや、これで最後なのですね」
教会長は流れ作業の如く続けていた祝福の儀を、ジブの顔を見ることによって気付く。
「教会長、休憩を挟んでも良いが」
「それでは、水を飲む時間を」
教会長も、この大事な瞬間に備えて脇に移動した公演台で水を一口飲む。
「では、祝福の儀を行います」
教会長は祝福の言葉と文言を述べ、プレートを出現させる。
「……ん?」
教会長は手にしていた本をめくり始める。
「しばしお待ちを」
手にしていた本をめくり続けては目次を確認する。
「あ、いや、もうしばしお待ちを」
教会長は態勢を変えず、脇に移動した公演台に手を伸ばし、別の本をめくり始める。
再度、本をめくっては目次を確認している。
「ん?え、あ、ちょ、もうしばしお待ちを」
教会長はまた別の本ではなく、冊子を手にし、ページを精査するように指でなぞり、めくっていく。
教会長が最初に手にしていたのは、一般的な職業の詳細を記した本である。
2冊目はロイの為に手配した、クラフターの職業専門の本である。
今まさに手にしている冊子は、詳細不明とされている職業の一覧冊子である。
ジブは、万が一が起こったと感じているが、教会長的にはその万が一に備えられなかった顔をしている。
出てくるのが遅いことを気にした市民数名が教会に入って来ていた、その時
「載っていない……」
そう呟いた。
「ど、どういうことかね?」
ジブは教会長に詰め寄り、プレートを見る。
祝福の儀では、名前と職業のみが表示される。
シンプルな表示の為、ジブにもそれがロイのモノとすぐに理解した。
理解したが、職業は理解できていない。
「これは何なのだ?」
「せ、説明が、出来ません」
ざわつき始める教会内部だが、教会長の異変を察知した聖職者が動きだす。
「これより協議を行いますので、関係者様以外は教会の外でお待ちください!」
文官達も聖職者たちに寄って、外へと案内され、聖職者たち自身も教会から出る。
その事態は、教会前から広場へ、広場から街全体へと囁かれた。
「教会長、もう一度、祝福を行ってくれないか」
「祝福は、人の一生で一度しか出来ませんので、確認を行います」
教会長、ジブ、ロイは、教会の執務室に来ていた。
「それで構わない」
教会長はロイを向かいに座らせ、ジブは教会長の横に座った。
「汝の置かれし、状況を表したまえ。確認」
「……やはりこれか。教会長、他の本は無いのか?」
「こちらに」
教会長は執務机に置かれた本を開く。
念の為、こちらも慎重に精査し始める。
それを横から覗き込むジブ。
その本は、長男のアーサーが将軍の職業が発現した時に、教会本部の高位聖職者が持ってきた、ジェネラルの職業専門の本である。
「あの、何の職業なのでしょうか?」
「ロイは座っていなさい!」
立ち上がろうとするロイをジブは声量で制する。
ロイを見ようともせず、さっき見た本を再び指をなぞりながら精査する教会長とジブ。
なぞってはめくり、なぞってはめくる。
教会長とジブは本を交換し、二重チェックを行う。
詳細不明とされている職業の一覧冊子も二人同時に再確認する。
結論。
「「…載っていない…」」
「載っていない?つまり、未確認の職業なのですか?!」
ロイ自身も職業についてはよく知っている方だ。
伝記などでは、希少な職業なども存在することを知っている。
実在はしないが、神話として語られる職業も知っている。
それらに該当するかも知れない、と言うロイの好奇心は踊っていた。
「教会長、では、これに転職させてくれ」
「男爵様、転職は一定の条件を満たさなければ出来ないのです。それに祝福の儀では、複数の職業が発現することも確かにありますが、職業として設定されるのはその中で最も高位のものとされます。祝福直後の転職は……汝の携わりし、人の理の貢献を示したまえ……やはり出来ません」
「そんな。ではこの職業は意味も詳細も分からんが、これよりも高位と言うことになるのか?!」
「そう、判断せざるを得ません」
ロイの好奇心は止めきれず、ジブの制止を破った。
「他の職業とは何なのでしょうか!」
教会長はプレートを反転させることはせず、それを消した。
その内容を口にしたのは、ジブであった。
「ロイの適性はクラフターではあるが、戦士、剣士があった。他に、城塞設計士、都市設計士、工芸職人、兵器職人、発明家。教会長、後は、何があったか……」
頭を抱えるジブ。
「後は、ダニエル様と同様に戦略家がありましたね」
「兄上と同じですか?!」
ロイは素直に喜んだ。
ロイの適性は確かにクラフターであることが再確認されたが、異例ではあるが他の適性職業が発現していた。
それらの中でも特に目立つ職業だけが口にされた、が、実際はその倍は選択職業として確認されている。
「それらよりも高位として発現した職業は、未確認の職業!と言うことですね?!父上それ……」
「ロイ。先に帰っていなさい。私は教会長と別の本を確認し、再精査する」
ジブはここで初めて嘘を吐いた。
ロイはジブの真剣な眼差し、兄のアーサーから聞く、戦場での表情を思わせるその顔に、従う以外の選択肢は出てこなかった。
「教会長、私は、馬鹿、だが、馬鹿なりに誠実に生きてきたつもりだ」
「男爵様……」
「家族には誤魔化しや、話題を逸らすことなどはしていたが、嘘は吐かないようにしてきたつもりだ」
「……」
「だが、私はさっき、明確に嘘を言った。これは優しさなどと言う物ではない、混乱から無理に出したものだ」
「この状況では、誰しもそうなるでしょう……」
「優しさ、いや、体面、体裁かも知れんが、私は、俺は、息子を晒し物にはしたくないんだ」
「男爵様、重責ではありますが、私も聖職者としての立場を危うくしてでも、その責の一端を担う覚悟が御座います。ロイ様の幸運値は老齢の人格者を超える値です。高位の聖職者、いえ、聖女とされる存在にも及ぶものと考えます。ロイ様を見続けて来たからこそ、そんな人間に、成人したばかりのロイ様に、この都市に住まう全ての人に、現実を突き付けることは出来ません」
教会長の言葉に、ゆっくりとジブは立ち上がり、思案の顔ではなく、決意の表情を向ける。
「教会長。俺は敢えて酷な道を行こうと思う」
「聖職者には人の懺悔を黙する義務があります。私もその道を歩ませて下さい」
教会長はジブの手を取り、強く握る、そして通常とは異なる形の「偽善の聖職者」になることを決意した。
ロイの職業「夢想家」
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